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「答え合わせ」の旅㉜

I Love Oranje

De Kuipの外観の写真を一通り撮り、受付へ向かう。
キックオフは20:45。現在の時刻は18:00。
気合い満々か。ギリギリに行って混むのも不安だし、って思ったけどこれは早すぎる。

まだスタジアム自体の開場はされないが、スタジアム外周でファンブースというものが開催されてるらしい。まずはそのための受付へ。
プリントアウトしたチケットをカウンターへ差し出す。バーコードをピッと読み取り、その先には警備員。荷物検査だ。どうだい。ちゃんと小さいバッグにしたぞと見せびらかす。警備員はそれはなんだ?と問う。
これか。現地のスーパーで買ったスムージーの容器を洗って水を注ぎ持ち歩いていた。
横にあるゴミ箱を指してくる。捨てろと言う指示だ。
ちっ。こんな小さい容器でもダメか。回収されるかもな、とは思っていたが。カランコロンと捨てた。

補足説明だが、サッカーの試合は缶とか瓶とかフィールドに投げて危ないものは没収する習慣がある。これは日本でも同じ。スタジアムとか試合規模にもよるが、紙コップに移し替えて入場を許される場合もある。ペットボトルは日本では最近許可されることが多く、いけるかと思ったが。まぁお国も違うし危険な液体かもだしね。

まぁよい。私には信頼して止まない龍角散のど飴がある。これで喉の乾きを補給すればよい。
こちらの気候はいつも水分欲す私でさえ、あまり必要ない。こちらではアレルギーの鼻の調子も、それに伴って悪化しがちな呼吸器系の調子もすこぶるよい。
やはり私はこちらに住んでたのでは、と思うほど気候は身体に合っていた。

ファンゾーン入口

オレンジにライオンの紋章。いやー最高。くぅーー。
センスありすぎ。胸が高鳴る。
ファンゾーンは子供向けのゲームコーナーやグッズ売場など。お祭り騒ぎというほど人はまだ集まってなかった。もう一度言うが、まだ18時なので。

ライオンのキャラクターが二匹うろうろ歩いていた。
オランダサッカーのキャラクターだ!明らかに暇をもて余している。嬉しさが勝って、少し走って近寄った。
二匹が囲んでくれて写真撮れた。なんて嬉しい。日本代表のヤタガラスとさえ撮ったことないのに。

このライオン達に私はなぜかI'm Japanese!と叫んでいた。ライオン相手には日本語は通じないからもちろんなにも返答はない。私はファンゾーン内でやたらと日本人であることを強調していた。一体どうしたんだろ。興奮してたんかな。それだけ愛を伝えたかったのかな。

オランダに来る前に最低限の英語を、と思い家の風呂場でよく練習していた。
「写真撮ってくれませんか?」と
もう一つは
「私はOranje(オランダ代表)が大好きです。2010年の南アフリカW杯、スナイデルのシュートは最高でした。それからずっと好きです。2014年ブラジルW杯のロッベンも良かった。そして今はファン・ダイクが好きです。去年のカタールW杯で彼を知りました。彼の守りは世界一です。」
の2つ。誰ともコミュニケーションとってないので、どちらも御披露する場所はなかった。いま思えば、ちゃんちゃらおかしくて恥ずかしい。

しかし遠く離れた日本の一人の女に勇気とワクワクを長年与えてくれたことに、改めて感謝を伝えたかったのだと思う。だって外人から日本のアニメ、ゲーム最高だよ!って言われたら嬉しいじゃん。それをやりたかったのよ。

ファンゾーン。暇だ。とりあえずグッズを買うか。
タオルマフラー、うん。やっぱデザインが最高だな。世界の代表チームでも一番いかしてると私が認めてやる。
これちょうだい、と買う。ここでも売場のお兄さんにI'm Japanese!とドヤった。本当にどうした。お兄さんはoh!と言ってくれたけど反応薄し。

次にこれを巻く日がほぼ来ないことはわかっている。 日本に親善試合しに来てほしいな。国内なら東京でなくとも絶対行く。隠岐の島でも佐渡島開催でも行く。
あ、でも択捉島とか竹島だと諸事情で行けないかもしれない。それは許して。

