二連覇達成 FC多摩
■プロローグ
1年という月日は、あっという間に過ぎ去る。
西が丘サッカー場に射し込む西陽が、満面の笑みと青い戦士たちのユニフォームをキラキラと輝かせ、笑顔をいっぱいに喜びを爆発させてグラウンドを駆けていたのが、つい昨日のことのように感じた。
2020年2月9日
今年の西陽もまた、同じように射し込み、たくさんの笑顔を輝かせていた。
その先に広がる青空に、ふと目を移すと、42番をつけた少し小さな戦士が、懸命に闘う姿が浮かんでは消えてゆく。
遠い記憶でありながら、刻み込まれた歴史は、全く色褪せることなく甦ってくる。
いつの日か、今日の姿を思い出す場面に遭遇することを期待しながら。
■支配した前半
2019年度東京都U-14クラブユース選手権 決勝
FC多摩vsFC東京むさし
2年連続同一カードとなった。
FC多摩 スターティングイレブン
GK
1 水沢俊太
DF
2 李 京樹
9 山倉 渉
4 吉田幸慎
3 鹿子島尚人
MF
25田中ショーン涼太
8 山下悠斗
14丸山正剛
18バルア ロイ
10貴田遼河
FW
5 水野 唯
交代
28白石昊輝
34北村温人
15古川結翔
この年代を観戦するのは2試合目。
1試合を通して観戦するのは初めてであり、決勝戦という普段とは異なる特別な空気のなかで、どれぐらいカラーを出せるのか、とても楽しみにしていた。
前半35分を支配したのはFC多摩。
スローな展開に感じる場面もあったが、それは感じるだけであって、常に彼らはむさしにとっての危険なエリアを狙い続けながら組み立てていくため、むさしも勝負処を除いては、なかなかうって出られない時間が続いた。序盤こそわずかのロングボールがあったものの、ショートパスとミドルパスを駆使し、むさしを圧倒する。
特に目を引いたのは、機をみてからの縦へつける楔のパス。これが成功するとかなりの圧をかけての連続攻撃が続いていた。しかし、これがミスになると、むさしのカウンターが襲いかかるが、単発的な仕掛けが多く、FC多摩ゴールを脅かすところまでは行けない。
ただ、むさしは昨年同様、「高さ・速さ・巧さ」を兼ね備える選手が多く、さすがはJアカデミーという感満載で、少しでも気を抜こうものなら、あっさりとやられてしまいそうな恐さを持っていた。ポゼッションにおけるスピードが少しでも弱まると、そこをサッと狙うところも、サッカーIQの高さが伺えた。文章の文字だけ見ると、簡単なプレーっぽく捉えられるかもしれないが、高円宮U-18プレミアリーグやプリンスリーグの得点シーン(失点シーン)においてもしばしば見た記憶がある。
この日のFC多摩は、確かにボールをよく動かしていたが、一人ひとりがドリブルでしかける場面も多々あり、まるでスキルを試している?ぐらいの余裕さを感じる場面も多々あった。
24分 先制点はFC多摩。
じりじりと押していたなか、4吉田君からのフィードを受けた10貴田君がPA内でGKと1対1になるかという場面まで行き、左に流れたボールを2列目から走り込んできた18バルア ロイ君がズドンと蹴り込みゴール‼️
FC多摩が前半を1-0でリードし折り返し。
■形勢逆転された後半
後半になると、時間が経つにつれ、むさしが展開を盛り返し始める。
前半気になった点として、前線における基点が少なかったことだ。10貴田君に入ると2枚ぐらいはマークを剥がせるが、むさしもそこは厳しくついていく。徐々に奪われ方が悪くなったり、深く攻め込むことができず、中途半端な散らしやドリブルが散見されるようになった。
それは逆に言うと、むさしの展開が良くなってきたということである。FC多摩の2ボランチ、2CBのボックスが強固なため、中央で基点を作らず、サイドからの攻撃を増やしてきたようだ。
むさし左SBは小柄ながらも屈強な体と、スピードにのったドリブルでどんどん仕掛け、右サイドの選手もどんどん飛び出していき、明らかにチャンスを演出していく。FC多摩は、なかなか自陣から押し上げられない状態が続いていた。
何度かのCKが続き、そろそろ嫌な感じがしていたとき、CKの流れからむさしが同点弾をもぎ取り、振り出しに戻した。
