
性上納システムは男と女がいる限り無くなりゃしねぇだろうから見極めるのが賢い選択肢になってくるよねてハナシ
「ホステスて職業を1回経験し…」
「ダ、メ。」
18歳、卒業式までの暇な時間にバイトでもしようかと夜の蝶になってみる宣言をすると父親が食い気味で否定。
断固たる拒絶感を訴えるスピードが速ぇえなァ、そう言うだろうとは思っていたが「1回経験してみよっかな~」の「し」で来るカンジ?
18歳てまぁまぁもぅオトナだけどなァ…分別もある程度ついてると自分では思ってるんだけどソコまでの信用はしていないらしい、いくら娘でも。
「私のこともしかして信用してないとかある?」
「信用の問題じゃねぇぞ?責任の所在」
高校3年生には2月から卒業式までの約1か月ほど、とくにな~にもする事が無い宅習期間というものが存在する。
あとは卒業式に出るだけなので高校に籍がありまだ学生ではあるのだが、卒業見込みの条件は満たした生徒であるため、在学中には基本的に禁止されている「アルバイト」が高校3年の宅習期間だけは認められるのだ。
だからこの1か月をバイトに明け暮れる者は多い。
当時の私は卒業したら宮崎を出て関西の老舗温泉旅館の電話交換手として働くことが決まっており、寮も社員食堂もあるし、航空券付きの内定をもらっていて空港からは人事課の送迎バスで寮まで行くそうで、1円の現金も持たずして就職できるので、バイトをする必要性は無い。
この機会に違う職種というものを経験しておきたいと思い、一番身近で一番信頼がおける父親が足繁く通って大枚をつぎ込んでいる「スナック」やら「ラウンジ」やらにバイトに行こうと考えた。
若くないとホステスの需要は無いだろうしね。
時給の高い仕事には時給が高い理由がある、つまり闇が隠されてるってコトで、この闇をかじりに行こうとしたのである。
これを世間では「若気の至り」と呼ぶ。
十九ハタチの若いネェちゃんのいるスナックで飲み明かしているくせに、18の我が娘がスナックで働くと言うと反対をする、それがどういう意味を持っているのかがわかる十代のネェちゃんが今いたら一旦、心療内科に行くべきやね、未成年で感じてはいけない段階の闇を見てるだろうから。
今から私がココに書く内容は30年前の出来事で、援助交際がうっすら問題になり始め、ストーカーという言葉が周知されるようになってはきたが、会社では女子社員の制服が膝上の丈で、その女子社員にコピーやお茶汲みをさせるのを「当たり前」と思い、上司のセクハラやアルハラなんてあればあるほど酒のつまみになっていた時代のハナシである。
このことからもわかる通り、コンプライアンスが緩かった昔はもっともっとひどい性加害があっても、その膿を出すこと自体がされなかった。
組織的にも社会的にも、出したトコロで揉み消されることなどわかりきっていたからである。
「昔はよかった」なんて言ってる人間は運がイイほうなのだ、闇の世界に首を突っ込まなくてもよい人生なのだから。
「昔はよかった」と嘆くような人間の良心しか見なくてよい人生を過ごして来たなんて恵まれているではないか。
世の中の闇なんて昔のほうがえげつないよ、規制がユルユルなんだから。
情報化社会で手口が巧妙になったていう弊害はあるかもしんないけど、昔と比べたらまだ闇は暴かれてるほうで正されてはきてるほうではないでしょうかね…昔よりよっぽど今のほうがマシだと思うけどなァ、悪事と人間の闇にスポットを当てれば。
やっと誤魔化しが効かない世の中になってきた、でもまだ暴力と権力と金がモノを言ってる。
膿が出せるから化膿はしなくなったけど、膿を出し切ってはいないだろうから疼くんではないか、まだ。
膿が溜まればまた腐る、生きてる人間の全員に何かしらの事情があって、何かに屈して生きるしかないと思えば即、弱者になる。
弱者が抵抗できる今は、屈したくない「何かしら」に「ハラスメント」を付ければいいのだ。
江戸時代とかの大昔のハナシじゃなくて、たかだか30年前の平成の世の出来事である、悪事が組織ぐるみや社会の同調圧力として隠蔽されてた時代てのは。
「善人と悪人がいる」てことじゃない。
善人の中にも悪人的気質が、悪人の中にも善人的気質が「隠れてる」てことを、自分に置き換えて想像してみりゃいい。
私は誰も見てなけりゃ目の前の食べ物を盗むかもしんない、空腹なら私は確実に目の前のおむすびを盗む。
そして盗んだおむすびで腹を満たした帰りに雨に打たれた捨て猫に、自分の上着を掛けてやるかもしれない、罪滅ぼしにそんな行動をして私は罪悪感から逃げるだろう。
私は悪人なのだろうか、善人なのだろうか。
矛盾を抱えた人間は、私しかいないのだろうか。
トラウマがあるようなひとは続きを読まない方がいいかとは思うけど、ともすれば「性上納システムの被害者」になっていた可能性が十分にある私が、とくにトラウマも自覚せず堂々とココに書けるのは何故かをお伝えするためにも、とくに若い女性にこそ被害者になる前に読んで欲しい、と切に願う。
膿が出まくっている昨今の状況に、叩けばホコリが出ちゃう行動を取った過去のある己を後悔し、ビクビクしている男性は少なくないやろなァ…と私は思い返している今日この頃である。
心当たりのある男性にも、懺悔しながら読んで欲しい、と願ってやまない。
朝でも昼でも夜でも関係なく「おはよう」と挨拶をする業界で、とくにね。
18歳で戸籍を抜いてホステスの副業をやってみた
卒業宅習期間の18歳の私は、父に食い下がった。
「1か月ダケでもダメ?ホステスのバイト」