続いてはファンゾーンの受付みたいなとこへ。
三往復してやっと見つけた。ここでやらねばならいことがあった。なにかと言うとOranjeデビューの人(代表戦初観戦の人)には事前申込でスペシャルなことが待ってるぞ!とメルマガに書いてあった。
Hi~と申し込んでおいたメール画面を見せる。おば様はゴソゴソとカウンターから紙の記念チケットとピンバッジを渡してきた。私はここでも「I'm from Japan!」と言った。おば様は「Oh,especially!」と言ってくれた、と思う。ただのSpecialかな。
そう私ってespeciallyなんだぁ。やっと満足したのかここでジャパニーズ強調をやめた。この国はさほど親日でないことはとてもよく伝わった。

しかし、オランイェデビューには特典が、ってこれのことか。チケットとピンバッジを見つめる。
この特典を申し込むとき席番も入れたから、試合の休憩中にスタジアムの大型ビジョンに私がすっぱ抜かれて映るのかとワクワクしてたのに。なーんだ。ちぇ。
でもこのピンバッジを手に入れたのは日本で私一人かもしれない。今ではリュックにつけたそれを、撫でてはこの日を思い返す。

ピンバッジ指でがっつり隠しとるがな

続・ファンゾーン暇だ。
外だが小綺麗な仮設トイレがあったので使い、そのあとは日も当たらない&誰も通らない薄暗いほぼ石のベンチに座り、インスタライブでひたすらに喋っていた。
なんてったってまだ18時台。

19時15分。開場したようだ。首を伸ばし門を見つめる。さて問題。私はどこから入れば良いのでしょう。
思いも寄らないことはたびたび起こるもので、この会場からは英語が姿を消していた。ふぁあ。そりゃオランダ代表戦だもん。オランダ人しかいないもんね。

何が何を表してるのかさっぱりわからないチケット

ウェアキャナイエンター…ウェアキャナイエンター…ウェアキャナイエンター…
合ってんのかなぁ、間違ってはないよね、間違ってても何を言いたいかぐらいは伝わるよねって黒魔術を唱えながら、聞いてみることにした。
一回門番みたいなポジションのスタッフに呪文を唱えると、ここじゃわからないからあっちの彼らに聞いてみな、と回された。そゆこともあるか、OK。
指差した先になんだか雑談してるスタッフたち発見。再チャレンジ。

「Hi、ウェアキャナイエンター?(チケット見せ見せ)アイムジャパニーズ(ヘラヘラ)」
ピタッと雑談が止まる呪文だったようだ。ちょっと年齢のいってるおじいちゃんが「Japanese?BOOOOO(・ε・ )」と冗談なのかブーイングをかましてきた。
お?やんのかジジイ。と思ったが、正直なに言われてるかもわからないのでスルースキル発動。いつもは傷つきやすい性格もスルーをかませる。異国、悪くないね。

その中にいた若い男の子が私のチケットを見てくれた。天使登場。手持ちのスタジアムマップを見せてくれ、君はいまここにいて、君は何ブロックだからここをスタジアムに沿ってゴーアラウンドだね。と教えてくれた。
私はゴーアラウンドすればいいのか、と彼のゴーアラウンドする指先で理解した。I try it!と感謝を伝え、去る。このジャパニーズ、こんなに懇切丁寧に教えてくれたことも半分しか伝わってない。

唯一聞き取れたゴーアラウンドすると、なにやらガヤガヤとしてきて、そして私のブロック名が書かれた文字も見えた。アラウンドくんありがとう!大正解だ。
無事に関所も通り抜け、入場を果たすことができた。
案内の文字が途中で消えないでいてくれたおかげで、座席の入口まで来れた。

