元ちとせスペシャルインタビュー【PART1】
2002年、「ワダツミの木」での鮮烈なデビューから今年で20周年を迎えた元ちとせ。2022年2月6日のデビュー20周年記念日を前に、2月2日に配信リリースした新曲「えにしありて」について、そして故郷であり今も生活の拠点を置く奄美大島と自らの音楽のルーツ「シマ唄」について、さらにシンガー・元ちとせとして歩んできた20年を振り返ってのスペシャルインタビューをお届けしていきます。
「えにしありて」に込めた奄美への思い、人々への思いについて
「ワダツミの木」でデビューしたと同時に、社会現象とも言えるほどのヒットを記録した元ちとせが、2022年2月6日にデビュー20周年を迎えた。メジャーデビューを果たしてから現在に至るまで、「ワダツミの木」を歌ったアーティストとして今もなお認知されていることは、彼女の音楽活動において揺るぎない事実だろう。そんな大きな節目を迎えた彼女が、2月2日に新曲「えにしありて」を配信リリースした。この曲はすでに彼女の地元でもある奄美大島の魅力を伝えるPRムービー「いのち、むきだし。奄美大島」のCMソングに起用されている。
「奄美大島の世界自然遺産登録をきっかけに企画されたCMで歌ってほしいというお話をいただいたんです。その頃に、森英治さん（ピカソ）から『こういう曲ができたんですけど、ちとせさんに歌ってもらえないかな』っていう話もいただいていて。その曲の持っているイメージがCMで使われる映像にハマるんじゃないかっていう話になって。歌詞はインディーズ時代からお世話になっているHUSSY_Rさんに書いてくださって、『えにしありて』が生まれました」
まずはそのPRムービー「いのち、むきだし。奄美大島」をご覧いただきたいのだが、アマミクロウサギの子育てシーンをはじめ世界的に貴重な動植物の映像は、人間を含む全ての生態系が繋がっているというメッセージを視覚的に訴えかけるものとなっている。希少な動植物たちの多様性が認められ、世界自然遺産に登録された奄美大島によるサステナブルな活動の一環と言えるだろう。そんな映像において「えにしありて」は、奄美からの大切なメッセージを代弁するだけでなく、故郷、家族、自然など、様々な人の「えにし」＝縁への思いに寄り添う普遍的なテーマを擁した曲であると言える。もちろんそこには彼女が生まれ育った島への思いをはじめ、歌い続けることで繋がってきたいろんな人への思いが滲んでいる。さらに彼女は、この曲を歌うことに対して並々ならぬ思いがあるのだという。
「実は4年前に奄美大島が世界自然遺産の登録が決まりそうになったのに、それがいったん延期されたという事実があって。でも、地元に住んでいる私としては、あの時延期されたことが良かったと思っています」
2017年、政府が「奄美大島、徳之島、沖縄島及び西表島」を世界自然遺産の候補地として選定し、ユネスコ世界遺産センターに推薦書を提出、諮問機関の現地調査が入ったものの「登録は延期」という判断が下されてしまう。そこから再び推薦書の提出及び現地調査を経て、2021年7月に世界自然遺産に登録されたという経緯がある。このような紆余曲折を、なぜ彼女は「良かった」と捉えているのだろうか。
「当時は地元でも『世界自然遺産ってナニ？』みたいな感じで、そういう動きがあることすら把握してない人が多かったんです。自分事ではないというか、、、、自分たちの暮らしている島の自然とか動植物に対する意識がそこまでなかったんですね」
この延期を機に奄美の自然の素晴らしさを知るための活動が始まるなど、地元の人々の自然に対する意識の変化があった上での世界自然遺産登録だったという。
「つまり、この曲は奄美の自然の素晴らしさとか美しさを伝えるための歌でもあるけど、地元で暮らしている私にとっては、奄美の人たちが地元の誇りだとか宝物みたいなものを再発見してもらうためにも歌いたいと思う新しい歌なんです」
20年前、「ワダツミの木」とともにデビューした元ちとせは、その曲のイメージとともに今日まで活動してきた。言うなれば「ワダツミの木」に導かれるがまま、彼女は歌の旅を続けていたのだ。しかし、彼女は今「えにしありて」という新たな羅針盤を手にし、新たな10年に向かって歩き出そうとしているのかもしれない。
「奄美を代表してっていう意識もあるし、奄美に対する思いを歌った曲でもありますが、今ってなかなか人に会えなかったり、旅にも行けなかったりするご時世じゃないですか。そのぶん今は会いたい人とか行きたい場所に思いを馳せながらこの曲を聴いてもらえたらいいなって思います」
（次回に続く）
文：樋口靖幸（音楽と人）
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