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ずっと自分に正直な工藤静香が好き

おそらく私は10代の頃、壊滅的に頭のネジが外れてて「アイドルファンじゃなきゃダメ」と思い込み、女子的付き合いの流れに逆らえず大沢樹生に手を出したことがある。

当時の女子中高生にとって「興味がない」と言う事など許されないアイドルグループ「光GENJI」女子がキャーキャー言う相手「光GENJI」
「光GENJIの中で誰が好きか」という質問が当たり前に交わされる時まさに中学生であり高校生であった私には「キャーキャー言ってなきゃなんない、でなければあったまオカシイ」つ~強迫観念みたいなものすらあった。
「光GENJIが好きか嫌いか」とは聞かれないのである。
好きなことが当たり前で「その中で誰が一番か」ということで話はすすんでゆく。

ローラースケートが流行って遊んでいる小学生のウチはまだよかった。
光GENJIごっこのローラースケートの時には歌だけ知ってればよかったが、中学生ともなると歌以外の事もファンは知っておかなければならず、私はちょいちょいテレビの前を行き来するようになった。
出るドラマとかコンサートの日程とかをチェックするのがファンらしいが、じつは付き合いで手を出している光GENJIなので、私の情報源はテレビしかない。
宮崎のド田舎の女子中学生だった私はあいにく、そのテレビすらろくすっぽ見ずに木登りをして、海や川で遊んでいた。
「大沢樹生がドラマに出るのか」のチェックではなく「この木はテッペンまで登れるのか」のチェックをするのに忙しく、ファンのフリをするのは片手間だったのだ。

見ていなくても24時間テレビを点けっぱなしにするタイプだった父親のおかげで、電源を入れる手間惜しむズボラな私でもテレビの前を通るついでにテレビから情報が仕入れられた。
便所のついでに居間のテレビの前に行きチャンネルを変えて光GENJIが出て入れば見る、食事中に光GENJIが出ている番組を探す、そんなことをやっていると父親が聞いてきた。

「オマエはなんか目的でもあっとか?」
「なにがや?」
「オマエの行動はどうかテレビが見てぇヤツのするこっちゃねぇがテレビが見たいヤツのする行動じゃない?なんか探しちょるモンがテレビにあっとや?テレビが見てぇごつはねぇどがテレビが見たいてわけではないだろう?」

父親は私の行動が自分がしたくてしている行動ではないと見抜いていたようだ。
皆と違ったらイヤという理由で情報集めにテレビをちょいちょいチェックしているのもわかっていたのだろう。
ある日、いつものようにテレビの前に立ってチャンネルを変えたら、居間の座椅子で仮眠をとっていた父が言う。

「オイ、チャンネル変えんな」
「寝ちょったやん、見てねぇやろ」
「聞いちょる」
「チャンネルやら関係ねぇじゃろ?点いてればいっちゃろテレビが」
「いま聞いちょった続きが聞きてぇから変えんなよ?お父さんは自分が聞きてして聞いちょるテレビの続きが聞きてぇっちゃ、じゃかい今のオマエより楽しっちゃかいよ、譲れ」

自分が聞きたくて聞いてるテレビの続きが聞きたい、だからオマエより楽しんでるんだから譲れ、と。

娯楽としてテレビを楽しめず、思春期の私はファンのフリをすることに必死だった。
偽造したアイドルの推し。
本当は木登りがしたいのに、まったく詳しくない光GENJIの大沢樹生を推し、女性アイドルの推しは工藤静香に決めて情報収集を頑張った。
3歳年上の兄が工藤静香ファンで曲も何もかも揃っていたのでアイドルに疎い私でも情報が簡単に手に入れられたからである。

こんな思春期であったことを、今なら懺悔できる。

今は本当に自力で、私の中から心を込めて工藤静香に向けて工藤静香が好きだから。
私が思う「好き」をちゃんと説明できる「好き」だから。

高校の時の女子のヘアセットはほとんどが工藤静香を真似してやっていて、だからそうしてたけど、万年遅刻の私は周りに合わせるのに必死だった。
高校一年の途中まで「アイドルにキャーキャー言ってなきゃあったまおかしい」と思い込んでいたので。

高校生になり出席番号の席順でしばらくを過ごすことになった最初、出席番号並びでなにかとペアになることの多かったシノブは、わかりやすい光GENJIファンであった。
初対面の彼女は共通の話題として光GENJIの誰が好きかと問い、私は軽い気持ちで大沢樹生だと答えた。
これまでの質問でも使ったテである、付き合い大沢樹生。
大沢樹生という人物は光GENJIの中で一番、キャーキャー言わなくても許されるキャラだった。

シノブは自覚のある異常なまでの光GENJIファンであり、あまりの異常さに周りが引くほどであったが、その引かれている自分をも自覚して楽しんでいるような性格の持ち主であった。
シノブはありとあらゆる芸能雑誌を買い漁っていたので、あっという間に私の下敷きを大沢樹生で埋め尽くし楽しんだ。
私の「付き合い大沢樹生」をシノブがサポートするカタチで、光GENJIを介した友情はエスカレートし、とうとうシノブは、阿蘇キャンプに向かうバスの中で、芸能オーディションだったか芸能事務所だったか雑誌のページに載っている何かだったかに「写真を送ってもいい?」と許可を求めて来た。
なぜ私に許可を求める必要があるのかと問うと、シノブが送ろうとしている写真は自分だけじゃなくて私の写真も含まれるからだった。
この時にはっきりと「付き合い大沢樹生」は危険だと、私は感じた。
ここまでの温度差はもう埋められないと思い、シノブとは距離を置き、その後は「付き合い大沢樹生」のテを使うのもやめた。
それからの私は付き合いで芸能界に手を出したりなんかしない正直者である。

