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だんごの旬は「焼き立て」じゃない

関西でだんごと言えばみたらしだんごが主流であるが、宮崎県日向市で「はせがわだんご」に青春を捧げた私はしょうゆだんごが好きである。
あま辛~いしょうゆを二度三度も重ね塗りしたおしょうゆのだんご。
しかし、しょうゆだんごを関西で食べるのは難しい。

関西でもしょうゆだんごを売っている店はあるのだが、難波も三宮も軒並み潰れたのでもはや探すのも一苦労。
伊丹にも売っている店はあるが「焦がししょうゆ」なのが惜しい、焦がしてなければいいのに。

かつては近所で簡単に買えた、おしょうゆのだんご。

今は無き米乃家のだんご

関西スーパーの一角に陣取る米乃家のだんごのテーマソングは大音量。
関西スーパーで流れる♪ランランランランくらし良好♪の曲を食い殺す音量。
しかもご丁寧に入口付近店舗の壁上部にはモニターを設置し、歌詞を表示させるという画期的なシステムを導入。

その場カラオケ対応サービス。
入ったそばからもう客の耳には♪だんごだんごだんごよねのやのだんごだよ~♪しか入らない。

私なんて団子を買いに行こうと自宅の自転車のスタンドをガッシャンとした時点で♪よねのやのだんごだよ~♪と歌っていた、まだ出発してもいないのに。

しかし関西スーパーに着いたら、よねのやテーマソングに負けている生活良好テーマソングのほうを根性で拾って頑張って歌ったものである、だんごを買いに行ったのにも関わらず。

♪らん・らん・らん・らんくらしりょ~こ~♪
♪いっつでもかっつでもくらしりょ~こぉ~~~♪
「そんな歌詞ちゃうやん」
(正しい歌詞:いつでもかつでもくらし良好→ぼくんちいつでもくらし良好)
「こんだけ頻繁に来てたらいつでもかつでもやないか」
「いつでもはわかるけどかつでもって何よ?」
かつでもに意味はない」
強調表現の後半て、意味はないよね。
どうでもこうでものこうでもしかり、やたらめったらのめったらしかり。
しっちゃかめっちゃかに至ってはめっちゃかどころかしっちゃかの意味さえわからない。
まさしく、しっちゃかめっちゃか。

よねのやテーマソングの歌詞の中に♪冷めてもおいしいのがうれしいね♪というフレーズがある。

食堂を営んでいた祖父母の家に入り浸り、焼いてとねだって作ってもらう祖父特製の「ちんこだんご」甘辛いしょうゆのだんご。
とにかく「待たされる」食べ物が「ちんこだんご」である。

まず懇意にしている粉屋があって、その粉しか使わないというこだわりよう、幼い孫が泣こうが喚こうが、絶対にそこの粉じゃないと練らない。
かわいい孫がちょっとマズくなってもいいからと妥協案をふっかけようが、絶対にそこの粉じゃないと捏ねくり回さないのである。
だから粉屋が閉まっていたらだんごを作らない。
開いていても粉が売り切れていたらだんごは作らない。
なんしか粉屋がネックで、最長で3日も粉の入荷を待った時がある。

だんごを茹で串に刺す作業は私も手伝う。
ちんこだんごは6コ。
串に刺さる最大数が6コ。
頑張って7コ刺しても端っこの1コに焼き目が付かず失敗するので6コ。
市販されているどのだんごを見ても最大5コだと思うが、祖父のちんこだんごは6コ。
どうだろう、この1コおまけしている心憎い演出。
網で焼き目をつけながらあま辛~いしょうゆダレを塗る作業からは祖父の職人技。
6コでもちゃんと全てに焼き目が付く職人のウデ。
一度目の塗りで既に部屋中がちんこだんごの香ばしさ。

焼き立てをもらおうと台所へ行くと、祖父が手の甲を私に向け指先をチョンチョンと払い、こう言う。
「シッシッ」
急に台所、女人禁制。
だんごが全て焼き上がり、皿に盛られて台所のテーブルに置かれても、私が行こうとするとまたも指先を払いながら祖父が言う。
「シッシッ」

粉の入荷に3日も待たされ、焼きあがってもまた待たされる、それがちんこだんご。
焼きあがっただんごを目の前にしヨダレを垂らし垂らし待たねばならない。
理由は「焼き立てのだんご」が旬ではないからである。
祖父のGOサインが出るまでだんごは食べられない。
完全に冷めるまで待たされる。
焼き立てのだんごは粉っぽくしょうゆがトゲトゲしい。
冷めただんごはしょうゆが馴染んで格別。
粉にこだわった祖父のちんこだんごは後味がほのかに甘い。
それを味わうためには「焼き立てを食べるな」がだんご職人の教えなのである。

昨今の「焼き立て」「出来立て」を重宝する国民のニーズに流されて、とうとうだんご業界が「焼き立てアツアツ」を宣伝するようになったが、♪冷めてもおいしいのがうれしいね♪はだんご業界の悲痛な叫びなんである。
いいか国民よ、だんごと卵焼きは『冷めているからこそおいしい』のである
♪冷めてもおいしいのが♪と遠慮がちに歌っているが冷めたからおいしいのだ。

「コレ、作り置きでしょ。焼き立てのほうをちょうだい」
なんてクチが裂けても言ってはならないのである、おいしいだんごが食べたいのならば。

しかし国民はよっぽど「あっつあつの出来立てだんご」を所望しているようで、三宮のだんご屋さんに寄った時、私はスタッフにこう言われた。
「あともう少しで焼き立てが出来上がりますが、そちらにしましょうか?」
客のニーズに応えたそのサービス精神がこの言葉を言わせたらしい言い回し「焼き立てのほうにしましょうか?」に私は即答した。

「いいえ、完全に冷めただんごのほうをいただきます」

スタッフは「よくご存知ですね」と言って褒めてくれた。
冷めただんごのほうがおいしいと知りながら、アツアツ出来立てをオススメしているようである。
出来立てを食べたいと言ったらド素人なんでね、だんごを購入する際には「冷めたほうをください」と自分から言えばおいしいだけでなく、だんご通を気取れますよ、お試しあれ。

#創作大賞2024 #エッセイ部門

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