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[ショートショート] ぼんぞー is ..? [イメージ:二次創作]

くえすさん企画、動画作成プロジェクト「イメージ」の世界観をお借りして二次作書きました。

大学でさあや(ボーカル)がメンバーを集めて結成したバンドのお話。

キーボードのぼんぞーが変わり者ぽい謎のメンバーとなっていたので、その正体を妄想してみました。



ぼんぞー is ..?

 渋谷で買い物をしていたら遅くなってしまった。

 沙綾さあやは夜の渋谷が苦手だった。ちょっと怖いような。とても場違いなような気持ちになるからだ。

 速足で駅へと向かう。うつむいて歩いていたら、誰かに思い切りぶつかって、よろけた。

「ご、ごめんなさい!」

 沙綾はぶつかった相手の顔も見ないで頭を下げると逃げるようにその場から退散しようとした。
 怖い人だったらどうしよう…、ただそれだけ考えていた。

 だから、急に自分の名前を呼ばれてとても驚いてしまった。

「沙綾?」

 振り返ると、そこには幼馴染の凡造ぼんぞうが立っていた。

「凡造? 何してんの? こんなところで?」

 凡造はいつものぼさぼさ頭によれたシャツを着て、渋谷のど真ん中に突っ立っていた。
 場違さで言ったら沙綾より凡造の方がはるかに上だろう。

 大学のバンドに誘ってみたはいいけれど、なかなか練習にも来ないし神出鬼没なキーボーディスト。それが凡造だった。

「何って、今日、俺ライブだし。これから本番だからライブハウス戻るところ」

 言いながら凡造はすぐそこのビルの地下へと続く階段を指さした。

「ライブ…?」

 よく見ると、凡造はギターケースを背負っていた。

「…ギター弾くの?」

「いや、これベース」

「ベース?」

「俺、いちおうベーシストなんだけど」

「そうなの??」

 小さいころから一緒の凡造のことなら自分が一番よく知ってると思っていたのにショックだった。
 凡造がベースを弾いているところなんか今までに一度も見たことがない。
 凡造といえばピアノじゃないの?

「ライブって何時からなの?」

「え、出番は9時くらいだけど…」

「見たい! 今からでも入れる?」

 沙綾は自分がこんなことを言っていることが信じられなかった。

 …大丈夫私? ライブハウスにひとりで入るとか???

 でも凡造がどういう演奏をするのか好奇心に勝てなかった。バンドを掛け持ちしてるとは薄々知ってはいたけど、ベースだなんて聞いてないんだけどっ!!

 沙綾が食い下がるので凡造は困った表情をした。彼をバンドに誘った時もこんな顔をしていたっけ…。

「いや…入れるのは入れるんだけど、女の子が一人で来るような感じじゃないし…」

「大丈夫! 端っこの方でおとなしくしてるから!! お願い、お願い、お願い!!!」

「わかった…わかったよ…何があっても驚かないでよ」

 意味深なことを言いながら凡造は堪忍したのか、沙綾をライブハウスに案内してくれた。

 階段を降りて行くとポスターがベタベタ貼ってある黒い鉄の扉があった。そこを開けると、激しい音の洪水が沙綾に襲い掛かって来た。

 …まって、なにこれ…。

 それは沙綾がこれまでに聞いたこともない激しい音楽だった。

「大丈夫?」

 入口で固まってしまった沙綾の耳元に口を近づけて凡造が声を張り上げて言った。
 それでやっと聞き取れるくらいだ。
 沙綾は必死で首を縦に動かして大丈夫であることを彼に伝えた。