シノブとの友情が光GENJIを介していなかったら、あんなにあからさまに距離を置くこともなかったと思う。
ただ、ガラスの十代で私も若かったし、シノブもまた若かった。
光GENJIが異常に好きだというだけで、芸能関係のどこかしらに写真を送るという発想になる十代の女の子の夢見がちな感情は十分、理解出来る。
しかしそれを友人と共有する女子感覚があることを、私は知らなかった。
それを学ばせてくれたのが、付き合いで手を出した大沢樹生だったと言えよう。

私は高校一年の阿蘇キャンプの後からキッパリと「私の人生はキャーキャー言わない変人でいい」と決めた。
決めたらすごいラクだったよ、無理してたんだと思うじつは。
夢中になることは人それぞれあってね、それが10代にとってアイドルじゃなかったとしてもおかしかァないのよ。
中学3年間はおかしいんだって思いそれを欠陥だと思ってて気付かなかったけど、高校一年で気付いてもぅそっからずっとラクよ。

そして改めて自分から、自発的に、誰かの影響でとか皆と違うのはイヤとかではなくて私、いま工藤静香が好き。
ファンと言えるほど工藤静香に詳しくないけど、好き。

どこが好きかの一番は「今の自分に正直」なのが、昔から変わんないとこ。
中学生になってから無理してた4年弱くらいでバレないように工藤静香情報は集めてるからね、工藤静香が出てる番組も見てるからね、似非でもファンて言っていいほどの時間を工藤静香に充ててるんだから、ファンって言っていいんじゃないかな…あ~ダメだな、工藤静香の誕生日が言えないならファンて言っちゃダメっぽい。
でも「好き」は言ってよくないか?
ヤフーニュースのコメントを見てると世間はわざわざ言わんでよろしい「嫌い」を言って叩いてるから、私の具体的な「好き」で10代の頃の失礼を詫びたい。

工藤静香、すんごい「今の自分に正直」なのがステキ。
私が「今の自分」に正直になれなくてラクじゃなかった4年の間も、思えば工藤静香は常に正直だった。
その4年間だけじゃないのよね、昔も今も変わらず常に正直な人なんである、自分を偽らない人なのだ。

アイドルなのにタバコを吸っていることを平気で番組で言っちゃうし、工藤静香ヘアを続けてる夜の蝶に「もうその髪型、終わってるから!」て言っちゃう。
過去の自分を振り返って「なんでかわかんないけど髪がこうなってなきゃヤだったの~」とか言っちゃう。

バレないように工藤静香情報収集をしてた4年間、その時々で「今の自分に正直」な工藤静香を目撃してるのに、なにひとつ吸収しなかったんだね、私…本当に失礼だよね「ファンです」て顔してたクセに、肝心なトコ見てないの。

作詞の「愛絵理」が工藤静香だという情報をファンである兄から得た時に、兄がドヤ顔なので「チッ」て舌打ちして自分のモノにしてた事を懺悔したい、なんせ頭のネジ外れてたから懺悔も桁外れ。

それでは、正直でいられなかった私の4年を懺悔して工藤静香に届けます、
ヤフーニュースにあがっている工藤静香記事のコメントでの袋叩きを、私のピンポイントの「好き」でどうか優しく包めますように。

森口博子がする大袈裟なモノマネを見て「ずいぶんだな~」て言う工藤静香が、好き。
雪・月・花のOfficial Videoでビニールハウスの中で歌う工藤静香が、好き。
37歳でフォトグラファーに「かわいい顔して笑ってて言われるとキツい!ツラい!」と嘆く工藤静香が、好き。

他人に対して失礼な態度を取ってしまっている自分がみえていない時は、誰にでもあると思う。
だいたいは未熟な年齢で「今の自分」が見えていないことが多いけど、ネット社会では熟した年齢でも「このコメントをしている自分」を見ずに投稿をしているのが垣間見れる。

昔とある事件のニュースであったのね、ネット記事に誹謗中傷が書かれてその中の一人の中年男性に法的措置が取られたんだけど、同じニュースのコメント欄で同じように誹謗中傷してた人たちが「何をしたか」て行動の事実は、謝罪の書き込みではなく誹謗中傷コメントの削除だったの。

現実社会で「クチを開けば誹謗中傷ばかり」だと仕事にありつけなくなるのは時間の問題だけど、ネットで誹謗中傷コメントを送信できているということは通信費を払える経済状況にあるわけで、何らかの職に就いていることの証である。

もうそろそろ「今の自分」を見ないか。
見たら正直な感想を言わないか。
結構、度々、失礼ぶっこいてるよね誰でもわりと簡単に。
失礼ぶっこいてるな~て自分を客観視できたらそのタイミングで、好きなところを数えていけたらな~て思うので、私は言う。

昔から「今の自分に正直」に生きている工藤静香が、好き。
今の状況で今の自分に「めげるようなコメント」に対して反応するようなことが少ない工藤静香が、好き。
「何に目を向けるか」の工藤静香の選択が、好き。

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