ジャンパーコートの黒人の恰幅いいお姉さん。ここが最後の門番だな。セーラームーンで言うとセーラープルート。彼女が鍵を開ければ、私はあっちの世界に行ける。
Hi~とチケットぴらぴらする。このジャパニーズはもはや全てのコミュニケーションをアイコンタクトとジェスチャーで済まそうとし始めている。
お姉さんは「○×△☆♯♭★※○×△☆♯♭●□▲★※」ペラペーラと話し終えると最後に通路を開けた。
申し訳ないが、私はもう英語は左脳でなく右脳で処理するようになっている。ただのミュージックでしかない。彼女がサビを一節終えたところで、私はようやく「お?ん?あえ?」と首を傾げた。
彼女はおいおい全部わかってなかったの?という表情で、ダッチ、ノー?と。ダッチはちなみにオランダ語とかオランダ人の意味ね。
ノーね。ソーリーアイムJapanese。あとね、イングリッシュもノー。もはや笑いながらごめんする。
おいおい!という表情でダッチもイングリッシュも?と。イエスそうなの。お姉さんがどっちで話してくれたかさえわかってないわ。
しかし、I Love Oranjeだけの気持ちだけでここまで来たのだ。おいおいなんて顔せず褒めて欲しい。
お姉さんは周りを見渡し、他に客がいないか確認した。時間が早いせいで周りには誰もいない。
もうこっちきて!教えたるわ!とポジションを外れて、座席の方まで手招きしてくれた。座席の列と席番号を照らし合わせ、ここがあなたの8列目でほら座席番号これ、あなたの番号だと…ね?ここの列で探してけばいいから!と。おーThank You!プルート。
最後の関所を抜けた。私は243を探し進む。どんどん近づいてくる。あった243!

おや。やっと辿り着けた嬉しさは、おかしいという気持ちに塗り替えられる。おかしい。この席違う。
プルートめ、間違えたな。Z4はあってる。列が違うのかな。もう一度確認しに戻る。8…いや合ってる。
それは左端の通路からも右端の通路からも遠く離れたど真ん中の席だった。なぜ。私はパッと帰れるように、パッと逃げ出せるようにと、通路側の端の席にしたつもりだ。なのになぜこんな真ん中にいるのだ。これじゃ人が入ってきたらトイレも立ちづらい、途中で帰りにくい、立って応援し始めたら見えない。
しかもなんだこれ。ランダムだが至る座席にオランダ国旗がぶっ刺さっていた。もれなく私の席も大当たり。これどうすんだよぉ。振るのかよぉ。怖くなって隣の席にぶっ刺しといた。

別日のInstagram投稿より。
こんな感じで椅子に国旗ぶっ刺してあるのよ
このオランダのマントを着たおじいちゃんが急に
ウォウウォウ!!と叫んで本当にびっくりした

しかしこのロッテルダム、日が落ちない。19時過ぎでこの明るさ?いやいや日本の夏でさえこれはない。しかも季節は冬。天候さえ常識を覆す。世界は広い。

けたたましい音楽も流れ始め、いよいよ感を出しているが、まだ1時間以上もある。飲み物を買うだけで得られそうな疲労を予測し、席に居座った。トイレ行っといて良かったたぶん大丈夫そうだ。暇潰しに龍角散でも舐めるか、とバッグを開けるとそこにはハイチュウの姿が。
一瞬で顔を歪める。やっちまった。バッグを移し替えたせいで命の龍角散を忘れた。しかも携帯充電器まで置いてきたことにも気づく。まずい。Instagramライブ三本もあげる余裕なかったじゃないか。
一緒に来てくれたオランイェミッフィーに、怖いねぇどうなるかねぇどうしようかねぇと語りかけ、時間を潰した。

これがスキポール空港で見つけたOranjeミッフィー
見つけたとき鼻血出すかと思った

あんなにガランとしていた席も段々と埋まり始め、いよいよ身動きはとれなくなってきた。
音楽やら中継やらで騒がしい中、とうとうウォーミングアップの時間が来たようだ。拍手がパラパラと聞こえ、GKから登場。拍手を捧げる。
カタールW杯のノペルト良かったなぁ。もうスタメンはノペルトじゃないんだよねぇ。それでも私は控えのノペルトに拍手を送る。
しばらくすると、わぁぁぁ!!と歓声の下フィールドプレーヤーたちも続々と登場。私もわぁぁとなった。手袋をはめた手からは打ち消された音しか発しない。それでもこの大拍手の一音となって彼らに届け。
あぁもうオレンジとネイビーが眩しい。眩しくてしょうがない。ファン・ダイクもアケもダンフリースもいる。ここは天国だ。メンフィスデパイもいる、シャビシモン!若いよ若すぎる。
サッカー少年のようなワクワクした気持ちはふわふわとしていて、暗くなりゆく空へと昇る。

