鳥獣戯画4

 
 
4       コン
 
それを見つけたのは本当の本当に偶然で。
誰かが捨てたであろうガムの包み紙を拾ってごみ箱に捨てようとして気が付いたのさ。
ゴミ箱の後ろ側にちょこんとした、小さな小さな半透明のピンク色の立方体が二つ重なっている。言葉にして例えるなら、そうとしか言い表しようがないもの。目が一つ。目だというのも瞼のようなものが上の段に付いているので、目だと思ったのだが果たしてそれも目なのかも、疑わしいものだった。
足の様に摘まみ上げた角のようなものが二本、ちょこんとその地を捕まえている。
『これはこれは珍しい。私たちに気が付く者もいるのですね。この方はおそらく徳が高いのかもしれないね。異次元人みたいなものかね。それでもニンゲンこそは変わっているよね』
何処からか声が頭の中に響き渡る、それに口のようなものは見当たらない。小さすぎて、わからないだけなのかもしれない。
「あの、君が何かを言ったのかい?」
『をを、通話(言葉)も聞こえるんだね。大したものだね。この方はおそらく、お目が高いんだろうね。過去原人みたいなモノかもね。それじゃあニンゲンこそは変わっているよね』
これは何かの妖精の一種か何かなのかな?
こんな不可思議なものは今まで習ったこともなければ見たことはないぞ。
『いやいや、そんな大したものじゃないよ。そう言うほどではね。どこにでもあるからね。ああそうか君らからしたら居るになるのかな』
私の頭に書いた言葉を読み取ってそれは会話を仕掛けてくる。どこからか。
ちょっぴり怖さを感じる。
『そうだろうね。君らは知らないものには少しの怖さと少しの興味を持って行動する。あまりにも突飛なことをする奴もいるくらいだからね。ニンゲンこそは変わっているよね。それが本当に面白いんじゃないか』
何人かが一斉に話をしているよう。
頭の中がごちゃごちゃになってくる。私は何かの病気なのか?これはいったい何の生き物なんだろう?頭の中が整理できていかない。頭の中の整理が追いついていかない。
そこへ、遠くから救急車のサイレンがこちらに近づいてくる。
ますます私は混乱していくんだ。
『混乱だね。興味深いね。恐れの次によく来るよね。彼は7gを知らないんだね。説明したってわからないよ。解ってるふりをしているやつはいっぱいいるけれどね。徳が高い高次元人みたいなやつなのにね。それだものニンゲンこそは変わっているよね』
救急車が私たちの立っている場所の横でとまる。ゴミ箱の後ろにある家。
その家の中にストレッチャーを運び込む救急隊員たち。
サイレンの音に引き連れられて、次々に人が集まってくる。するといつの間にか人だかりが二重三重にと。私はそれよりもこの不思議な生き物を興味深く観察している。周りに集まる人たちには彼の姿が届いていないよう。救急隊員たちにも、川系の人や石系の人にだって感じられていないよう。ただ、集まってきた中にいた私の友達の信雄はそれに向かってくんくん『んみゃあ』と一鳴き。
ただ信雄も何かが此処にいそうだぞ、という雰囲気は分かるのだろうけれど目に映っている様子はない。
信雄をそっと抱える。
『ねこだね。猫は勘がいいからね。すふぃらメイ人みたいなもんさ。奴らにはすぐにばれちゃうよね。でもこれは乗りごごちは良いわね。馬なんかより揺れないしね。それはそうと、はやく次の体を見つけないとなぁ。次はどんなのがいい?わがままじゃなきゃ何でもいいけど、ニンゲンこそは変わっているからね。ほぼ自由だしね。違う生き物にするかい?もう回数もずいぶん減ってきているからね。それは前々回感動的な歌になってみたいなんて君が言うから。そんなに簡単じゃなかったねあれも。あれだって得意な奴はいるんだよ。矢印の先の星の奴らなんかは、案外得意なんだってさ。あそこはかなり遠いから。ここに来るだけで少し削れているものなぁ』
混乱は深まっていく。信雄はおとなしく私の腕に収まっている。何かのいる一点を見つめて。
『でも本当に久しぶりに、通話ができる人間にあったね。なんか泡食った顔をしているから、理解は追いついていないんだろうけれどね。この中の奴はどこの奴かね?入っちゃうと死ぬまでは出てこれないからね。徳があるから、トリデシタノキミかもしれないね。意識がない時にまた会いたいね。あるときは前に出てこれないからね』
家の中からストレッチャーに乗った老人が運び出される。
救急隊員が言葉をかけているがどうにも意識はない様子だ。
『あれも長かったね。いろいろあって面白かったね。次はどうする。とりあえず散歩でもする』
「き、君はいったい何者なんだい?」
『んん?徳は高いのに勘が悪いのかな?フィレンテーナの特徴だね』
そう言ってそれは消えていく。カスミの様に。薄い言葉が頭に振ってくる。
『私は君らの言うところの『魂』だよ』

驚きに胸が震える水曜日


ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん