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あの日のお散歩


車で帰りを急ぐ夕暮れ時。交差点の先に、リードに繋がれたワンコが歩いていた。お散歩だ。飼い主らしきお姉さんと一緒に歩調を合わせて歩いている。小型のワンコ。時々飼い主のお姉さんの方を見上げる。

言葉が喋れるんだとしたら、きっと「エヘヘ」って言ってるんだろうな、そんな感じでお姉さんを見上げる。きっとこの上なく楽しいんだろう。

足取りも軽やか。まるでダンスでもしているように、後ろから見ているとお尻が上下左右に揺れている。お散歩が嬉しくて仕方がない、そんなワンコの心持ちが表れているお尻のダンス。


そんなワンコのお散歩の光景を見ていたら、懐かしい思い出の場面にタイムスリップした。


私4〜5歳。お天気の日曜の昼下がり、父とお散歩に出かけた。家の近所のお散歩だから、私は裸足にサンダル。歩くたびに「ピコピコ鳴る」サンダル。父もサンダル、こちらは普通のサンダル。

その頃の住まいは、小さな山の麓。なぜかその登山道の入り口の方へ、お散歩で登って行った。

登山道の入り口付近で父は私に聞いた「登るか?」と。

お散歩が楽しくて仕方ない幼稚園児の私は「うん!」と元氣に返事をした。

そこから大人と幼児の「サンダル履き山登り」が始まる。


小学生でも普通に運動靴を履いていれば、2時間かからずに登れる山頂を目指して「サンダルの二人連れ」は登り始める。


ところどころに出てくる急な登り坂では、抱っこしてもらったり手を繋いでもらったりしながら、ふーはー言いながら、二人で登る。


一方、家では母と姉が待っていた。近所に散歩に行っただけなのに帰ってこない。どこまで行ったんだろう?当時は携帯電話などなくて連絡はつかない、ただヤキモキしながら待つだけだった。


子どもでも2時間足らずで登れる山道だけれど、サンダルの二人連れはどれぐらいの時間をかけて登ったんだろう。残念ながらその記憶は二人とも残っていない。


グズることも泣くこともなく、ピコピコと地面を踏み鳴らしながら、山道を楽しく元氣に登り、山頂に到着してジュースを買ってもらった。カラカラの喉が一氣に潤った。


帰りはケーブルカーに乗った。サンダルだと登りはいいけど、下りは滑って危ないし、何より時間がかかり過ぎる。


帰って来た父は、母にとっても怒られた。怒られながらこちらをみて笑っていた。


ピコピコサンダルは山の土がついて汚れてしまった。


それでも、楽しかったお散歩の思い出。


ワンコの後ろ姿が、幼い自分のピコピコ歩く後ろ姿に重なった。



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