[ショートショート] シェーン、カムバック:バンドを組む残像&インドを編む山荘
破壊された街を歩く。思い出の街だ。
襲撃を受けてから68時間。まだ生存者はいるはずだ。
それからアレの生き残りも。
街の中心部に差し掛かると崩壊を免れた壁に巨大な絵が描かれていた。
ギターを持ち歌っている男の肖像が。
“シェーンは俺たちの中で生きてる”
そう言葉が添えられていた。
シェーン…。俺が最も愛した男。“THE LODGE EDITS INDIA” のボーカルだ。
彼の歌声は崩壊する世界に響き渡り、そして人々を勇気づけた。
だけれども彼はもういない。
こんなことならあのとき奴の誘いに乗っておけばよかったと俺は後悔の念に苛まれる。
「だったらお前がベースを弾いてくれよ」
シェーンが俺に向かって言ったシーンは残像となって何度もフラッシュバックする。
俺がYESと言うにはシェーンはあまりにも眩しすぎた。
俺はシェーンの絵に背を向けて生存者を探し続ける。
だれか一人でもいい。生きていてほしい。こんなクソみたいな世界でも、生きていてほしいんだ。
そのとき視界の片隅で光が反射した。
視線の先に少年が見えた。手にガラスを持ってこちらに合図を送っていた。
少年は声が出ないほどに憔悴しきっていた。
俺に抱き上げられると少年は驚いた表情になった。
「zzopのベース? すごい…僕ファンだったんだ」
ほっとしたのか、それで少年は意識失った。俺は彼を背負い自分にくくりつけた。
嫌な音がしたので振り向くと、目の前にアレがいた。
ぬるぬるとした半透明の身体に十本の触手。こいつはこれで人類の全てをぶち壊したのだ。
俺は持っていた散弾銃を構えると奴に向かってぶっ放した。
冗談じゃねぇ。俺は取り戻すんだ。誰もが自由に生きられる世界を。
シェーンみたいな奴が自由に歌っていられる世界を。
(つづきません)
(734文字)
たらはかに(田原にか)さんの『毎週ショートショートnote』に参加します。
文字数が倍になってしまうので、どうしようか悩みましたが、思いついてしまったので、今回のお題で逆噴射小説大賞の予行練習させていただきました。
「バンドを組む残像」「インドを編む山荘」の両方のテーマを使いました。
文字数オーバーですみません。
逆噴射小説大賞とは、冒頭の800文字でどれだけパルプで面白いかを競う大会です。
10/1にレギュレーション発表ということでウォーミングアップ!!!
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