#カワイクイキタイ3「ナカ」
また要らなくなって、剥がれ落ちたばかりの子宮内膜は便器の白だかオフホワイトだかを真っ赤に染めて「わあ、キレイ」だなんて思うわけもなく、私の中から出て行った。せっせとこしらえた誰かのための寝床は、この度も使われることなく、何の役にも立たず、便器と下着を汚しただけだった。
いらっしゃい、もしくはおかえりと招き入れては、いってらっしゃい、もしくはまたねと見送る。その繰り返し。
この国のこの都市のこの町で、ダメになった男女がどのくらいいるのかと思うと、とるに足らないことには違いない。なぜならこの町の名前をタイトルにした曲がこの世にはごまんとあり、そのほとんどがラブソングであり、そのほとんどが別れの曲だからだ。
ダメになった男女と、ダメな男女しかいない、ダメな町。
パンクロックを聞かない君とアニメソングを聞かない私、たばこを吸わない君と吸う私、そんなのはただの違いでとても些細なことだった。ほんとに、些細なことだった。些細な違いはいつの間にか巣を作って、ブンブン音を立てながら部屋中を飛び回った。たまらず専門の業者を呼んだら白い防護服の人がやって来て「もう手遅れです。」と言った。
逃げなきゃ。またせっせと寝床をこしらえる。真っ青のカーペット。変な柄のカーテン。男と女の痴情ばかり描いためんどくさい漫画。おっぱいが出てる女のポスター。ここに居れば傷つかない。誰も招き入れなければいい。妬みや嫉みでドロドロになって原型をとどめてなくても、誰にも気付かれない。外で人間のふりをしていれば。
私を守るバリケード、君が見たら嫌な顔をしそうだと君が居ない部屋で思った。あんなに嫌いだったあの「ゲッ」って顔。私を傷つけるあの残酷な顔。もっと好きな顔があったのに、どうしてあの顔が浮かぶんだろう。
絶対あるはずなのにこの部屋のどこにもない。勘違いだったか。じゃあどこで見たんだろう。前の恋人の家だろうか。それとも前の前の恋人の家だろうか。そういえば、なし崩し的に転がり込んだあの人の部屋は好きだったな。あの人の中みたいにとっちらかってて、身動きが取れなくて、狭くて苦しくて大好きだった。
目の上の腫れじゃ物足りなくて目の中に入れてみた。ゴロゴロしてうっとおしくて、いっそう愛おしく思った。君のそういうところが私をむかむかむかつかせた。分かってなんて一言も言ってないのに、分かんないことがそんなに問題? 分かんないままでいいじゃない。分かんないから分かりたいんじゃない。ねえ!聞いてる!?と強く腕を引っ張ったらガラガラと崩れて砂になってしまった君。ごめんなさい。もう話せないね。
好きでも嫌いでもなくただ「わあ、キレイ」と言ってほしかったの。要らなくなった私の一部をジャーっと流しながら言ってみた。わあ、キレイ。わあ、キレイ。わあ、とってもキレイ。
それは、くるくると踊るように出て行ってしまいましたとさ。