「ダメ。オマエはハタチまでは親の管理下におる。オマエの選択は親の責任、責任も自分で取れる年齢になってから自由にしろ。どうしてもやりたいなら戸籍を抜け」
「へ?!戸籍て抜けるの?」
「抜けるぞ?お父さんの戸籍からオマエが抜けた、て書かれる。オマエが戸籍からいなくなった、て戸籍になるけどオマエがお父さんの子供てことはずっと残り続ける。縁を切ることは不可能でも戸籍は抜けるぞ」
「意味ねぇじゃん」
「あるぞ?オマエは抜いた瞬間からもうお父さんの管理下にはおらん、ハタチになるのを待たんでも自由にすればいい、戸籍抜きゃぁオマエは自分で自分の責任を取れる。ハタチまでは俺じゃなくて法がオマエを守る、ハタチ過ぎたら法がオマエを裁く、それだけ。戸籍抜いて自由にすれば俺はラクやからどっちでもいいぞ?自分でやれるならどうぞ好きにしてちょうだい」
「どこで抜くの?役場?」
「調べるトコから自分でしろよ?戸籍から抜ける、てそういう事やぞ?親の管理下におるから親が教える。よぉ考えろよ?どっちが自分のためになることかを」
「ほぉ…抜けるんかァ…戸籍て」
卒業式までの私は結局、何のバイトもせずただただスナックで酒を飲んだねぇ、父親が「社会人になる前に自分の酒の限界を知れ」て言うからね、父親の金でしこたま飲んだよね、だって戸籍を抜いてないんだから。
吐くまで飲んで限界を知って、関西に旅立つ前の準備期間で私は父親に再び宣言した。
「あのさ、関西行く時、戸籍抜いて行くわ」
「おぉ?何でや?」
「関西行っても19じゃん?ハタチまでまだ1年もあんじゃん親の管理下。自由と責任を取ることにした」
「オマエおもしれぇなァ…いいぞ好きにしろオマエの人生やから」
こうして私は無事に18歳で父親の戸籍から抜け、自由の身となった。
戸籍を抜く宣言をした以上、それは自由と責任を選択した独立を意味しており、分籍届の方法や知識などを親から乞う事は出来ない、手探りでの独り立ちである。
18歳の私は「分籍」という言葉すら知らなかったので、関西に引っ越すのに転出届をしに行きついでに戸籍も抜いておこうと町役場の職員に「あの~父親の戸籍から抜く、てのをしたいんですが」とカジュアルに言った。
役場職員はまさか18歳の小娘が明るく分籍届をしにやって来ているとは思わず、たぶんであるが「扶養から外れるための国民健康保険の手続き」くらいの説明を、18歳の私にしたのではないかと思う。
県外就職が決まり引っ越しするから住民票の移動もするわけで、己で生活する社会人ともなれば親の扶養からは外れる。
なんやらかんやらの説明はいろいろと聞いたがサッパリわからず、引っ越し先の寮の住所や何やかやを伝え、必要な書類をもらい、必要な手続きを聞き「これで全て完了ですか?」と聞くと「お引越し先の役所にこの書類を提出してくださいね」と言われた。
18歳の私はスッキリと戸籍まで抜いたと思っていたが、たぶんだが当時私がやった手続きは住民票の移動だけである。
だって戸籍を抜く分籍の条件て、成人年齢に達してることなの。
当時の成人て20歳だから。
18歳の私が戸籍から抜けられないのを父も知っていて、自由と責任がセットであることを諭すために分籍を出してきたということである。
ただの酔っ払いかと思ったら、意外とマトモな神経も通ってたみたいで。
関西に引っ越し、転入届を役場に出した18歳の私は、すっかりサッパリ親の戸籍から抜け自由になったと思っているので、寮に親からたまに電話があっても「戸籍抜いたでしょ?自由なんだから」と言わんばかりに適当にあしらった、う~ん若気の至りおめでたいことで。
老舗旅館で電話交換手の新人として働いて2か月ほど経った頃だろうか。
たまたま旅館の副料理長が私と同じ高校を卒業していて、同郷のよしみからとても可愛がってくれとにかく飯を食わせてくれたのであるが、行きつけのラーメン屋さんに連れてってくれた時に、そこの女将が私に提案してきて曰く、
「ウチ、バーやってるねんけど働いてみひん?夕食つけるで、旅館の仕事終わってココでごはん食べてからバーに行くのどう?時給1000円」
居住地兵庫県の最低賃金が608円の時代である。
「OK~乗った!明日から働くわ~」
なんせ私は自由の身、何をするにも親の許可などいらない、自分で決めて自分でケツを拭けばいいだけ。
旅館も副業を禁止していないし、私には何の足枷もない。
かくして私は、山奥の温泉地で早速ホステスになった。
しかし山奥の温泉地という環境は「ホステス」としては甘やかされた待遇なのである。
昼は電話交換手・夜はホステスの二足の草鞋を履く生活
夕方に旅館の仕事を終えてラーメン屋に行くと女将が「ハイおはようさ~ん」ゆぅて「今日の夕食」を出してくれる。
社食での夕食代が浮いて、しかも社食の夕食より豪華な食事なので、私の体重はうなぎ登り。
「なぁママ…ホステスて見た目やろ?バーで働くようになってから太っていってんねけど、酒と食事で。まァ酒は仕事やから飲むとして、夕食ちょっと量減らして~」
「いいねん、いいねん、ウチのチーママ太ってるやろ?あのコでいけてるねんからウマちゃんまだ大丈夫や~」
「ほんならえっか」
このような甘やかされたホステスデビューの環境下で私は、華やかな夜の蝶ではなく老舗旅館の目と鼻の先で、地味な夕暮れ時のホステスになった。
昼間は電話交換手として三交代制勤務。
早番・中番・遅番とあり、ホステスとして働けるのは早番の日なので出勤は週に2~3日。
旅館では電話交換手の傍らイベントがあると振袖を着て抹茶を運んだりもする昼職をやりながら、
