桜【織田信長/明智光秀】-天下統一 恋の乱- ✎

「光秀、散り際の桜の花の中心が赤くなるのは、何故か知っているか?」

御屋形様が今日何回目かの甘味を口にしながら、私に問うた。

「いえ、何故ですか?」

御屋形様はニヤリと笑いながらこう言った。

「地中に死体が埋まっているからだ」

「ほぅ…そうなのですか」

御屋形様の発言に関心していると、御屋形様は小さく舌打ちをしながら「つまらんな」と呟いた。

「何か?」

「貴様の反応は淡々としていてつまらんと言ったのだ」

おそらく陽菜にも同じ問いをして同じ答えを告げたところ、御屋形様の期待以上に過剰な反応をしたのだろう。

「申し訳ございません。本当はどのような理由だったのでしょうか?」

「知らぬ!」

御屋形様はぷいと顔を背け、次の甘味へと手を伸ばす。

「御屋形様…甘味を食べ過ぎますと、陽菜が作った美味しい夕餉が食べれなくなりますよ」

御屋形様が甘味を一つ手にしたところで、私は皿ごと取り上げた。

「ふん…口煩い奴め」

(まったく…しょうがない人だ)

ついため息が漏れる。

「光秀、顔を上げよ。今年の最後の桜の舞台だ」

甘味を食べ終わった御屋形様が扇子を片手に演技を始めた。

「幸若舞…敦盛ですね」

私の眼前には平敦盛の儚い最期が散りゆく桜とともにあった。

私は御屋形様の演じる姿を静かに見守るのだった。










ꕀ꙳

アメブロからの再録です

動画はこのお話の翌年のお話となります



織田信長が『敦盛』を好んで演じていたと聞きますが、それは『能』ではなく『幸若舞(こうわかまい)』なのだそうです。

『幸若舞』は『能』の原型と言われ、違いは『語り』が中心…だったはず。←何年か前に見た情報

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