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リメンバー・ミー

社会人成りたての頃
終末期の病院で働いていた。 
夜勤ばかりしていた。
昼勤務は月10日も無かった。

まだまだ若かった私は職場で〇〇ちゃんと呼ばれ可愛がって頂いていた。
業務の割には
人間関係が非常に良好な家族的な職場だった。

しかし病気の方の最期の命の灯火が消える瞬間には何度も立ち会わなければならなかった。


多分週に1〜3人位は薬で苦痛を和らげながらも天国に旅立っていくのを自然な形で見送る。
そんな現場だった。

お休み以外はその方々と
朝も昼も夜も勤務時間は共に最期の時間を過ごしていたが、部屋を訪れる度、彼らは笑顔で穏やかだった。

昔の本を取り出して嬉しそうに話してくれたり
昔の狩猟の話をしてくれたり
好きな食べ物の話
娘や息子さんの話
故郷の話 
時にナーバスになりポロっと出てしまう弱音
退勤時間を忘れて話し込み、よく同僚が迎えに来た。

部屋に入ると笑顔で迎えてくれる何となく温かい部屋全体の空気感は
翌朝出勤すると
突然殺風景で真っ白な冷たい空気に変わる事が日常茶飯事だった。
あーさよならが言えなかった。と悲しい気持ちになりながらも気持ちを切り換えていた。

天国に旅立つとても苦しい瞬間に立ち会っていると

もうこの方とは楽しく話す事も会う事すらも出来ないんだ。と何とも言えない命の儚さと寂しさを感じていた。


天国の皆さん、元気にしていますか?
私は一人一人をよく覚えています。
人生に立ち止まると時々お顔を思い出します。

いつか私もそちらに行く日が来るでしょう。
遅いか早いかは誰にも分かりません。
その時はお茶を飲みながら懐かしい話しましょう?


命果てるまで出来るなら精一杯生きてゆきたい。
せっかく頂いた命は投げ出しちゃいけない気がする。
私がお腹に宿った時皆が喜び、母がお腹でずっと大切に温めながら育った命。
私だけのものじゃ無い。


亡くなられた大切な方々はきっと
さよならじゃなく形を変えて

見守ってくれているんだよね。
そう信じている。


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