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同じ土地の徒歩5分のカウンターバーではホステスとしてブランデーやウィスキーをあおり、カクテルを作る。
同郷の副料理長がバーの突き出しを作っているし、副料理長の行きつけのラーメン屋でスカウトされているので、ほぼ副料理長預かりでホステスをしているため、私はとくに露出度の高い服を着て接客をしなくてもいい。
お客さんの半数は無数にある旅館のスタッフなので昼職の同業者、あとの半数はお座敷遊びで芸者を呼んだあとの二次会としてバーに繰り出した人々や、ハメを外すほど飲みたい観光客。
ビジネスマンの接待としてバーが利用されることは少なく、客側も「若いネェちゃん」を求めてはいないのでホステスに容姿端麗さや色気はいらない、間違いなく酒を提供さえ出来ればいい。
そんなワケで昼職と同じ雰囲気でホステスをやっても、支障はない。
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カウンターバーではホステスはカウンターの中にいるのが基本
カウンターバーは基本的に「客の横に付く」という接客をしないため、酒の価格も安く設定されている。
カウンターを挟んで酒を提供するので、客が酔っ払ってきたらホステスは壁のグラスの棚に背中をつけて接客し、そうやすやすとは触れられない仕組みになっているのがカウンターバー。
お手洗いから戻った客におしぼりを渡す際に無理やり手を握られても、
「もぅ♡ちゃんと手ぇ洗ってますぅ?」
ゆぅてひっぺがす方法も確立されている。
カウンターバーのホステスは触れないから価値がある、この触れないホステスに触れることが酒のつまみになるのだ。
カウンターバーが比較的安価で健全な仕組みなのは、触れないことの価値を売ってるから。
18歳でカウンターバーてのは最良の選択だったように思う、今となっては。
スカウトされた先がたまたまカウンターバーだったからだけど、それも運。自分をしっかり持っていたら、運が味方することはよくある。
私は運とカンだけで生きてるとよく言われるが、努力も自分なりにはしているのだ、ホステスたるもの大人っぽさの演出はしているつもりであった。
しかしいくら大人びて見せようとも所詮は18歳である。
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同年代の中にいれば多少大人っぽくは見えても、同僚のベテラン交換手と並べば幼さは一目瞭然。
世間知らずで幼いのが漏れ出た外見をしている身体ダケが大人のオンナ、それが18歳なのだ。
18歳が接客で社会人経験の豊富な男性の横に座ることの危険度は想像以上。
カウンターを挟んでいても、十分危ない。
性上納システムと同調圧力は無くならない
18歳ホステスの私に何が起こったのかを書いてゆこう、当時の「同調圧力」も含めてね。
この同調圧力てのが一番厄介で性上納システム同様「無くなりゃしねぇな」て思うから。
ホステスではあっても、生ぬるく山奥のカウンターバーでやっていては、私はさほどの闇は経験しないだろうなとわかってきた。
私の外見が変わっても
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この程度である。
服装の乱れは心の乱れとはよくゆぅたもんで、心の変化は外見につぶさに現れるのだ、誘惑に惑わされることもなく心も乱さない環境の私の服装が乱れるワケがない、みだらな服装のひとつでもやらねぇと闇なんて垣間見れないものなのだ。
そこで私は山奥のカウンターバーと、神戸のド真ん中三宮のラウンジを掛け持ちすることにした。
自分をしっかり保って乱れない自信だけは謎にあったので、働く店のチョイスは「男性の横に座って接客をする」一択。
「スナック」も男性の横に座って接客はするんだけどもリーズナブルで気軽なお店なのに対し「ラウンジ」はラグジュアリーな内装で落ち着いた雰囲気があり酒も高いとなると、若気の至りで決定するのはもうひとつしかないよね「ラウンジ」高級なほうね。
あとの条件は私の個人的偏見による査定で決めた。
当時、夜の蝶になる女性で借金が無い人間を私は見た事がなかった。
呑んだくれの父親のスナック通いやラウンジ通いで出会った女性たちにも借金があり、客を取った取られたのトラブルは高校生の私でも見ていてわかるほど醜い争いのひとつ。
夜職1本にした女性が昼職に戻るのも見た事がなかったので、ホステス派閥的な面倒臭さに巻き込まれるのも避けるため「オープニングスタッフ」の募集であることと、指名制度が無いお店に絞った。
それからもうひとつ「衣装貸与」であること。
ゴージャスなビルの中の薄暗いラウンジに面接に行くと、ブランドスーツを来た男性が契約条件が書かれた資料を持って来て「質問があれば言って」と告げてバックヤードに下がって行った。
読めない漢字は飛ばして目を通すと、条件の項目に「アフターや同伴は自己責任」とある。
私は右手をたか~く挙げて道徳の先生に呼びかけるように「すいませ~ん!質問あるんですけど~」と言った。
ブランドスーツ男が出て来て「何?」と言うのでハキハキと質問をする。
「アフターと同伴が自己責任、てコトは強制では無いてことですよね?」
「自己責任」
「アフターや同伴を断ることも出来る、て意味ですよね?」
「自己責任で」
「強制なんですか?」
「ん~…自己責任やね」
それしか言わんのかいっ
そう、私は面倒臭いオンナ。
だって謎に自信がある状態で若気の至りでホステスやってんのよ?
ゆぅたら何のスキルも無いんだから。
自分をしっかり保って乱れない自信だけでやってる、若さしか武器の無い18歳なワケよ。
「わかりました。合否の連絡はいつ頃ですか?」
「ん~…来週までには。採用やったら電話が来るからよろしく」
「はい。失礼します。さようなら~」
てっきり不合格だと思ってさようならという捨て台詞を吐いたのに、採用されたのでめでたく華やかな夜の蝶に羽化。
夜の蝶になって私が自分を保つために徹底した事はたったひとつ、挨拶を変えないこと。
昼に入店したら「こんにちは~」夕方に入店したら「こんばんは~」と時間帯別の挨拶をする。
帰る時には「お疲れさま」ではなく「さよなら~」と言い、黒服が最寄り駅まで送ってくれた車から降りる時には「おやすみなさ~い」と言った。
「同調圧力」に負けない一点を持ち続けることはとても大事。
誰もが時間帯関係なく「おはよう」でいいと教えてくれたが「そうですかァ」と毎回しらばっくれて「おはよう」だけは意識して言わないようにした。
無意識に「おはよう」がクチから出て来たら、それが辞める時だと決めていたのでね。
ラウンジで一緒に働いたホステスは、だいたい2パターン。
いろんな店を渡り歩いてホステス派閥の人間関係に疲れ、稼ぐ金額が少なくなってもいいから上下関係が出来ていないオープニングスタッフで指名制度も無いこの店に鞍替えをしたヨソの店のホステスたちか、借金返済のために兼業ホステスをやっている大学生や一般職の女性たち。
店がオープンする前にはラウンジのボックス席にホステスが集められ、外に出てチラシを配るホステスを決める。
兼業ホステスたちは知り合いに会うかもしれない外でのキャッチを嫌がる。
キャッチには素人感のある女の子を立たせたい店側の思惑に、兼業ホステスたちがやる気を見せる事は一切無い。
どの席に付くのかやキャッチに立たせるホステスを采配する男のマネージャーがいて、呼ばれるまではフロアの隅のソファーやカーテンで仕切った控えのスペースなどでホステスたちは待機するんだけども、フロアから外れて控えに行くホステスの9割はタバコを吸うためなので、控えの空気は非常に肺に悪い。
私もホステスになった暁にはタバコを吸ったが、気分が悪くなるので大量には吸えない、だから私は外でのキャッチに喜んで立候補していた。
するとマネージャーが「またオマエか」と言い出し「イヤイヤ立ったトコロでチラシなんて配らんでしょ、私ならバンバン配りますけど」と詰め、マネージャーとの距離感もついでに詰めていった。
唯一やる気を見せてる兼業ホステスなのに店側が求める「素人感」とは別の何かが出てしまっていてマネージャー受けは悪かったねぇ。
このマネージャーが、面接の時にブランドスーツを身に纏い、私の質問に「自己責任」としか返さなかった男である。
マネージャーはチラシを配るターゲットとして「複数人のサラリーマン男性」を狙えと言った。
絶対に渡してはいけないのが外国人。
一人の日本人男性は向こうから興味を示した時にだけチラシを渡す。
声を掛けてキャッチをするのは複数人のサラリーマンの中年男性。
「上司と部下」という関係よりも「取引先との接待中」という関係性のサラリーマン複数人が望ましい。
接待されている男性にホステスを「上納する」という構図が、一番金を生むからである。
ラウンジが貸与する衣装はドレもコレもボディコンでミニで露出度が高く、やたらとスパンコールやビジューが散りばめられビッカビカに光っていた。
ホステスが好きな衣装を選べはするが、大差は無い。
「コレが着たい!」なんてホステス同士が取り合いになるような衣装は一枚も無い、ただただ露出度だけが高いミニボディコンのビカビカドレス。
当時の衣装に近い服が今あるだろうかとショッピングサイトを探してみたらビッカビカさは足らんが似たようなのがあったので参考までに載せておくけど、こんなカンジ。
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胸元から裾までの前面にはこれでもかと大きなビジューが縫い付けられている、ハート型や星型、丸や四角の大きなフェイクのルビーやらサファイヤやらダイヤやらが目立つ。
そのようなフェイクの宝石が散りばめられているのには理由があって、客がその宝石に触るためである。
ラウンジで横に座って接客はするが、表立ってホステスに触ることは出来ないし、触る客はホステスが黒服にチクるのでしつこいと黒服が止めに入り出禁を喰らうこととなる。
日本人同士でもこのようなトラブルが発生するのである。
文化の違う外国人とのトラブルはもっともっと発生率が上がるので、キャチはしないのだ。
性風俗のお店に行かない限り、お触りは禁止。
しかし商談のサポートをするのに客の横に付く出来るホステスは自分が「上納」されていることを察して、フェイクの宝石を触らせる。
話題を衣装にもっていき、胸元のルビーや腰のダイヤを指差しながら「本物の宝石なら嬉しいけどぉ♡」とクネクネしてみせる。
接待されている取引先の上司がいくらビジューを触っていても、黒服がテーブルにやって来ることは無い。
これが当時の「同調圧力」である。
「この宝石をどうやって服に取り付けているのか」という愚問があってね、この疑問を客が言わない場合には、出来るホステスが「コレ取れそうで取れないの~見て~こうやってちゃんと縫い付けてるのよ~」とか何とかゆぅて裾のサファヤごとミニスカートをチラとめくって縫製がガタガタな縫い目を客に見せる、日本製とは思えない甘い甘い縫製を客はしげしげと見つめる。
もちろん偽物の宝石や甘い縫製になんて興味は無い、それを口実にホステスの太ももを見てからサファイヤを触れば、目の前のホステスの太ももを触ったかのような錯覚に浸れるからである。