旗を振る人もおれば、私の数席隣やら前にも人が埋まってきた。一瞬ビクッと見られることもあったが、それは一人だからなのかアジア人だからなのか。言語がわかるやつなのか判断不能のため、見て見ないふりされ、悪口は言われてなさそうだったのが幸いだ。
私は黙ってさえいれば現地在住のアジア人だと思われるかもな、とハイチュウを無言で噛んでやり過ごすことに決めた。

ファン・ダイクのウォーミングアップ

選手は引き潮のごとく引いて一時の静けさをもたらす。私の興奮は間もなくこのスタジアムいっぱいに満ちていくのだろう。

フッ。フィールドを照らすライトが消えた。
スタジアムは姿を潜め、夜の暗闇に埋もれる。静けさをもたらすかと思いきや正反対に大歓声と大きな拍手を呼び起こす。いよいよだ。
フィールドに観客の興奮が流れ込んでくるのを感じる。見続けたら目がやられてしまいそうなまばゆく2つのライト。交互に点滅するフィールド照明がまるで脈打つかのようで、私の心臓も同じリズムを刻んでいるようだ。
音楽隊も入場し、けたたましいアナウンスが2023年ホーム初戦の雰囲気を盛り立てる。
プシューっと放たれた白い煙の後ろから入場する選手たち。最高潮の盛り上がりだ。
周りを見回せば見慣れない顔立ちが並ぶ。あぁなんで私はここにいるのだろう。対戦相手のジブラルタル人でもオランダ人でもないのに。
でもたまらない。遠い国なのにサッカーの盛り上がり方は共通で、違和感がない。戸惑いも不安もどこかへ飛んでいってしまった。

なにかあったのだろう。黙祷を捧げたあとホイッスルが鳴り響き、試合が始まった。
ゴール裏からの声援はそこそこに、周りは旗振りもピタリと止み、暴れるどころか立ち上がって観る人もいなく急に静寂に包まれる。
え、めっちゃいい席じゃん。選手たちのベンチに手が届いてしまいそうなぐらいの近さ。

わかりやすい画像手に入れたので。
マークの指すとこらへんで見てたはず。近いー

遥か彼方にいたオレンジのスターたちは目の前で動いている。もう来て良かったしかない。
シャビシモンよく動くー。ベンチのガクポ超近い。背高くて細くてこりゃモデルだ。「ガクポゥっ!!」と後ろから男の子の叫び声が何度も聞こえた。ガクポファンの男の子か。私もW杯のガクポの活躍は大好きだ。私もガクポぅっ!!って叫びたい。周りが驚くのでやめとく。気付けばファン・ダイクどころかOranje全員大好きだ。

「Nothing like Oranje」

この言葉が本当に心に刻まれる。Oranjeほど素晴らしいものはない。好きが満ち満ちていくのを感じる。Oranje大好きだ。ここに来てさらに好きになった。

試合は3-0で勝利で終わった。
お国の人口も3万ほどしかいないジブラルタル相手。もっともっと点取って欲しかった。やはり主力がいなくてちょっと物足りない出来。

点取ったときはさすがに周りの観客と「うぉーーー!」とハイタッチでもするかと思ったが、それすらなく終了。思ったよりドライやん。
私は最後の現地の人とのコミュニケーションチャンスも見事にシュートを外し、点を決められず試合終了した。

さて。しっかり楽しんだが、おうちに帰るまでが遠足。
真面目モードに切り替え、死ぬ気で帰るぞ。
人の波に乗り、Google Mapで現在地の動きも見ながらトラムの停留所まで歩く。歩く。歩く。停留所発見!
ホッとしたが人が溢れかえっている。駅よりちっちゃいもんな、そりゃこうなるわ。ロッテルダム行きは2本ある。トラムの路線番号も方向も合っていることを確認できたが、これって…えっと…何本先のに乗れる?終電いつまである?人が多すぎて乗れるわけない状況。

日本における整列の文化などあるわけもないから、乗れたもん勝ち=待ってるもん負けだ。身動きもとれないままにふええんと眉毛をハの字に下げてる私に勝ち目はない。死ぬ気で帰るスイッチON。
順次来るトラムになんとか乗ろうと数人がホームから車道へと外れた。なるほどね、人の列が進まないからホームのもう一方の端から攻める作戦か。いいね、その作戦。乗った。この選択が私に絶望をもたらす。
車道に出る。幸い車通りも少ないが車に轢かれたら洒落にならない。ホーム寄りに気をつけて歩こう。
その横でまたトラムが来る。うわ、乗りたい。並走して走る。

え。待って、うそ。
さて私は何に驚いたでしょう。
文字では伝わらないと思うので画像で図解。ストリートビューから取って参りました。

ホームは人が溢れかえり、一度車道へ外れる
ホームの逆端から乗り込むぞー!と決めた
走ってみたらなんてことでしょう
トラムの端どころか柵が永遠に続いております

おわかりいただけただろうか。
数人につられて一度ホームを外れて走ってみたものの、ホームに戻る柵の切れ目が永遠になかったのだ。
Q.どうして最初に気付かなかったの?
A.時刻は23時台で真っ暗すぎて見えなかったから
終わった。うーわなんだよ!戻るにしても走りすぎた。
同じく前を走ってた輩も永遠の柵に気付いたのか、柵を乗り越えホームに戻り始めた。うっそ。まじか。

画像じゃ低く見えるこの柵。過酷さが伝わりづらいのだが、この柵決して低くはない。
1枚目のおばあちゃんと柵の対比見てくれ。157cmの私にしたら腰ぐらいの高さ。それなりによっこらせ!と腕に力を入れジャンプしてうまく柵に足をひっかけて乗り越えないと失敗に終わる。
まじかよぉ、うそだろぉ、ひーん、もう口から感情駄々漏れ。困ったことに日本人の中でも足が短い私に乗り越えられるのか、と、コートが足首ほどに長い。いろんなものが引っ掛かりそうで自信がない。

しかし、人って死ぬ気になると頑張れるものですね、という結果が待っていた。渾身の力を込め、なぜかうまく乗り越えられ、怪我もなくホームに身を置けた自分に目が丸くなる。
泣きそう~、あとは満員のトラムに身体を突っ込むのみ!と他の人に揃って駆け寄ったが、ピピー!と警備員が笛を鳴らし、もう乗るなと制された。せっかく乗り越えたのにぃ!

その間に呼吸を落ち着け、次に来たトラムにスルッと乗り込めた。うっしゃ。
満員電車の中は大騒ぎだった。オランダ語のため、何を言ってるかはさっぱりだが意訳すると
「すげー混んでるw苦しいー!でも乗り越えるっきゃねーぜ!!ふぅーーー!!」だろうか。

私はドア付近にひっそりと黙って地蔵のように身を潜めていた。実は私は日本の東京出身。この程度の隙間がある満員電車など、何でもなくて無感情。
一駅目で降りる中東のお姉さんがいた。また若者が大騒ぎ。意訳「お姉さんが降りまっせーー!通路開けろーい!!wwお疲れ様っしたぁーー!!」お姉さんは半笑いで降りていった。
私は日本の電車マナーを発揮し、しっかりと一回ホームへ降りて出口を開け、お姉さんが降りたのを見届けスッと車内へ戻りまた地蔵になった。
大騒ぎの若者たちがこの不気味なアジア人にようやく気付いたのか、軽くビクッとした。無言だったが心のざわつきが起こったのを感じた。
この状況に笑えてきてひたすら車窓を眺め笑いを堪えた。まもなく市役所前の最寄り駅に着く。
地蔵は目を開け、スルッと降りていく。その姿にも息を呑むような不気味な者を見つめるような視線を感じた。

真っ暗闇の中を早歩きで、すれ違いざまの人とはだいぶ距離を開け、ホテルへ急ぐ。角を曲がり、ホテルへ入り、フロントの脇を抜け14階へと昇る。カードキーをかざし、部屋に入れた瞬間ぶはぁーーーと息を吐いた。

よく帰ってこれた。時刻はギリギリ0時前だったか。
この国でなければ死んでいた。
長い一日だった。
そして、最高の一日だった。
緊張の大イベントは終わりを迎えた。
息を整えている安堵の間に0時を過ぎた。
スマホは帰国日の日付を表示する。とうとう最終日が始まる。

ミッフィーにお疲れ様を言い、パチリ。
素敵な思い出の戦利品たちと。