#カワイクイキタイ1「この度はご期待に添いかねる結果となりました。」
誠に残念ながら、この度はご期待に添いかねる結果となりました。今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。いえ、とんでもない。添いかねたのは私です。添えなくてごめんなさい。でも、勝手に期待しないで。理想を押し付けないで。思った通りじゃないからって勝手にがっかりしないでよ。
私にできることなんてなーんにもない。愛にできることもなーんにもない。あなたを救うことも、理想の人でいることも。期待されても、きっとがっかりさせてしまう。私がどんな人かなんて、私だって分からないんだもの。ただあなたの中に居る私には何度か会ったよ。あなただってそうでしょ。あなたの中に私が居て、私の中にあなたが居て、自分に会って自分を抱きしめてるのよ。
どこに帰ったらいいんだろう。あの家の鍵はもうないし、他の誰かが住んでる。私たちが住む前も、他の誰かが住んでたらしいってそんなの信じられる? だからね、たぶん、あそこはもともと私たちの家なんかじゃなかったんだよ。
そんなことより、好きなものの話をしよう。
好きな本をどこにでも連れてゆく。お風呂にもトイレにも。湿気を吸ってフヤフヤになる。好きなページを折ってマーキングする。どんどん立派じゃなくなってゆく。でも関係ない。だってこれは私のものだし、これからもずっと一緒にいるんだからなんの問題があるっていうの。それこそが愛だって本気で信じてたし、傷つけてるなんて知らなかったの。どうしたら許してくれる?
そんな事より好きなものの話をしようってば。
たとえば、本人がいないところで話すこと。たとえば、好きそうだなと思って買うケーキ。そうゆうのは大体当たってて、的を得てて、さも私こそが真実ですといった顔をしてる。
私の好きなものがあなたは嫌いだったね。スパイスの効いた異国の料理、露出の高い派手な服、床がベトベトのきったない飲み屋。私から言わせればあなたの服の方がサイテー。なんの変哲もない服!そんなの着て何が楽しいのって感じだし、どんな味かわかってるものなんて面白くもなんともないじゃない。あーでも、確か、そうゆうとこが好きだったな。確か、そうゆうとこが好きだって言ってなかったけ。
ねえ、さっきから私ばっかりばかみたい。
そういえば、ひとりで見たんだったかふたりで見たんだったかもう忘れてしまったけど、あの映画。カップルが喧嘩して終わっちゃって、悲しいから記憶ごと消しちゃう、あの映画。君のバカみたいなオレンジ色の髪!臆病者で小心者で傷つくことから逃げてばっかり!そんなところが大嫌いだった!そんなところが大好きだった。
あー、忘れちゃった。さっきみつけた宝石の言葉。どんな言葉だったっけ。とっても素敵だったことだけは覚えてるのに。また探さなきゃいけない。到底無理だ。だって、形を変えてしまっているかもしれない。私が二時間前とは違う人なのと同じだもの。「何で忘れちゃうの」って、だったら覚えておいてくれればいいじゃない。私の代わりに、私の事、覚えておいてくれればよかったじゃない。
なんの話をしてたんだっけ。
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