こうして文字にすると陳腐になるが、コレが水商売の世界で行われていた当時の商談テクニック。
堅気の世界の地味なスーツが生真面目さと誠実さと清潔感を演出するアイテムなのとは対照的に、水商売の衣装はビカビカに光らせてダークな部分を演出するアイテムなのだ。
鬱憤の解放という役目を担当しているのが水商売。
人間というのはガス抜きが必要で、ガスを溜め込んでしまうといつか爆発してしまう事を私たちは知っている。
とんでもない事件の犯人が捕まると「あんなにイイ人がこんな事件を起こすなんて…」という声を必ず聞くではないか。
それは知らない遠いマチでだけ起こってることじゃない。
自分の横でくずぶっている火種があると気付いた人間がこれを利用して商売にする。
鬱憤を晴らすのに酒と性が手っ取り早くて金になる。
この世の中に「酒と女を提供する店」がどんだけあんのよ、てハナシ。
人の上に立つ立場の経営者たちは泣き言をほざくと損でしかないことを知っているので、愚痴を言うのに酒を使って金で鬱憤を晴らしている。
その酒に商談と女を足した場所がラウンジ。
フルーツの盛り合わせやソフトドリンクなど、単価の高いモノがテーブルに置いてあるので、ソコが商談BOXであることは新人ボーイでも見りゃわかるのでスルー。
「同調圧力」だらけで正義なんて二の次なのが水商売。
18歳がハタチと偽って酒を飲んでいるのを見て見ぬふりするのが水商売。
心苦しい事をして目をつむらねばならぬ事で稼いでいる職業が水商売。
だから水商売の時給は高いのだよ、だから白昼堂々とはやられていないのだよ、だから未成年は出入りを制限されるのだよ分別が付かない未熟な年齢なのだから。
上納システムに金を払う人間がいる限り、性というものを売り物にする人間は絶えないだろう。
男と女がいる限りは無くなりゃしないと私は思っている。
規制を強めて法改正をしてもし無くなったとしても、それは日本から無くなったように見えてる、てハナシで日本以外の国がやり、その国に日本人が行くだろう、場所が変わるだけなのだ。
水商売は割り切れるオンナでなければ務まらない。
ギリギリまで自分を上納する素振りを見せられるスキルに時給の高さが払われている世界である。
ラウンジなんてまだ「健全」なほうなのだ「身体」まで売らなくていいのだから「素振り」だけでいいのだから。
見極めるチカラを培う「オンナを使って消費をさせる世界」
水商売に就いて被害者になりたくないのであれば「見極められるチカラ」を付けるしかないし、見極めたチカラで被害を回避できなければならない。
その線引きが危うすぎるから、自分の娘が水商売に就くのを喜ぶ父親はいないのである。
世間知らずの18歳のスキルも何もない私が、昼職をしながらホステスを続けて被害者にならなかったのは「見極められるチカラ」を培ったからである。
そのチカラを培うには、自分も含めて「客観視」出来るかどうかがポイントになる。
ある日のこと、入店してまだ私服のままで衣装を決めていない私にマネージャーが奥から見た事の無い衣装を出して来て「オマエこれいっとこか~」と言う。
いくわけねぇだろっ!と思うような、ほぼ布が無いドレス。
ケツが半分見えるほど背中はザックリと開いてて細い紐で編み上げるデザイン、胸元もザックリと裂けていて裸に毛が生えた程度の衣装である。
似たような衣装を探してみたけど無いので、露出度がわかるかなァ~というドレスを参考までに載せておくと、こう。
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この頃にはだいぶマネージャーとの距離を詰めていたので、マネージャーも私の性格を把握していたのだろう、好奇心をくすぐる一言を放って来た。
「オープンしてからこの衣装を着れる体形のコがおらへんねん、自分ならイケるんちゃう?ま、イヤやったら強制ではないからな」
「マネージャーお得意の自己責任ですやん」
「店内での女のコたちの責任は取るで?」
「ホンマですか?じゃその言葉信じてこの衣装いくけど着かたわかんない」
「ひとまず自分で着れるトコまで着てみて。ソレ上の下着は脱ぐんやで?」
「でしょうねぇ。それくらいはわかりますよ」
カーテンで仕切られた控えのスペースは待機するホステスと荷物で大変狭いので、それよりも広いトイレで着替えろと衣装を渡されて着てみるとビックリ仰天、着たほうが見た時よりも布の面積が無い事がわかった。
トイレからマネージャーを呼ぶも、開店直前の店内はワチャワチャ騒がしくて私の声が届かない。
しゃ~ないので自分の荷物を持って両手で隠せるだけ隠して、カーテンの控えスペースに入ると、あまりの私の生贄っぷりに、普段は話しかけもして来ない鞍替えホステスが、タバコの煙を急いで吐いて「マネージャー!」と大声で呼ぶ。
なんせ私は半裸状態でパンツも丸見えなのだ。
「コレ…パンツ見せるかケツ見せるかの二択」
と伝える私をマネージャーは一瞥し、若干焦って促した。
「トイレ戻ろか、俺も一旦…一緒に中に入るわな」
何があっても動じないマネージャーが、私から荷物を取り上げて鞍替えホステスに渡す「あ…あ…」と言ってる私を尻目に、鞍替えホステスが私の荷物を所定の場所にそそくさと片付け、マネージャーの身体で私の半裸は隠されながらトイレへと戻る。
夜の世界で手切れのいい人間関係のキャリアを積んでる人たちが一瞬でチームワークを発揮するほどの、奇抜すぎる衣装。
この時の人間模様を超える面白さは、49年の人生の中でまだ無い。
夜職の面白味は、人間模様の闇を孕んでいるからこそ面白いのである。
この世界に「良心」てモノがあったのかと、それを見れた「格別さ」たら無かったねぇ、あるなんて思ってなかったから。
正義の世界で見る「優しさ」てありがたみが薄いんだけど、ダークな世界に残ってるほんの一握りの「正義」て美しいじゃない?
