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“楽しい”を仕事にする方法。心が満たされる働き方とは?

モバイル屋台って知っていますか?


一人で簡単に組み立てられて、持ち運びもラクラクな「モバイル屋台」。

皆さんはもうご存じでしょうか?公園や駐車場など、どこにでも小さな自分のお店を持てるなんて、ちょっと魅力的ですよね。

この屋台を使って活動する人たちを「屋台家」と呼ぶそうです。京都を中心に広がり、すでにその仲間は50人以上。それぞれが自分のペースで自由に活動しています。


私とモバイル屋台の出会い

私が初めてモバイル屋台を知ったのは、友人のFacebookに投稿された一枚の写真がきっかけでした。

Asada Ayanoさん

この写真を見た瞬間、「かわいい!」と心を奪われ、気になりすぎて、友人のヨシコさんを誘って、この活動を始めた橋本千恵さんに直接お話を聞きに行くことに。

橋本さんの第一声は「面白いんですよ」。

続けて「勝手にどんどん広がっていて、すごいんです」と笑顔で語る姿に、私もワクワクが止まりませんでした。


モバイル屋台の自由さ

橋本さんによると、モバイル屋台には「こう使わなければならない」というルールがありません。使い方も目的も、人それぞれ。

例えば、
子どもたちが自分たちの研究を発表したり
ワークショップを開催したり
お話をきかせてくれた人に駄菓子をプレゼントしたり

中には「やりたいことがわからない」という状態から始めた人もいて、「屋台があったら、あなたなら何をしますか?」と来られた方に情報収集したりもしています。

自由で気楽なスタイルが魅力です。


橋本さんの原点

この活動がどのようにして始まったのか。その背景には、橋本さんが長年福祉の仕事に携わっていた経験があります。橋本さんは、20年以上にわたって福祉分野で情熱的に働き、特に小規模多機能型居宅介護の管理者として深い満足感を得ていたそうです。地域に開かれた介護施設を目指し、日々の業務に追われながらも充実した日々を送っていました。


一つ目の転機

しかし、人生には予期しない転機が訪れるものです。橋本さんの母親の病気がきっかけで、人生の最期を意識することになり、橋本さんは自身の生き方を見直すことになりました。そして、職場と家を往復する毎日を送りながらも、ふと気づいてしまったのです。「自分が住んでいる街や地域とのつながりが全くない」と。

この発見は橋本さんにとって大きな衝撃でした。「自分は福祉の仕事で地域とのつながりを作っているのに、実際の自分は誰とも深い関わりを持っていない」と感じた瞬間です。

同時に、体力的な限界や、漠然と「この仕事をずっと続けるのは難しいかもしれない」と考え始めていた時期でもありました。

そして彼女は職場を辞める決断をします。「肩書きもなくなり、お金も稼いでいない。この先どうしよう」という不安と共に、自分の本当にやりたいことを探す日々が始まったのです。

最初は、新しい資格を取ることを考えて勉強を始めたり、自分に向き合ってみたりした橋本さん。

その間も、”私のつながりを作りたい”って仕事を辞めたんだからと、「つながり」を作るために地域活動やまちづくりの現場に足を運び始めました。


二つ目の転機

そうして橋本さんが出会った、『中京マチビトCafé(区役所が開催するまちづくりに関わる人が集まる場所)』は、その後の人生における大きな転機となります。

ここで「ホップを育てたい!」という突飛なアイデアを提案したそうです。

一見唐突に思えるこの発言の背後には、福祉分野で学んだ「介護施設と地域をつなげる」という経験が強く影響していました。

介護と地域をつなぐプロジェクトがきっかけ

介護施設に勤めていた頃のことです。橋本さんは厚生労働省の研修に参加します。『年をとっても楽しく人生を送るために』何が必要か考え研修参加者がさまざまなプロジェクト提案する中で、”「ビールを作る」プロジェクト”に参加していました。