 凡造が受付のお姉さんに何かを話すと、沙綾はそのまま通された。

 入場料がどうなっているのかわからなかった。
 沙綾はこの爆音の中で会話するために声を出したら喉を傷めてしまうと思って、とりあえず凡造に全て任せることにした。

 会場はお客さんでぎゅうぎゅうだった。いかつい風貌の男性や、派手な化粧の女の子たちが多かった。

 沙綾は…ものすごく場違いだった。

「飲み物、取って来るけど」

 凡造が再び顔を近づけてきて言った。
 彼に飲みたいものを伝えようと口を開いたが声は出せそうもなかった。

 バッグから携帯を取り出して「コーラー」と打って彼に見せる。

 凡造は親指をぐっと持ち上げてにっこり笑うと、観客たちをかき分けて向こうの方へと行ってしまった。

 沙綾は必死で凡造の姿を目で追ったがすぐに見失ってしまった。絶対にここから動かない方がいい…。
 彼女はそう判断して、ライブハウスの端っこで固まっていた。

 ステージでは怖そうなバンドマンが激しい音楽を奏でていた。
 何を言っているのは全くわからないボーカルは、沙綾とは真逆の世界にいる人に見えた。

 でも、この人たちも音楽が好きでライブをしているのは同じなんだ…。そう思うと、恐怖心が少し薄れてきた。

 爆音に耳が慣れて来ると、彼らの演奏する音楽の秩序が聞き取れるようになり、それなりにかっこよさがわかる気がした。

 演奏されていた曲が唐突に終わり、ボーカルの人が次回のライブの告知など喋り出した。
 少し耳が休まり、沙綾はホッとした。

 …のもつかの間。

 会話が容易にできるこの隙をついて、何人かの柄の悪い男たちに沙綾は囲まれてしまった。

「この子、超かわいくない? なに? 誰見に来たの? ひとりなの?」

 男たちは下品な笑いをしながら話しかけてきた。沙綾は恐怖で固まって声を出すことができなかった。
 すっかり怯え切ったところで、凡造がコーラーを持って戻って来た。

「何してるの?」

 凡造が男たちに普通に話しかけたので沙綾はびっくりしてしまった。

 ダメダメ、やられちゃう!! あんた弱いんだから!!!

「あ、ぼんぞーさん」

 意外なことに男たちは凡造の知り合いだった様子で、急にヘコヘコしはじめた。

「この子、俺の連れなんだけど、慣れてないからガードしててくれない?」

 凡造がいつもの調子で男たちに言った。

「あ、はい、もちろんです」

 先ほどはあんなに怖かった男たちが、凡造の登場でたちまち忠犬のようになってしまった。
 沙綾は口をあんぐりあけて驚くことしかできなかった。

「俺の出番、このバンドの次だからもう行くね。危ないから下がって見てて」

 …危ないってどういうこと?

「あと、ライブ見ても俺のこと嫌いにならないでほしいな」

「…え、どういう…」

 このタイミングで、ステージ上のバンドが再び演奏を始めたので沙綾の声はかき消されてしまった。

 凡造はにっこり微笑むと、観客をかき分けてまた行ってしまった。

 沙綾は心ザワザワしたままで凡造の出番を待った。

 前のバンドのライブが終わり、入れ替えとなって凡造がベースを持ってステージに出て来ると、沙綾は再び口をあんぐりとあけた。

 ステージ上の凡造は眼鏡をとっていた。それはわかる。ステージで眼鏡を取る人は多い。

 で、腕まくりもしていた。ああ、きっとその方が弾きやすいのだろう…。

 だけどそこから見える腕には、びっしりとタトゥーが入っていたのだ。

 …えと、本物かな…。

 ベンベンベンベンとベースの弦をはじく音。

 ドンドンとバスドラの音。

 ジジジジジジとアンプのノイズ。

 凡造のバンドは、ベースとドラムとギターボーカルのスリーピースだった。

 ギターの人がスッと手を挙げると照明が落ちてライブが始まった。

 ギターの細かいリフから始まる演奏。
 続いてベースが入り、ドラムが入る。

 それを合図に観客たちが暴れ出した。

 凡造のバンドはさっきのバンドよりも、ずっと激しい音楽だった。

 だれどもすっきり聞こえる。ひとつひとつの音がクリアに聞こえるのだった。

 時々前方から人が吹っ飛んできたが、そのたびに、さっきの忠犬たちが押し戻して沙綾を守ってくれた。
 ガードするってこういうことだったのか…と沙綾は理解した。

 こういった音楽に詳しくない沙綾にもわかった。彼らはとてもうまい。そしてかっこよい。

 凡造のぼさぼさ頭も、よれよれのシャツも、とてつもなくかこっよく見えた。

 あんなに動いている凡造を見るのは初めてかもしれない。音に突き動かされるようにベースを弾いている。

 …なに? なんなの?? あんたなんなの??

 かっこよすぎでは??

 気が付けば沙綾も音に乗っていた。凡造の音に乗ってどこまでも行ける気がした。

 ライブはあっとゆうまに終わってしまった。もっと聞いていたかった。
 まるで魔法にかかったかのように、ステージの上の凡造が輝いて見えた。

 沙綾は茫然としながら手に持っていたコーラーを飲んだ。氷が融けて薄くなってしまっていたけれど、喉がやたらと乾いていて一気に飲んだ。

 イベントが終わったので観客たちは少しずつ帰って行った。

 どうしたらいいのか分からずキョロキョロしていると、凡造の忠犬が寄って来て「片付けたら出てくるそうなので、上で待っててとのことです」と教えてくれた。

 店から出て地上に出ると、異世界から帰って来たような気がした。
 店の周りには観客たちがまだたむろしていた。

 ライブの興奮がひたひたと広がっていた。ここにいる見知らぬ人たちとあの空間を共有していたのだと思うと、不思議な感じだった。

 しばらくすると凡造が店から出てきた。眼鏡をかけて、ステージで着ていたのとは別のヨレヨレのシャツを着ていた。

 凡造を見つけた何人かのファンらしき人達が彼を囲んで、口々にライブの興奮を伝えていた。
 沙綾も何度かライブの後に声をかけてもらったことはあるけれど、あんなに熱烈に言ってもらったことはないかも…と思った。