(あぁ…ソコまでは落ちてはいなかったのかァ…)て改めて見える人間味に惚れ惚れするねぇ~私は。
人間捨てたもんじゃない、て本当にそう思える。
トイレでマネージャーが私を上から下まで眺めて言う。
「ん~…ギリギリいけてんねけどな…」
「どこがやねんっ!パンツ見えてますって」
「下まで脱ぐのはさすがにヤバいな」
「いや脱ぎませんけどね。…まァ…パンツ下げてケツちょっと見えてるくらいなら許す」
「いやいやいや、アカンアカンアカン…ちょっと!男の子ひとり呼んで~」
さすがに3人で入ると手狭になるトイレの中で、オープン以来初となる布切れ衣装を営業時間内どう無事に着せ続けるか試行錯誤しながら着付ける。
背中の細い紐の編み上げを、男二人がかりでキツくキツく締め上げて絶対に解けないように何回も真結び。
「蝶々結びなんて引っ張られたらアウトやからな」
「この衣装がアウトなんですよ、蝶々結びじゃなくて」
と言い合いながら、半ケツが見えないようにスカートを折ったり上げたりして着せられる、衣装。
「よぉ作ったよなァ…この衣装…なぁ?」
「… … …ハィ」
着替えを手伝わされながらボーイも絶句するほどの、衣装。
その夜、私はただフロアに座っているだけの時間が長く流れた。
さすがにこの世のホステスの全カルマを引き受けたような露出度の衣装で接客までさせるのは鬼畜の所業だったのか、私はフロアのソファーの端のお飾りとして君臨し、席に付かないままかと思われた。
しかし、最後の最後で意外なお呼びがかかったのである。
「あちらの席に、ご指名です」
指名制度が無い店なので指名料など入らないのにご指名ということは、そういう交渉がなされたということである。
呼ばれた男性に源氏名の名刺を渡すと、
「眠そうにしてたから呼んだんや~、ほら食べ」
と言われ、店で一番高価なフルーツの盛り合わせが出て来た。
「すごい衣装やな~と思って見ててんやん」
と言うおじさんに、
「そうでしょう?スゴいでしょ~強制的に着させられてんの」
と厭味で返したが何も聞いちゃおらず。
フルーツを食べ続ける私の衣装のフェイクジュエリーを触りながら「この衣装はどうなってんの?」と言い続ける「上納」であることが自覚できる接客である。
当然のように宝石がどう取り付けてあるかの愚問にも答え、ざっくり開いた衣装の胸元にもガッツリ触られた。
あくまでも触られているのは衣装で身体に触れられているわけではないが、18歳の私はその行為自体が不快であることはおくびにも出さない。
その席に付いていた他のホステスたちは別の話題を振ることもせず、そして私も他の話題に変えることは容易に出来たがフルーツを食べ切るまではしなかった。
それらの言動の動機すべてが「同調圧力」である。
その場にいる全員が仕事や自分の役目を全うすると、同調圧力からは逃れられないのだ。
服装の乱れが見せたいろんな人間の心の乱れ
鬱憤開放が金を生んだドレスでもあり、いろんな人物の本心を炙り出すフィルターでもあったこの衣装は、その後、着せられることはなく封印された。
露出度の高い女は簡単に触ることが出来ると思う男がいることを私は18歳で知ったし、触るためにフルーツ盛り合わせと抱き合わせで私が売られたことも理解した、そしてフルーツをおいしくいただいている私をカーテンスペースの横で腕組みをしてじっと見つめるマネージャーの変化も見て取れた。
18歳で知るにはウンザリする闇と、18歳で理解するには複雑なヒューマニズムがない交ぜになっていた夜だった。
この一晩で私には「見極めるチカラがついた」と言えよう。
「人間の心理」というモノを見たからである。
このラウンジで私が無意識に「おはようございます」と挨拶をするのには、3か月もはかからなかったと思う。
時間に関係なく「おはようございます」と言う業界に感化されて、自分のクチから無意識に「おはようございます」が出るのには、そんなに時間はかからないのだ。
この変化を客観視できれば足を洗って堅気の世界に戻るだろうし、流されれば金を優先して取ることになるだろう。
自分で決めた通りに、私はラウンジを辞めた。
辞める理由を聞かれたので「海外留学に行く」とウソをついて。
夜の世界のホステスの入れ替えは激しいし、当時の「ホステス」といえば訳アリの女のコたちの流れ着く職でもあったので、辞める理由を聞かれることなどない。
ラウンジで1回だけ一緒になりたまたま会話をした大学生がひとりいた。
彼女は親の借金返済と学費を稼ぐために兼業ホステスをしていると言っており、ひときわ地味で大人しい女の子だった。
全然一緒にならないのでマネージャーに聞くと「あのコ辞めたで」と言うので「何で辞めたんですか?」と理由を聞いた。
「さぁ?聞いてないからわからんな。始める理由も辞める理由も、聞いたって本当の事は言わへんで?」
コレが夜の世界の暗黙の了解。
それなのに私が辞める理由を聞かれたのは、ウソをつくとわかった上で聞かれたのであり、マネージャーは私のことなど見透かしていたはずで、ならば私の行動の理由を知りたかったのかもしれない。
水商売を選択して捨て鉢になってゆく過程で、身を捨ててしまう人は多い。
そんな人たちをたくさん見て来た。
