大奥(PTA) 第一話 【第一章 吹き矢のゆくえ】note創作大賞参加作品【ご紹介、大歓迎】
あらすじ
本編
【第一章 吹き矢のゆくえ】
<プロローグ>
大奥(PTA)、それはお子を人質に取られるがゆえ、一度入ったら二度と逃れる事が出来ない女の牢獄。女の怨みの骸が、そこここに散らばっておるのでございます。
いづれの御代に御座いましたでしょうか。御吟味方(選出委員)が決まらぬ場合、吹き矢(くじ引き)にて選ぶ運びとなり、ここ大奥(PTA)は混乱の極みとなっておりました。
「どうかお許しください、私めにはこちらに通う太郎の他に、数え三つの幼な子がおり、更に身重の身に御座います。このような折、いかにしてお役目を果たすことができましょうや。どうか此度だけは、御役目をお免じいただくことはかないませんでしょうか」
安子様は切々と訴えるのだが、御組総取締(クラス委員長)の春日様は厳しい表情をなさり、お役をお免じになるご様子はない。
「誰ぞ、ほかに御吟味方(選出委員)をお引き受けになれる者はおらぬのか」
<雛祭り>
安子様は貧乏な旗本の娘ゆえ、おん自ら付きの手伝いのお女中を雇う事もままならず、ほぼ一人手(ワンオペ)にて二人の御子様をお育てになっていらっしゃる上に、ご夫君も子育てにあまり理解を御示しになられない。ご夫君は表(会社)でのご心労もお有りになるのか、ご帰宅なさっても、御遊戯(ゲーム)にばかり夢中のご様子で、たまにお口を開かれたと思うと、やれ、屋敷が散らかっている、赤子の鳴き声がうるさいなど、安子様をお詰りになるばかり。
あれは桃の節句の折りに御座いましたか、安子様の数え三つのお子様が、外へ出たいとむずかるゆえ、やむなく御近所の御育児支援所(子育て支援センター)にお子様を連れて出向かれたのでございます。
御育児支援所(子育て支援センター)は、各町奉行所(自治体)が設置している小屋でございまして、御子様お預り所(保育所)とは違い、御母君自ら御子と共に出向き、そこに奉公しておる子育て経験豊富なお女中の方々と共に、昼間のひと時を過ごす、そのような小屋にございました。
その御育児支援所では、普段は一人手(ワンオペ)にて御子達に翻弄されていらっしゃる安子様も、穏やかでご経験豊富な老女中の方々が御子を見て下さるお陰で、ほんのひと時、御心が休まる思いでございました。
その日はちょうど三月三日、桃の節句でございまして、安子様、老女中方、ほかに数組の母子連れの方々とともに、お花柄の千代紙にて愛らしい雛の飾りを作り、安子様の御子様もまた、その紙の雛を喜んで屋敷に持ち帰ったものにございます。
屋敷の庭には桃や梅の花が植えられており、安子様のお子様の、数え三つ(2歳)の姫君は縁側にお出ましになり、御育児支援所 (子育て支援センター) にて手作りいたしました千代紙のお内裏様とお雛様を、その小さきお手にとられ、そのうち上の太郎君も加わり、お二人とも、それはそれは楽しそうにおままごとに興じておられます。
そうこうするうちに日も暮れまして、安子様は夕餉の御支度をなさりながら、お子様方を見守っていらっしゃいました。
戌の刻を過ぎたころにございましょうか、ご夫君がお疲れのご様子で表(会社)よりお戻りになり、安子様がお召し替えの手伝いをなさっていると、ご夫君が卓に散らばっている二つの千代紙のお雛様に目をおやりになり、こうおっしゃいました。
「安子、お前は本日は一日何をしておったのだ」
安子様はお答えになりました。
「本日は御育児支援所 (子育て支援センター) にて、お女中方とお子達と共に、桃の節句の雛人形など作っておりました。ほれ、ここにこうして」
安子様は千代紙のお雛様をお手にとり、ご夫君にお見せになろうとしたところ、
「何だ、安子。お前はわしが表(会社)で汗水たらして働いておる間、こんなものを作って遊んでおったのか」
ご夫君はそう言い放たれると、愛らしい雛人形を、屑籠に放り込んでしまわれました。