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[コラム] 紅葉から- 謎の歌人と謎の歌 - シロクマ文芸部
紅葉から連想するものは数多くあるけれど、私がまっさきに思い浮かべるものはこれである。
奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の
声きく時ぞ秋は悲しき
百人一首でも馴染みのある猿丸太夫の歌です。
◎奥山に…
言葉のままにすっと情景が入って来る、時空がそのまま閉じ込められたような歌で、私の好きな歌のひとつでもあります。
美しい秋の情景を目の前にして悲しみを感じている。
猿丸太夫は、三十六歌仙のひとりとされ、すぐれた歌人とされています。
だけれども、その素性はよくわかっていません。
生没年不明だし、明確に作者として確定している歌も実はないのです。
歌仙なのにそんなことってある??
実在が怪しまれるほどに謎に満ちた伝説の歌人なのです。
少なくとも古今和歌集のころには過去の歌人だったぽいので、軽く千年以上前の人であることは確実です。
それくらい時間が経つと、周知の事実も失われてしまうのですね。
そんな猿丸太夫のことを加味してもう一度、歌を読んでみましょう。
奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の
声きく時ぞ秋は悲しき
この歌も実は猿丸太夫のものかわからんらしいのだけど、これを猿丸太夫の歌とした意図が何かしらあると思うのです。
なんだけど、その意味は失われてしまいました。
◎秋と鹿
猿丸太夫の歌を読むと、思い浮かべるものが二つあります。
そのうちのひとつはこれです。
![](https://assets.st-note.com/img/1731076680-10Kx3CGYU8nS4HDBpteEvb57.jpg?width=1200)
花札の鹿。
絵の鹿がぷいっと横を向いているので「シカト」の語源となったと言われていたりします。
なぜ秋に鹿なのかというと、秋は鹿の発情期です。
オスの鹿がメスを求めて甲高い声で鳴きます。「奥山に…」の歌はその声を詠っているんですね。
それを知ると、なぜ悲しいのかちょっと想像できると思います。
ちなみに、私は森の中で鹿に遭遇したことがあります。
いきなり鹿がいると神かと思います。
![](https://assets.st-note.com/img/1731076708-XQ2txjBHYpbu6m4MGec1aLWJ.jpg?width=1200)
鹿が神格化されるのはとても実感として理解できました。
◎いろは歌の衝撃
もうひとつ「奥山に…」の歌から連想するものがあります。
いろはにほへと
ちりぬるをわか
よたれそつねな
らむうゐのおく
やまけふこえて
あさきゆめみし
ゑひもせす
いろは歌です。
これ、もんのすごく、ものすごいものだって知ってました?
これが歌になってるって知らない人もいるかもしれません。
実は、こんな歌なんです。
色は匂へど散りぬるを
我が世誰ぞ常ならむ
有為の奥山今日越えて
浅き夢見し酔ひもせず
(大意)
色鮮やかな花や紅葉はやがって散ってしまう。
この世でいったい何が永遠であろうか。
この世のしがらみを今日超えて、
浅い夢も見ず、酔いもしないで。
これは、実は仏教の教えを詠っているのだと言われています。
諸行無常:森羅万象は常に流動的である
是生滅法:あらゆるものは不変ではなく生滅する
生滅滅已:現世を超えて涅槃に至る
寂滅為楽:煩悩を捨て生死を超越することは喜びである
…「いろは歌」がとんでもない代物であることが解ってきたでしょうか。
これ、ただの仏教の教えを詠った歌ではないんですよ。
「いろは」って何でしたっけ??
手習い歌です。
一昔前には「あいうえお」の代わりに使っていたものです。
つまりどういうことかというと、「いろは歌」は、すべてのひらがなを、1回だけ使って作られた歌なのです。
こういうのをパングラムって言います。
◎普通パングラムって言ったら…
我々は「いろは歌」に馴染みすぎて、これがどれほどやべー歌か気が付きにくくなっています。
パングラムは、他の言語にも存在します。
例えば英語の有名なパングラムはこんな感じ。
The quick brown fox jumps over the lazy dog
素早い茶色の狐はのろまな犬を飛び越える
パングラムなんて、だいたいこんなもんですよ。
意味のある文章が作れるだけでもすごいんです。
で、もう一度「いろは歌」を読んでみてください。
色は匂へど散りぬるを
我が世誰ぞ常ならむ
有為の奥山今日越えて
浅き夢見し酔ひもせず
これはやばい。
日本語はパングラムに向いているとは言え、どうしてこんなもの作れるんだ。
どんだけ天才なん。神なのか???
って思うわけですよ。
でも、「いろは歌」は作者不明なんです。
こんな超人的な技を持った詠み人が、不明なんです。
これはね、絶対訳ありです。
ちなみに、「いろは歌」には暗号が隠されているとよく言われますね。
「咎なくて死す」とかね。
それを語っている時間は今日はないので、気になる人は調べてみてね。
◎パングラム、他にもあるよ
日本語はパングラムが作りやすい言語だと思います。
いろは歌にもいろいろあるんですよ。
その中でも私の好きなやつはこれです。
あめつちの歌
あめ つち ほし そら
やま かは みね たに
くも きり むろ こけ
ひと いぬ うへ すゑ
ゆわ さる おふせよ
えのえを なれゐて
平安時代に作られたと言われています。
漢字で表すと以下のとおりです。
天 地 星 空
山 川 峰 谷
雲 霧 室 苔
人 犬 上 末
硫黄 猿 生ふ為よ
榎の枝を 馴れ居て
なんか詠唱っぽくてかっこよいのです。
術が発動しちゃいそうな。
しかも、この最後の「おふせよ えのえを なれゐて」の部分は意味不明で解読不能だそうです。
この流れでここに意味のない言葉を並べることはないと思うので、何らかの意味があるのでしょう。
が、その意味は失われてしまいました。
もしかしたら、長い年月をかけて伝言ゲームみたいに言葉が変わってしまった可能性もあるかもしれません。
でも呪文みたいでよいでしょう?
実は世界をひっくり返すような秘密を言ってたりして~とか妄想狂の私は考えるのです。
そんで、とうとう歌にしちゃいました。
歌詞はこんな感じです。
『処処啼鳥 夜来風雨』
裏の解
いろは あめ つち ほし そら くも きり
あしは ちか てつ ひと いぬ ゆわ さる
処処啼鳥 夜来風雨
処処啼鳥 夜来風雨
空を割れよ
裏の解
おふせよ えのえを なれゐて
結構ロックな曲です。
ぜひ聞いてみてください。
ライブでもよくやってるのですが、私はこれまで数えきれないほど「おふせよ えのえを なれゐて」と唱えてきました。
自分でも何を唱えちゃってるのかなーあははぁ~と思っています。
なお、「処処啼鳥 夜来風雨」は漢詩「春暁」からの抜粋です。
「春眠暁を覚えず」のやつです。
以上。今日はコラムを書いてみました。
時々「どういう頭の中してるの?」って言われるのですが、こんなことを混沌と支離滅裂と私は考えているです。
ではまた☆
小牧幸助さんの『シロクマ文芸部』に参加します。