自分を客観視できていなければ、自分を見失う。
自分で決めた事を自分で守ることは、簡単なようでいて難しい。
同調圧力に流されればラクである。
自分の意志で辞める選択をした私も、辞める理由を聞かれて本当のことは答えなかったのだからラクに流された。
服装の乱れが先で心の乱れが後からついて来ることもあり得る
服装が乱れたのが先なのか、心が乱れたのが先なのか、ホステスの私には危ない場面が数々あった。
ラウンジで半裸状態の衣装を一晩着せられたおかげで私は、露出なんて何の抵抗も無くなり、どんな服装でも出来るようになっていった。
山奥のカウンターバーのホステスはその後半年ほど続けたのであるが、チーママにシャツのボタンを2個外されてもとくに気にはならない。
そうなると接客中に胸を触られそうになる事など日常茶飯事であるが「ハイハイ!お触りダメやで~!罰としてボトルキープしてもらおか~」と売り上げに繋げる手口も板に付く。
胸を触らせてボトルキープさせるホステスがいるから、ボトルキープで触れると思う男がいる。
簡単な方程式で出来ているのが夜の世界なのだ。
その後も、彼女と同棲中の常連客が彼女のいない日に家に来いと誘って来たり、出勤途中に車で送ってやると言うので乗るとそのままホテルに連れ込まれそうになったり、酔っ払って足元がフラついてて危ないのでバーから出て階段下までお見送りをすると壁際に押されて強引にキスされそうになったりした。
バーで使った金で性的搾取まで出来ると勘違いする客は、ごまんと湧いて出るのである、それが水商売。
ホステスは金で消費する商品としてカウントされている。
ホステスはそれで稼いでいるのだから当たり前だが、ソコにホステスとしての人間性を乗せるかどうかはホステス次第である。
私は「人間性」を殺してるホステスしか見て来なかったように思う。
金でギリギリの性を売り物にする人たちしか見なかった。
人間性を乗せようとしているホステスはいなかった。
人間性を取った人たちはホステスを辞めた人たちだった。
人間性を殺せる人が、ホステスを続ける。
その選択が間違っていると私は思わない。
価値基準の一番が金銭であってもいいと思う、愛や人柄ダケでは食っては行けねぇからな人生は。
優先順位の一番が金銭であってもいいと思う、キレイごとだけでは貧乏を覚悟しなきゃなんないし、正義を貫けば自動的に赤貧生活が待っている。
法は犯していないがビジネス上では時に卑怯な選択をしなければ大きな稼ぎにはつながらないことがある。
ラクして儲かるまともな仕事てのは無いので、苦労をするか卑怯なテを使うか時間をかけるか、方法や選択が分かれることになる。
その選択肢の中に「性を売る」もあるのだ。
金で買う人間がいるから、売り物になる。
売ったということは「売り物」を失うのだ、自分は手元から。
性を売り物にしたら、何を自分が失うか。
金で性を売ったのだから、愛で性を得ることは失う。
その責任が課された、ということである。
金基準で得たモノで愛を失っているのだから、失った愛は自分で補充する責任がある。
金で性を売り買いするビジネスの場で愛を補充できるとすれば、金を出してくれた人を裏切らないことではないだろうか。
金を出してくれた人が無一文になった時に、今度は自分が金を出せるかどうか、である。
自分が愛を取り戻す方法も、金になるのだ。
性を売り物にした金で、愛を取り戻す人を私はまだ見た事がない。
それをするホステスがいたら、そのホステスは一流だと思う。
金基準で得たモノに愛を自分で補充した人だから、そこに信頼と尊敬を抱き人間性を乗せることが出来る人だから、金で取り戻すことをしたのだと思う。
金銭の価値は、使い方で変わる。
金を優先にするオンナたち
借金をしてスナックで金を使って呑む父は、それが借金であるとも知らない若いネェちゃんたちにお金持ちだと思われて、数々の「金を貸してくれ」のリクエストをされたらしいが「それがどういう意味がわかってるのか?」と聞くとネェちゃんたちは「わかっている」と答えるらしい。
我が父に性を売る気で来ているのである、ヨボヨボの足引きずってる借金抱えたジジィに。
確実に愛なんて無い、あるのは金のみ。
それも借金である金銭事情なんて知らずに、スナックのネェちゃんの誕生日になると気前良くポ~ンと1万円のシャンパンを開けたりする、そのアホな行動を見て「金がある」と思い込むのだ。
「俺よぉ…モテててよぉ~…女がウチの鍵を持って行ったから返せつったんだけど返さん。オマエ何時に家に着くか言え?鍵開けに帰るわ」
3年ぶりに宮崎に帰ると実家の鍵が1本しか無いと父が言う。
「呑み屋のネェちゃんやろ?モテてねぇわ、金や金。借金あるん知らんと金使いの表面だけ見て金持ちと判断してるから通帳見せてやりな。すぐ鍵返すわ、はよ取り返して来い」
「な~んや~金かぁ~どいつもこいつも金やのぉ~」
「まだ金あるって思われるだけ相手にはされるから寂しくないやろ?コレで金までないって思われたら相手にもしてもらえず孤独死が待ってるよ」
父はホステスたちに借金返済の計画を聞く。
返済可能な計画をきちんと立てて金を借りに来るホステスは皆無だそうだ。