 ファンの中には女の人もいた。数人の女の子がまるで自分は凡造の彼女であるかのように振る舞い、腕を組んだり一緒に自撮りしたりキャーキャー言っていた。
 みんなとても派手な女の子だった。

 …まさか、凡造ってあんな感じの子が好きなのかな??

 沙綾は再び自分の場違いさを思い知って胸がギュッとなった。

 しばらくそうしてファンたちと戯れてから、凡造は彼らに別れを告げて沙綾の方へと歩いてきた。

「待たせたごめん、帰ろうか」

 まるっきりいつもの感じで凡造は言った。

 後ろの女の子たちから悲鳴があがる。

「えー? その子 ぼんぞーの彼女??」

 凡造は振り返ると「ちがうよ」と一言いって、そのまま歩き出した。

 沙綾は慌てて凡造の後を追った。女の子たちがコソコソ何か言っているのが聞こえてきたけれど、振り返る勇気はなかった。

「腹減ったな~。ラーメンでも食べてく?」

 駅へ向かう途中で凡造が言った。

 そういえば沙綾も夕食を食べていなかった。ぐう、とお腹がなった。

 二人でラーメン屋に入り、麺をすすった。

 凡造に何を話せばいいのか悩んだ。何か感想的なことを言ってあげないと…と思った。

「あ、あの、ライブかっこよかったよ。びっくりしたけど」

 ラーメンを食べる動きを止めて凡造がこちらを向いた。

「ほんと?」

「うん」

「ドン引きじゃなかった?」

 沙綾は首を振ってそれを否定した。

「タトゥー、本物?」

「あ、うん。高校卒業したタイミングで勢いで入れちゃって」

「高校の時もああゆう音楽やってたの?」

「うん。メンバー高校のやつだし」

「そうなんだ…知らなかった」

 沙綾は知らない間に凡造との間に距離ができてたことがちょっとショックだった。

「凡造がベース弾くなら、Rainbow▽Icecreamでもベース弾いてよ」

 沙綾がボーカルを務めるバンドRainbow▽Icecreamはベースの正式メンバーがいない。
 てっきり凡造は鍵盤の人かと思っていたから。

「いや、Rainbow▽Icecreamはベースよりキーボードが常に入ってた方がいいんじゃない? ベースいないときは俺、ベースラインも弾くし」

 確かにそうかもしれない。これまでそんなに気が付いてなかったけど、凡造は伴奏を弾きながらベースラインも弾けるのだ。
 誰もこの人の真のすごさに気が付いてない…。いや、たぶんドラムの友也は気が付いているかもしれない。

 それより何かと “変なやつ” 扱いされてしまう凡造のかっこよさを皆にも知ってほしいと思ったのだ。

 …まあ、私だけ知ってるってのもいいかもしれないけど。

「わかった。じゃあ、Rainbow▽Icecreamでは今までどおりで」

 凡造は頷いてラーメンの残りをすすった。

 それから何事もなく、普段どおりに二人は連れ立って家に帰った。

 家に帰ってから沙綾は凡造のバンドを検索して調べてみた。

 彼のバンドはインディーズデビューしていた。かっこつけたプロフィール写真が載っていて、まるで本人ではないようだった。

 スターじゃんww

 てか、梵zow ってwww

 本人が学校ではこの姿をさらしたくない様子だったので、沙綾は秘密にすることにした。
 いずれバレるかもしれないけれど、それまでは沙綾の秘密だ。

(おしまい)


くえすさんの動画作成プロジェクト「イメージ」

その世界観を拝借して二次作を書いてみました。

▽ソラノイロさんの物語も基にしました

凡造は、本編物語に登場する謎のキーボーディストです。
いちおうバンドメンバーっぽいのですが、いたりいなかったり。

眼鏡をかけているけど、眼鏡を取るとかわいい…という設定があって、これはギャップ萌えなのかな???と妄想を膨らまして書いてみました。

私の中で最大級のギャップ萌えにしてみました。

キーボードだとインパクトが弱めなので、思い切ってベース弾かせました。

魔改造枠ということでお願いします☆

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