終戦と地震と原発と
原発の町に生まれた。
祖父母の家までの道のり。
ガードレールの上に“原発反対”の看板。
保育園だったか小学校だったか。
発電所を見下ろせる施設に遠足に行く。
『原子力発電所はクリーンで安全』
模型や映像を見たり体験できるコーナー。
記憶が曖昧だが
「今日原発が危ないらしい。」
学校中、そんな噂で持ちきりの日があった。
彼と初めて実家に帰った時、懐かしい山々には風力発電の風車が立ち並び、海まで大きな音が降りてきた。
2人でいた浜は寒かったせいだけではないだろう、どこか不穏だった。
久しぶりに女店主のお店に行く。
ふと生まれた町の名前を出すと、
「こないだ初めて通ったけど、ものすごく風車が立ってて。あれはないですよね。」
と彼女。
私にとって受け入れ難い光景だと漏らすと
「そりゃそうですよ。」
若い私には窮屈な町だった。
どうしても浮いてしまう自分。
父を嫌い、都会に憧れた。
小さい山がたくさんある。
ほんの少し坂道を上るとお友達の家。
お寺の鐘の下でお花見。
墓地でのかくれんぼ。
公民館で毎夜練習した盆踊り。
父が櫓の上で太鼓を叩く。
秋祭りには“唐獅子”の妖艶な舞。
一目見ようと家を飛び出る。
晦日。餅つき機に入った餅米をつまみ食い。
元旦。家族全員でお屠蘇をまわし呑む。
嫌々ながらも思い出がたくさんある。
まだまだまだまだ、ある。
思い出せば思い出すほどに心が温かくなる。
生まれ育った町、というのは特別らしい。
壊れるのも壊されるのも見たくない。
終戦日、地震注意報、原発の町。
不安と焦燥感に頭をもたげる日々。
小川洋子の“密やかな結晶”を読了する。
ひとつずつ消滅する島の物語。
あの日の浜の光景がよみがえる。
現実に戻れず、しばらく街をふらついた。
風に吹き上げられたような雲。
淡い赤に染まっていく空。強すぎる風。
自転車を降りて歩いてみる。
自宅に戻り、起きたばかりの飼い猫を撫でていたら涙が出た。