#カワイクイキタイ4「私を通りすぎていった神様へ」
信じましょう、あなたのことなら。たとえ間違っていたとしても。
目を開けて最初に会ったその人は、祈りとも呪いともとれる名前で私を呼んだ。どうか幸せになりますように。どうか幸せになりますように。まるで幸せでいなければならないかのように。祝福をあなたに。いいことがありますように。いいことがありますように。まるで今までいいことがなかったかのように。
幸せになってね、とあなたは言いました。幸せじゃないって、今の今まで知りませんでした。そしてあなたもまた、祈りとも呪いともとれる言葉をのこして、私を通りすぎてゆきました。
知ってました。神様は嘘つきで、生き物を殺して食べていて、それなりにスケベで、エコ贔屓だってして、好きになったり嫌ったり気まぐれで、お願いなんかひとつも叶えてくれないこと。
それでも、私はあなたが好きでした。ほかの誰が信じなくても信じていました。願いを叶えて欲しいなんて、もうまったく思っていませんでした。「なんてひどい神様だ」と他人は言ったけど、当の私はそれはそれは満たされていて、どうせならこのまま死んでしまえますようにとすら願っていました。「ひどい神様だ」と言ってくれてうれしくて、すこしむかつきました。ひどいと言っていいのは私だけなのにと思っていました。どうしようもない私の神様。どうしようもなくかわいい私だけの神様。
うっかり間違えて、ちがう電車に乗ってしまいそうです。うっかり間違えて、会いに行ってしまいそうです。あなたも夜の部屋で一人のたうちまわっていますように。あなたの検索履歴も恥ずかしいものでありますように。あなたも趣味の悪い妄想と頭の中で会話していますように。サトラレだったら自殺しているようなことを考えていますように。こんなに鬱屈した感情を持っているのは私だけではありませんように。どうか、あなたもそうでありますように。
そんなことはきっとありえないのですが。
みんなが上手に嘘をついて、まともなふりをしています。そんなこと考えたこともないですと言って笑います。ぜんぶ嘘ではないけどぜんぶ本当でもない、聞かれても困らないような耳障りのいいことだけを口にします。とても上手に演じています。そして最後にこう言います。ほんとはもっとこうしたかった。なるようにしかならないのなら、なりたいようにしてみればよかったと。
でも私は思います。誰かのためと自分のために、上手に嘘をついていい。もっとなりたいようにしてみればよかったと言いながら、やりたいようにしなかった人はやさしい。とても言えない言葉も、喉まで出かかったお願いも、ほんとはどうしたいかも、どうだっていいのです。どうだっていいから、あなたにはやさしくいたいと思ったのです。せめて約束したいと思ったのです。それで充分。充分すぎると思いませんか。
神様、私だけの神様。どうかそのまま泣いたり笑ったり、私の脳みそを程よく占領しながら、できるだけ永く住み着いてくれますように。そしていつかきっとあなたも、私を通り過ぎてゆく。それでいいです。それでいいから、どうかあなたが幸せでありますように。
これじゃまるで呪いだけどね。