FC多摩1-1FC東京むさし
このまま行くと、この年代やU-18年代では、ズルズルと相手ペースに流れを掴まれ、一気に逆転をゆるすパターンにはまるが、そこをまた跳ね返してじっくり攻め立てることができるのがFC多摩。
ビッグチャンスが到来。ここも10貴田君が絡んでいる。ドリブルでPAへ侵入しようというところを左へ流した。そこでフリーになっていた25田中君が右足でシュート‼️
一瞬だけ静けさを呼び込み、決まったかに思われたが、ゴール右側に外れ、FC多摩応援団にも落胆の声があがった。
試合はそのまま終了。てっきり延長戦に入るもんだと思っていたら、レギュレーションは即PK戦。もう少しの間、両チームの激闘を観たかったが、こればかりは仕方がない。
■いざPK戦へ
FC多摩は準決勝に続いて、連続のPK戦となった。先攻はむさし。ここで、準決勝の東京ヴェルディ戦でも活躍したGK1水沢君の活躍に期待がかかる。
FC東京むさし ❌⭕⭕❌
期待どおりに1水沢君が2人をストップ。
FC多摩 10貴田君⭕14丸山君⭕9山倉君⭕4吉田君⭕。4人目の吉田君が成功し、PK4-2でFC多摩が2連覇達成。コースは読まれていても、スピードと厳しいコースにきっちり蹴ることができていた。
■雑感
新生FC多摩は、間違いなく10貴田遼河君がキープレイヤーだ。抜群のスキル、競り合いの高さ、ハードワーク、どれをとっても群を抜いている。多くを語らずとも、昨夏の全国クラブユース選手権での活躍から、多数のJアカデミー、高体連チームが目をつけて、争奪戦となるだろう。今後、大黒柱としてどのような成長を遂げるのかとても楽しみである。
ただ、この決勝戦においては、きっと本人も感じてるだろうと思うが、ゴールを奪うという決定的な仕事で優勝に導けなかったことに、悔しさや責任を感じているのではないだろうか。
そして、今年もまたダブルボランチが面白い。14丸山正剛君と8山下悠斗君の二人だ。当たり前とも言えるのだろうが、展開力とセカンドボールの奪取は新生FC多摩にも健在である。さらなる激しさが加われば、このダブルボランチは飛躍間違いなし。
二人のセンターバックも際立っていた。9山倉渉君は、ゴリゴリと思わせといて、しなやかなプレーが印象的。そして、超強力メガトンヘッド。関東リーグでどれぐらい通用し、どのように磨きがかかるか楽しみである。もう一人のセンターバック4吉田幸慎君。個人的に彼はこの試合で、一番目で追っかけていた選手だ。
最大にグッと来た瞬間は前半。むさしオフェンスが右サイドからスピードにのり、4吉田君を抜きにかかろうとしたときだ。後方からドリブルしトップスピードにギアが入り、同一ラインに並び、前方に抜け始めたため、これはやられたなと思った瞬間に、スッと体を寄せむさしオフェンスに体をあてながらボールを奪った。そのまま並走しようとしても、スピードで置き去りにされるパターンだったが、もっとリスクの高いブロックをあのギリギリの場面で選択したのは素晴らしかった。1点目の基点となったフィードも、彼の左足から放たれたものだ。関東リーグで各チームのFWやMFと対峙し、さらにスケールの大きい選手に成長することを期待している。
■エピローグ
私が観戦していた場所の目の前では、一人の少女が大きな声を出し、両手に持ったボンボンを振り、一生懸命に応援しゴール裏にも負けないぐらいに選手を鼓舞していた。
どのチームにも夢中になって応援してくれる人がいる。
それだけでもきっと、大きな大きなエネルギーに変わるのではないだろうか。
既にU-15年代のリーグが始まっている地域もある。春を待たずして長いリーグ戦、そして、クラブユースや高円宮杯に繋がる熱き闘いが幕を開けている。
東京都U-14クラブユース選手権二連覇を果たしたFC多摩は、どんな春を、そして各カテゴリーでどんなリーグ戦を展開していくのだろうか。チーム内における競争もきっと激化してくることだろう。
不撓不屈 チームスローガンのもと、次に観戦するときは、さらに“FC多摩らしさ”に磨きがかかっていること期待して観戦記を閉じたい。
西が丘の蒼い空はどこに続いていくのか。
これからも やってこーよ。