「施設に行かないと飲めない、特別なクラフトビールを作ろう」というアイデアが生まれ、それを施設の入居者であるおじいちゃんやおばあちゃんがサーブすることで、日常に楽しみややりがいを生み出すことができるのではないかと考えたのです。

しかし、麦を育てるためには広大な土地が必要となります。そこで、ふと思いついたのが『ホップならどうだろう?』というアイデアに至ったそうです。

退職後に、このことがふと湧いてきて「ホップを育てたい!」という提案につながったのだとか。こうしてお聞きしていくと、橋本さんの活動は、地続きだとわかります。

会社という枠を超えただけなんです。


ホップ栽培から広がる、ゆるやかなつながり

この活動で橋本さんが目指したのは、ホップ栽培を通じてつながる、自由で気軽なコミュニティでした。そこでは、参加も抜けるのも自由。何よりも「つながり」を大切にした取り組みです。

ホップ栽培を通じたつながり作りは、次第にその輪を広げていきました。

  • 1年目:区役所の屋上庭園で園芸種のホッププランター栽培をスタート。

  • 2年目:栽培が広がり、個人や高齢者施設、障害者施設でもホップ栽培が行われるように。

  • 3年目:ついに新潟のホップ農家さんから食用ホップの株を入手。30箇所で栽培される。

  • 4年目:「エビバデ京ほっぷ」のホップで作ったビール「エビバデ京エール」が商品化され、イベントで即完売!


エビバデ京エール


私が気になって質問したのは、最初の一歩についてでした。

私:「ホップを育てたい、と提案をした時には、株の入手や育て方、さらにはビール造りの工程まで具体的にイメージできていましたか?」

橋本さん:「いいえ、全くです。」


私:「それでもやってみたのは、完璧なビールを作ることが目的ではなく、“つながり”を作りたかったからなんですね?」

橋本さん:「はい、そうなんです!」

橋本さんが「つながり」を軸に活動を続ける中で、自然と新たな展開が生まれていきました。

「つながりだけを意識していたら、新潟のホップ農家さんとつながり、ホップの株が手に入り、ビール醸造会社ともつながりました。そして商品化まで進んでしまったんです。本当に人が関わると勝手に進んでいく。それが面白いんですよ。」

「完璧を目指してないんです。失敗してもいいんです。『育たなかったね』って一緒に笑い合えることにも意味があるんですから。」と彼女は語ってくれました。

橋本さんの言葉には、「結果」よりも「過程」を楽しむ大切さが詰まっています。

その軽やかな姿勢こそが、多くの人々を惹きつけ、つながりを生み出しているのかもしれません。


管理職時代の橋本さんと現在の違い

そこで、私は気になって質問してみました。

:「勤めていた頃の橋本さんって、管理職で目標達成に向けてみんなを引っ張るのが得意だったんじゃないですか?」

すると、橋本さんは少し懐かしむように答えてくれました。

橋本さん:「今だからわかるんですけど、あの頃は『これを目指していこう』とみんなを牽引するのが本当に苦手で、しんどかったんです。ちゃんと目標を設定して、そこに向かうために何をすべきか考えるのが当たり前だと思っていました。でも、それが本当に苦しかった。」

「だから今は、何にも考えず、手綱を引かなくていいのがとても楽なんです。自分のペースで、つながりを作りながら自然に進むのが心地いいと感じています。」

橋本さんの言葉には、「こうでなければならない」というプレッシャーから解放された現在の生き方がにじみ出ていました。


三つ目の転機 モバイル屋台はどこから生まれるの?

