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年を重ねた今だから言う。「若さへの嫉妬は醜い」

高校の時、3年間体育でお世話になった女性教師(当時30代前半)がいた。

服装などに全く構わず男みたいな風貌だったが、一見とても若々しく竹を割ったような性格ゆえ、比較的真面目な一般の生徒から割合人気があったが、ませた感じの一部の女子生徒からはかなり不評だった。なぜならその教師は女子生徒の風紀「だけ」にやけに厳格で、女子生徒が少しでもおしゃれしようものなら体罰も辞さないほど激しく叱責する事が日常茶飯事だったからだ。

私自身は当時おしゃれというものにあまり興味はなく、同級生のなかでも「ださい&クソ真面目」というレッテルを貼られ、呆れた友人が頼みもしないのに懇切丁寧におしゃれのレクチャーをしてくれる有様だったのでそのような叱責を受ける事はなかったのだが、常日頃からの言動がデリカシーに欠けるような気がしていたのでその教師をあまり好きにはなれなかった。

ところで、そんな彼女が保健体育の授業の度に耳がタコになるほど言っていた言葉がある。

「あんたたちは若くていいねえ。汗や水滴が水玉になって肌をコロコロと転がるくらい肌がぴちぴちできれいだ。私の年になると肌が衰えてくるから水を被ると肌をだらだらと流れ落ちるんだよ。あんたたちがうらやましいし妬ましいよ」

その時は「ふうん、そんなものか」と思ったし、教師と言う比較的上級の定職についた立派な社会人で、おまけに一児の母である人生の大先輩の彼女が本気で私達の若さを妬むことなんてありえないと思っていた。

けれども2年生の終業式の朝友人に勧められて髪をほどいて学校集会に参加した時、遠目で私を見た「彼女」がけげんな顔をし、そばにいた私の先輩に何か耳打ちをしたのを私は見逃さなかった。そして終業式の後先輩に聞かされたその時の彼女の言葉は耳を疑うようなものだった。

「◎◎(私)が髪をほどいて集会に参加しているようだが、何かあったのか?今まで真面目だと思っていたのに急に色気づいて何を考えているのか?すぐに元に戻すように言いなさい」

色気づいて・・・とはどういう事か?私は思わず髪をおろすように勧めてくれた友人を顔を見合わせ唖然とするばかりだった。

私はただ友人に勧められて校則に反しない程度に髪型をアレンジしただけだ。別にパーマをかけたわけでもカラーリングしたわけでもなく、ましてやお化粧もしていなかった。それだけで「色気づいて何を考えているのか」と彼女の勝手な思い込みで断罪されるのは甚だ心外だと思ったけれども、注意された以上そのままにしておくわけにはいかないので、すぐに手持ちのゴムで髪を結わえ、元に戻した。

ところが、それだけでは終わらなかった。

次の日担任がやってきて、少々困惑した表情でこう告げられた。

「風紀の××先生(彼女)におまえの髪はパーマをかけているんじゃないか?と聞かれたから、『お母さんから◎◎(私)の髪は天然パーマだと聞いている』と答えたんだが『それなら天然パーマ証明書を出すように』というんだが・・・そんなもの最近提出される事なんてなかったんだが、まあ、紙切れ1枚だから(紙をこちらに差し出す)親の署名をここに書いてきてもらえないか?」

びっくりした。なんで?と思った。

私は元々ひどい天パーなので、教師の誤解を解くために親が年度初めに書く家庭調査書の特記事項の欄にかならずその旨を書いてくれている事を知っていた。担任教師も風紀担当の彼女にもそのことは間違いなく伝えられていたと思う。

にもかかわらず、ここ何年も提出されたことがない「天然パーマ証明書」を書けとはどういうことなのだろう?それは生徒である私のみならず、誤解のないようにとの親心で毎年わざわざ担任に私が天パーであることを伝えてくれていた親への冒涜ではないか?そう思うと次第に怒りが込み上げてきた。

