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[ショートショート] インフルチェンジ - ウチの彼ピはインプレゾンビ [うたすと2]

※少々グロホラーです。

 私は路地で暮らしている。

 薄汚いドブネズミみたいな私のお仕事は “インフルエンサー” だ。

 なぜ私のようなゴミ人間がインフルエンサーになれたのか、きっと信じてはもらえないのだろうけど、彼との出会いがきっかけだった。

 彼はある日突然現れた。

 この世にインフルエンサーを育むためにやって来たのだと彼は説明した。

 そして、私にひとつのスマホを手渡すと、まずは万バズを目指すのだと言った。

 こんな馬鹿げた話を信じるような私ではなかったのだけど、何しろ彼はイケメンだった。そもそも私が破滅した理由がホスト狂いだったのだから、イケメンに弱いことは否めない。イケメンに頼まれたら断れないのだ私は。

 スマホの中にはインフルチェンジというアプリが入っていて、それを起動すると私は好みの姿のインフルエンサーに変身することができた。

 投稿がバズり報酬が発生するとご褒美に彼と会うことができた。私が得た収入は全て彼に持っていかれるのだけど、その収入も全て彼のおかげなので、私は特に不満には思っていなかった。

 それより彼に会いたかった。

 私が初めて万バズを記録した時には、焼き肉に連れて行ってもらった。これまで一度も食べたこともないような高級なお肉だった。

 私は報酬が上がれば彼とデートがでできるのだと知り、必死でインフルエンサーを頑張った。

 そして、定期的に万バズするようになったころ、私は気がついてしまった。

 私に群がるインプ稼ぎの中にどうやら彼がいる。

 どうして解ったのか…それは勘としか言えない。

 私はこっそり彼のアカウントの観察を始めた。

 するとどうだろう。彼は片っ端からバズってる投稿をシェアしたり、コメしたりしているではないか。

 しかも、港区女子を名乗るアカウントに対して頻繁にコメしていることがわかった。もう鬼リプの域である。

 私は嫉妬に燃えた。この港区女子がどこのドイツか知らないが、きっと私みたいなゴミ人間に決まっている。

 彼は騙されている。本当に彼を愛しているのは私だけなのに。

 それから私は、普段はファーストフード店の残飯を漁りながらも必死で万バズを目指した。

 そしてついに彼と一夜を共にする権利を勝ち取った。

 私はインフルチェンジで煌びやかな姿に変身すると彼の元へと向かった。

 待ち合わせ場所に着くと、そのままホテルに直行し、服を脱がされ彼に抱かれた。

「ねえ、あの港区女子は誰なの?」

 彼が絶頂に達する寸前に私は尋ねた。

「何の話?」

 イキながら彼は言った。

「あの港区女よ」

 離れようとした彼を両足で挟んで押さえつけると、私は彼の首に噛みついた。
 口の中に流れ込んで来た彼の血液を私は飲み込んだ。

 その瞬間、彼の背中から真っ黒で歪な薄汚い羽がバリバリと生えてきた。

 同時に私も背中に猛烈な痒みを感じた。私は彼を押し退けるとベッドから転げ落ちた。

 メリメリメリッと音がした。天井に備え付けられた鏡を見上げると私の背中にもおぞましい翼が生えていた。

「これは驚いた」

 彼が私を見下ろしながら言った。

「ただのドブネズミだと思っていたら…」

 私は彼が何を言っているのか解らなかったが、本能的に攻撃対象だと察知し彼に飛びかかった。

 私は驚くほど早くそして力強く動けた。

 あっという間に彼を押し倒すと、再び首筋に噛みつき肉を噛み切った。

 彼の肉はこれまで食べさせてもらったどの肉よりも美味かった。
 私はヤケクソになって彼の肉を貪り食った。

「私を騙したのね。弁護士をつけるわ」

 私は言いながら夢中で彼の肉を食べた。

 私は血まみれのシーツを見ると我に返り、震えながらホテルの部屋から飛び出した。

 そして非常口から外に出ると、背中の翼を使って空へと逃げた。
 初めての飛行だったがうまく飛べた。素っ裸だったが気にはならなかった。

 私はいつもの寝ぐらに戻ると、全てを忘れるために眠りについた。

 翌朝目覚めると背中の翼は消えていた。全裸だったのでいつものボロボロの服を来た。

 これから私はどうなるのだろうと思いながら寝ぐらから出ると、彼がそこに立っていた。

「なぜ…」

 私は驚いて思わず声を出した。昨夜だいぶ彼の肉を食べてしまったので生きてるとは思いもしなかったのだ。

「死んだかと思ったんだろう? 残念だったな。世間で俺たちのことを何と呼ぶか知っているのか?」

 私は首を横に振った。

「インプレゾンビだよ。俺たちは死なない。何度でも復活する。そして育てるのだ。インプ稼ぎをしてくれるインフルエンサーを」

 彼は私の手を取るとさらにこう続けた。

「お前がこんなに化けるとはな。あんなことされたのは初めてだった。久々にたぎったぞ」

 彼に体を引き寄せられても私は抵抗できなかった。だってやっぱりイケメンだったから。

 そして思った。これは合理的な自給自足だ。

「一緒にてっぺん目指そうぜ」

 彼にそう言われると、私の背中からまたあの気色悪い翼がメリメリと生えてきた。

 ゾンビってこんなだっけ?と思ったがどうでもよかった。

 私は彼と共に天下を取るのだ。インプレゾンビとして。

(おしまい)


うたすと2課題曲『ウチの彼ピはインプレゾンビ』から着想を得て物語を書きました。

物語を読んでから聞くとちょっと怖いと思います。

↓作詞:たらはかに(田原にか)さんのページ

↓作曲:soundwsさんのページ

ぶっとんだ歌詞にかっこよい曲。最高です。
魔改造したい熱あります。

▽『うたすと2』募集要項など詳しくはこちら!!!


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