「モバイル屋台」というユニークな取り組み。これが生まれた背景には、橋本さんの3つ目の転機がありました。


コロナ禍での気づき

ホップ栽培を通じて人々との「つながり」を楽しんでいた矢先、世界中を襲ったコロナ禍。イベントの開催や人が集まることが難しくなり、活動を見直す必要に迫られました。

「どうしたら、つながりを続けられるだろう?」そう考えた橋本さんは、かつて福祉分野で学んだ「アウトリーチ」の手法を思い出します。

それは、医師と患者の関係を越えて、一人の人として出会うために、屋台でコーヒーを提供していた豊岡のお医者さんの取り組みでした。

「これだ!自分から動いていけばいいんだ!」とひらめいた橋本さんは、「持ち運べる屋台を作ろう」と動き始めます。


手作りから始まった挑戦

橋本さんは、これまでと同じようにまず「人に話す」ことからスタート。アイデアに共感した仲間たちと一緒に、ホームセンターで木材を買い、試行錯誤しながら折りたためる屋台を完成させました。

そして、最初にその屋台を出したのは、京都の鴨川デルタ。その場に座っていると、自然と人々が「何してるの?」と話しかけてくれるようになりました。

これが「モバイル屋台家」の始まりです。

橋本千恵さんとモバイル屋台

広がる屋台家の輪

モバイル屋台を見た人々が、「私も欲しい!」と次々に声をかけてくれました。そうして屋台家の輪は自然と広がり、各地で活動が生まれていったのです。

「ホップ栽培と同じです。ゴールを決めず、ただつながりを作る。それだけを意識していると、人が勝手に面白がって広げてくれるんです。」

橋本さんは、管理や指示をするのではなく、それぞれが楽しんで動くことを信じています。その結果、屋台家はすごい勢いで広がりを見せています。


モバイル屋台家のみなさん in 京都市役所前

自分の軸を生きる

橋本さんは活動の秘訣について、こう語ります。

「いろんなことをやっているように見えるかもしれませんが、私は一つのことしかやっていません。それは、“私を中心にしたつながりを作ること”です。」


気になるお金の話

最後に、どうしても気になったので尋ねてみました。

:「あの、収入はどうしているんですか?モバイル屋台やビールでは、あまり稼ぎにならないイメージがあって…。」

橋本さん:「実は、就職活動はしていないんです。気づくと、“この仕事しませんか?”とお声がけをいただいています。期間限定の仕事が終わる頃には、次の仕事のお誘いが来るんです。」

自分の軸を生きる姿が、多くの人を惹きつけ、自然と新しい仕事やつながりを引き寄せているのだと感じました。


ポートフォリオワークという新しい生き方の提案

橋本さんの活動を通じて伝わってくるのは、「自分の中心を生きること」の大切さ。自分の本当に大事にしたいことを明確にし、ブレずに進む生き方です。

お話を聞かせてもらいながら見えてきた彼女のポートフォリオがこちらです。

ポートフォリオワークとは、自分の存在意義を複数の活動を通じて表現する人のことです。
https://hontounoshigotoonline.mystrikingly.com/


そして、その活動を支えている秘訣は、この3ステップにあるのかもしれません。

橋本さんの仕事術:3ステップ

1、まずは話してみる
 「これ、面白いと思いません?」と言えそうな人に、まず話してみる。
2、一緒にやってみる
 「面白いやん!」と言ってもらえたら、一人ではなく一緒にやる。
3、今を楽しむ
 ゴールを決めず、目の前の楽しさを大切にする。


橋本さんのこれからは?

「現在取り組んでいる「WOW!」の活動をさらに広げたいと考えています。」と語る橋本さん

「この活動では、認知症や障害を持つ人たちと、支援する・されるという関係ではなく、一緒に街で暮らしやすい環境を作ることを目指しています。社会にある「当たり前」の認識を変え、誰もが暮らしやすい街を実現する挑戦です。」


橋本さんの活動が気になる方はこちら!

2025年の毎月第3金曜日は、京都市役所前でモバイル屋台家が出現している可能性あり!興味を持たれた方は、ぜひ橋本さんの活動に触れにきてみてください。

「本当の仕事」、天職の道を一歩踏み出すきっかけになるかもしれませんよ!


中)モバイル屋台家:橋本千恵さん 左)コーチ:能瀬良子・右)やまと式かずたま術:正木智砂

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