家に帰って事の顛末を告げると、案の定親は怒った。親ばかかもしれないがこうも言ってくれた。

「こんな見るからに真面目で道を外さなそうな子をつかまえて何を言うか。その教師は人を見る目がない!」

しかし一応そう言われたなら余計な詮索をされないようにと書類への署名をし、何やら一筆添えたものも一緒に提出するように言われたのでその通りにしたところ、以後卒業の日まで彼女に何も、一言も言われずに済んだ。もしかすると親の方から彼女に何かクギを差したのかもしれないが、今となってはもうわからない。(親自身も覚えていないらしい)

それからというもの、彼女の女子生徒の風紀取締りの様子がやけに目につくようになった。多分自分が彼女の過剰と言える反応にカチンときていたから、それまで気にも留めなかった事が気になるようになったのだろうと思うが、「そういう視点」で彼女を見ると、それまでは気づかなかった色々な彼女の「若さへの嫉妬」が見えるようになってしまった。

例えば・・・

・冬場で肌が荒れるので肌荒れ防止のクリームをつけていると「あんたはまだ若くて皮脂もたっぷり出るのだからそんなクリームはいらない」と没収する

・髪をセットした女子生徒の髪の毛をいきなり掴んで引きずり倒してびんたをする。「若いうちから色気づいたらろくなことはないんだよ!」と言いながら。

他にも色々あったが、気になったのは何かにつけて「若いうちからおしゃれに気を遣うようなヤツは将来ろくな大人にならない」という言葉が必ずそこに出てくる事だった。

当時は私は子どもだったし、もしかするとその言葉は真実かもしれないと思っていたので疑問に感じてはいてもそのような言葉が正しいかどうか確信が持てなかった。けれども人生も半分以上過ぎ、当時の彼女の年齢を遥かに超えた今は断言できる。「彼女の言葉は間違っていた」と。

そして彼女と同じように日々若さというものを失いながら生きてきた今思うのは、彼女による女子生徒たちへの異常なまでの風紀取締りの背景には、日々若さを失っていく自分への焦りと共に目の前にいる女子生徒たちの若さへの妬みが無自覚のうちにあったのではないかと思うのだ。そして彼女はその恐れや妬みの感情を自分でもどうしていいかわからないまま理不尽に弱い立場にいる生徒にぶつけていただけなのではないだろうか。だとしたらなんと醜いことだろう。

何かにつけて自分は若くて未だ現役で体を動かせるいうアピールをしていた当時の彼女。おせじにも美人とは言えない顔ではあったが、気持が若くてはつらつとしていたので実年齢よりはかなり若く見えた。

ただ、折に触れて私たちの若さを揶揄したり妬む発言を繰り返し、なおかつヒステリックに女子生徒の風紀を取り締まる姿はちっともきれいではなく不美人がさらにブスになったような気さえしたものだが、今思えばそれは気のせいではなく本当に醜い姿だったと確信できる。

若さへの嫉妬を露わにするのはやっぱり醜い。それは人生の先輩として絶対に若い人に見せてはいけない醜さだ。そんな醜い事をするくらいならまだ虚勢でもそんな事感じていないそぶりをしている方がましだ。たとえそれが周囲にはバレバレであっても・・・だ。

私は彼女を通して嫉妬が人を醜くする事を目の当たりにしてきた。そして同じような負の感情を自分で認めず、誰かを妬んだり憎んだりすることで自分のいら立ちを(無意識にでも)解消しようとする人が一様に醜くなっていく様も見てきたから、ひたすらそれを反面教師として生きてきた。そのせいだろうか?「若い頃は暗くてブスに見えたけど、今は垢ぬけていい顔になった」と褒められているのかけなされているのかわからない褒め言葉を言われるのでまあ、よしとするか・・・と言った感じだ。(苦笑)

確かに若いという事は一つの特権であり、若いとそれだけではつらつとして美しいものだが、それはいつかは完全に失われるものでもあるからそれに固執してはならないと思う。
若さには若さの美しさがあり、年配者には年配者の美しさがある。そしてそれはどちらも甲乙つけがたく尊いものだ。そのことをゆめゆめ忘れてはならない。半世紀近く生きた今、そのことを実感している。



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