昔住んでいた家を訪れた時の話

子どもの頃に住んでいた街を訪れる機会があったので、昔実家があった場所を訪れてみた。

私がそこを引っ越した時点ですでに築30年超。当時でもかなりボロ家だったので、さすがに残っていないだろうと思っていた。

ところが、まだ当時の姿そのままで残っており、人が住んでいる様子も見受けられて驚いた。

その瞬間、「時が止まった」という感覚を覚えて一切の音が聴こえなくなった。そしてふと子ども時代の自分に返ったような感覚になった。

昭和40年代に多かった杉板の外壁(サイディング)や木の雨戸はさらに年期が入って茶色が色濃くなっていた。また、当時もボロボロだった木の手すりはさらにボロボロになっていたが、子どもの頃とあまり見た目に大差がない感じがした。

昔から自分の家がボロ家で友達に見せるのが恥ずかしいと思っていたが、改めて変わらない佇まいのその家を見て、「よく長年こんなボロ家に住んでいたものだ」と改めて感心した。正直、今でもその家にまだ住んでいる人がいることが信じられない。

周囲の家が今風に変わっている中、そこだけがリアル「3丁目の夕日」の世界。だからこそ時が止まって子ども時代の記憶が鮮明に思い出されたのだろう。

約30年ぶりに訪れたそこはだいぶ様相が変わっていたにもかかわらず、全く迷うことなく当時の行動範囲を追うことができたのもそのせいだと思う。

もちろん、大きな変化を感じた箇所は結構あった。

通学路として使っていた家の前の道は、子どもの頃は非常に広いと感じていた。しかし、実際には非常に狭い道だった。
家の裏にあった大きな屋敷が大きな老人ホームに変わっていた。
家が密集していたエリアのところどころが空き地や駐車場になっていた

などの変化だ。おそらく高齢化や街の過疎化で住人が減って空き地が増えたのだろう。約30年のブランクはやはり大きかったようだ。

時の経過は残酷なもので、当時住んでいた町はまるで知らない場所のようだった。しかし、長年住んだ元実家だけが当時とまったく変わらずそこにたたずんでおり、そこだけが時の経過から取り残されたかのように当時と同じ景色を私に見せていた。

そこに住んでいた頃の思い出はあまり良いものではなかったので、ポジティブな意味でのなつかしさは全く感じない。しかし子ども時代の思い出は鮮明によみがえり、なんとも言えない気持ちになったことをよく覚えている。

この話には特にオチはない。単に、築60年を超えているであろう元実家がまだ現存していることに驚き、複雑な感情を抱いたことを言いたかっただけだ。

そこには確かに古き良き昭和が残っていた。私が確かにそこで子供時代を過ごした証拠も同じく残っていた。

何十年もの時を経てそんなタイムスリップ体験ができるとは夢にも思わなかったが、まあ、それもまたいい思い出として覚えておこう。

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