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[ショートショート] 流星群ラララ シロクマ文芸部

 流れ星を見ると心の奥がチクりとする。

 あれは僕が十八の時だ。

 階段から滑り落ちるように僕は未来都市へと迷い込んでしまった。

 そこでレンカと出会った。

 レンカはショートヘアがよく似合う格好良いひとだった。

 レンカは迷子の僕に居場所をくれた。

 レンカは今で言うジャーナリストのような仕事をしていた。特殊な機械を持っていて何でも調べてくれた。
 それで彼女は自分の仕事で忙しいのに、僕が元の時代に帰れる方法をいろいろ調べてくれた。

 レンカは未来の世界を僕にいろいろ見せてくれた。

 僕が彼女に恋をしてしまうのは時間の問題だった。

 レンカは僕よりずっと年上だったから、僕のことを男としては見てくれないことはわかっていた。
 それに、彼女は仕事場には決して僕を連れて行かなかったので、そこで彼女が何をしているのか、誰と会っているのかは僕にはわからなかった。

 恋人がいるのかどうかも…。

 僕は留守番の間にこっそりレンカのベッドに潜り込んでは彼女の香りを嗅いでいた。

 レンカの布団からは花のような甘い香りがした。

 満たされない欲望は膨れ上がって僕ははち切れそうだった。

 このままでは僕は間違いを起こすと感じていた。

 だからレンカが帰らないある夜、彼女から預かっていたクレジットを使って僕は女の人を買った。

 それで僕の性欲は満たされたが虚しさだけが残った。
 僕の欲望は落ち着くどころか余計にひどくなってしまった。

 僕はレンカを抱きたかった。

 だから何度も女の人を買った。

 やがて預かっていたクレジットが底をつき、何に使ったのかとレンカに問い詰められた。

 僕は正直に話した。

 するとレンカは、だったら私を抱けばいい、と言った。

 僕はレンカを抱いた。

 むせかえるような花の香りに僕は溺れた。

 僕はうまくできなかった。

 気にすることはないとレンカは慰めてくれたが、僕はどうしようもない自己嫌悪に苛まれていた。

 あれほど手に入れたかったものを目の前にして、僕は怖気付いたのだ。

 僕はレンカの元をしばらく離れたくて、その夜、一人で闇雲に電車に乗って街を離れた。

 どこだかわからないが僕は山の上にいた。

 夜空一面の星だった。

 この時代でもちゃんと星が見えるのかと感動した。

 星を見ていたら僕の悩みなんぞちっぽけなものと思えてきた。

 レンカに会いたいと思った。

 今度はちゃんと彼女に愛を伝えようと思った。

 その瞬間、流れ星がひとつ流れた。それを合図に連続していくつもの流れ星が空を走った。

 流星群だ。

 信じられないほどの流星が走り抜けて行った。
 空を覆い尽くすほどに。

 いくら何でも多過ぎだろう…と思ったと同時に僕は元の時代へと帰っていた。

 僕はレンカと会えずに戻って来てしまった。

 僕は絶望した。

 自ら命を絶とうとしたことも何度かあった。
 だけれども、その度に僕の中に残るレンカに生きろと言われているような気がして思いとどまった。

 何人かの女性と交際したがいずれも長続きしなかった。

 僕は無意識に彼女たちとレンカを比べていた。

 そんな自分が嫌だった。

 こうして僕は君と出会った。

 君はレンカと瓜二つだった。

 僕は君に恋をした。

 君の中にレンカを見ていた。

 君の胸に顔をうずめると花の香りがした。

 自分がどれほどのクズなのかは自覚しているつもりだ。

 僕は君をレンカの代わりにしている。

 だけどね。最近思うんだ。

 レンカは君と僕の、遠い未来の子孫だったんじゃないのかなって。

(おしまい)

★この物語は青央さんの楽曲に私が詩をつけた『流星群ラララ』を元に書きました

3つのバージョンがあります。
物語のエンディングとしてお聞きください。

△こちらの菊さんバージョンが今回の物語に一番ハマると思います。


△青央さんご本人が歌ってくれたバージョン


△私バージョン

『流星群ラララ』

閉ざされた時の向こう
花の香りだけを残して
君は ほら 夢の向こうに消えてゆく

虚ろな影たち
戸惑いさえ飲み込んで

新しい夜が落ち
過ちは過去に流れて
ぼくはまたひとりの道を歩く

ぼくの眼の中
流れ落ちる流星群


小牧幸助さんの『シロクマ文芸部』に参加します。



お題が「流れ星」だったので曲から物語書いてみました。

そうそう、今度、曲から物語を書く企画をPJさんたちと一緒にやります。
※開催時期はまだ未定

うたすと2 です!!

6人のメンバーが集まって、企画用のオリジナル曲を書き下ろします。

まだお披露目はできないのですが、実は八神夜宵さん作詞、私作曲で1曲完成しています!!!

乞うご期待!!!

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