踏み倒すつもりの借金だから返すつもりは無く、性と引き換えに金のある所に無心に来たのだ。
曲がりなりにも経営者である父は、経営上の借金を生きてるうちに返済してきた人生なので、返済できずに首を吊るホステスが出ないよう、返済計画を立てていないホステスたちの様子を見に足繁く夜の街に呑みに出る。
父は父なりの人間性を乗せて金を使っているようだが、私は自分も含めて父の周りの人間を疑っている、父の周りには子供も孫もホステスも、ゆすりたかりしか寄って来ないから。
父が引退しもう収入が無くなったので、今後が楽しみで仕方ない。
要介護状態になったりしたら、自分はどういう行動に出るかが楽しみだ。
これまで父にたかって来た分のお返しをきっちり出来る一流の人間であればいいな、と思う。
父の金の使い方が正解だったかどうかも知れると思うと、棺桶に入ってもなお、父は私に教える事を残すのだなァと尊敬する。
世間的にはダメダメな父親だろうが、私にとっては面白くてためになる父親である。
芸能界も水商売
昭和時代なら、まともな親であれば「芸能界に行きたがる子供」を必死で止めたし、関西なら子供が言う事を聞かない時の脅し文句は「アンタそんなんしてたらヨシモトに売るで」自分の子供のアホさが際立っていれば「もぅこの子の就職先ヨシモトしか無いわ…」と落胆したものである。
マトモじゃないと国民レベルで知っていた、それが芸能界である。
18歳の私が山奥のカウンターバーでホステスを続けて危険な目に遭いそうになれば被害回避術として使って来た言葉がある。
善人の中の悪人気質を、悪人の中の善人気質を「見極めて」そこに「人間性」を乗せる未来を想像させる言葉を投げかけるのだ。
彼女と同棲中の常連客が彼女のいない日に家に来いと誘って来たら、
「これからもこの店の常連客でい続けるのか、私が一度だけ家に行くのか、どっちにする?」
と投げかける。
車に乗ってそのままホテルに連れ込まれそうになったら、
「この場で止まって私を降ろすか、ホテルに行ったあとで警察に行かれるか、どっちにする?いま止まらい限り私は100%警察には行くけど」
と投げかける。
壁際まで押されて強引にキスされそうになったら、
「胸を触ろうとしただけでボトルキープしてもらうねんウチの店、強引にキスしたら何してもらうと思う?」
と投げかける。
これらの答えが男性の良心から出るように仕向けるのが、ホステスが乗せる「人間性」である。
どんな酔っ払いでも、多くの男性の良心が痛んで私を被害者にはしなかった。
だがしかしたったひとりだけ、良心を捨てた客がいる。
彼が鬱憤に負けたのか、酒に負けたのか、それとも強引なキスを軽んじていたのか、答えは彼にしか出せないがその答えが良心から出ていないのは、誰にでもわかることであろう。
彼の職業は、テレビマンである。
私が接客した、たくさんの人たちを職種でひとくくりにするような、大きな主語を使いたくはないが、会社は違っても「職種ごとの常識」が似通ってる場合は多かった。
どういう席順で座ろうとするのか、どういうカタチで会計をするのか、ホステスに何を質問するのか、こういったことで職種がわかることも多かったのである。
組織の中の人間は組織の色に染まってしまうのだ。
18歳の私が強引にキスされた時には被害者だったのかもしれないが、私が思ったことは別だった。
(テレビ業界って腐り切ってるんだなァ…親が反対する職業なのも納得やな)
私は根性だけみれば芸能界でやっていけるかもしれないが残念なことに容姿が芸能界ではやっていけず、これといった才能もない。
神様て見てるよねぇ…だから私はこうして無料で文章を書いている。
人気やひいきによって左右される商売はすべて「泥水稼業」の水商売。
芸能界も、水商売のひとつである。
SMAPがまだ駆け出しのアイドルの頃、SMAPに密着しているテレビ番組だったと思うが中居正広が「神様は見てるんで」と言ってるのを聞いたことがある。
(神様に見られていることを知ってる人間でも踏み外すのが芸能界かァ…)
49歳の私は「被害者」て一体誰なんだろう?と自分自身に問うている。
私は暴力と権力に屈するのがイヤで同調圧力に抗い、己を貫くために金を捨てることを多くの場面で選んで来たけれど、それでも全ての同調圧力に負けなかったとは言えない。
些細な「暗黙の了解」には無言で従い「あまりにも自分の意に反する」と感じた時にだけ正しさを取って来た。
暴力と権力と金を前に「悪事は従順」である。
正しさなんて簡単に握りつぶされるのよ、貧乏になるだけならまだマシなほうで「空腹に陥らせ判断を誤るのを十分に待ってから答えを出させる」という昔ながらの「兵糧攻め」という戦法は現代でもとても有効なの。
それをされてごらんなさい、正しさなんて秒で翻るよ。
どこまでも残酷になれるのが人間で、その人間のひとりではないか私も、そしてアナタも。
私には誰もが「被害者」に見えてしかたがない。
それぞれの時代にそれぞれの正しさを貫いた結果「時代の被害者」となってる人間が大勢いるように見えるし、視点を変えればその被害者全員が加害者にも見える。
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