ゆるゆるとした日々
ある日のこと
畑の真ん中に穴が空いた
氣になって覗いたら向こうからも誰かが覗いている
そんな不思議な穴が空いた
穴の中に水を注いでみたら
どんどん吸い込まれて
最後にはジョウロも中に落ちてしまった
これは大変
ジョウロを取りに行かないと
水をやるときに困るよね
思い切って穴の中に入ってみる
すぽん
入る前は暗いと思っていた穴の中
入ってみてびっくりする
そこに広がるのはこちらと同じ景色
あれ
確かに穴に入ったのに
見えるものは今までと同じ景色
ただ
目の前にジョウロが落ちていた
ああ
やっぱりここは穴の中だ
景色は同じだけれど
こちらにはジョウロがある
ジョウロを拾って上をみる
どこからここにきたんだろう
どうやって元の場所に戻るんだろう
ジョウロに水を入れてみたら
目の前の畑の地面に穴が空いた
さっきよりちょっと小さい穴だけど
そっと覗いてみたらやっぱり誰かがこちらを覗いている
戻る必要があるのかな
ふとそんな氣分になる
だってジョウロがあるかないかだけで
他は全く同じ景色
あちらとこちら
こちらとあちら
本物はどちらかわからない
それでもやっぱり帰ろうか
ジョウロの水を穴に注ぐ
ジョボジョボと水と一緒に
するっと穴の中へ吸い込まれた
見上げると空の上には大きな太陽
ちゃんとジョウロを握っている
ああ良かった
落ちる前の畑の場所に戻ってきたんだ
本物か偽物か
どっちがこちらで
どっちがあちらかわからないけれど
それでもとにかく戻ってこれたみたいだ
目の前にはまだ芽が出ていない畑が広がる
こちら側の昼下がり
ゆるゆると柔らかな風が吹いていた
水遣りのときに氣をつけないとね
穴にすぽんと落ちないように
ゆるゆるした日々を過ごしながら思うこと
どこかにするっと落ちないように