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「答え合わせ」の旅⑲

Road to Utrecht

ホテルにつく。泣き顔を伏せがちに部屋へ戻った。
テレビをONにする。
サッカーのスコアは4-0にまでなっていた。
最後のお情けのPK獲得もそれすら決まらず。今日はダメな日か。調べると、怪我人、不調者多数だったようだ。んー、残念。。3日後は頼むぜ。
最後のインタビューは何を話してるか一切わからない。オランダ語なのか英語なのか。堅い表情から気持ちを読み取るしかなかった。

フィルジル・ファン・ダイク

美術館で溢れた涙はいつの間にか引いていた。
感傷的な心はいつだって日常に薄まっていく。
薄めて日常の色に戻さなきゃこの世界では生きていけないから。

ベッドの上に寝転がり、SNSを見始めた。
今朝美術館で出会った怪しげな男がInstagramのプロフィールを送ってきていたので覗いてみることにした。
怪しげ、どころではなく怪しさ120点満点。一人で大騒ぎした。

今日は朝から晩までよく動いた。
すぐには眠りにつきたくなかったのか、はたまたダラダラしたいだけか。
スマホの流し見でムダな時間を過ごしていたら時刻は0時に近づいていた。

4日目が始まる。
あ、まずい。Nijntje Museumのチケットを取ってないではないか。思ったより埋まらなさそうだから、こっちに来てから取ればいいと思ってたけどもう当日だ。

Nijntje(ナインチェ)は日本で言うミッフィーのこと。
フェルメール展では運命的なタイミングの合致を見せたが、このNijntje Museumはちょうど改装中で仮移転での営業だった。当初の予定ではこの期間なら再開は間に合うはずだったらしいのに。
外国のこういう不確かさに囲まれると、日本の正確性に尊敬が増す。

明日行く街はUtrecht。日本ではユトレヒトと読む。
本当の発音はウートレヒトらしい。オランダ第4の都市と言われている。

この街は日本で言うミッフィーの生みの親、ディックブルーナさんの出身地だ。なのでこの地にNijntje Museumがある。
私はこの旅でアムステルダム、ロッテルダム、デン・ハーグ、そしてユトレヒトと第1から第4の都市まで回る予定だった。

思えばここに来るずっと前からこの第4の都市まではさらさらと言えた。それだけオランダのことを調べてたのもあるし、サッカーの影響も大きい。

オランダのプロサッカーリーグ、エールディヴィジはJリーグからの欧州クラブチームへの登竜門的役割だったし、Jリーグからまずはオランダのチームに行く選手も多かった。
チーム名には地名が入ることが多いせいか、自然とオランダの地名をそこでも覚えていったように思う。
ユトレヒトのチームに行った選手もいたから名前に馴染みはあった。

本当は今日このNijntje MuseumとKasteel De Haarというデハール城という城に行こうとしていた。
デハール城はユトレヒトから更に郊外になるらしく、電車とバスを乗り継ぐ必要があるため、行けないかもと断念の方向に向かっていた。こちらのチケットは日本にいたときから取得済みのため、実は日中返金できないか問い合わせていた。
翻訳ツールをがっつり活用し、メールで。
「日本から旅行してる。身体の事情でチケット取ったけど行けないかも。返金できる?」と。
身体の事情で、とかいたのは基本返金は認めておらず、身体の事情なら相談してくれ、と書いてあったから。
意外にも返信はその日中に来た。残念ながら返金はできない、時間(日程?)変更は可能だけど、日本から来てるならそれも難しいかもだね、、のような想像より丁寧な内容だった。
このチケットもベルギー行きの列車のようにどぶに捨てた。しかし無理してもしょうがない。
もう一度この国に来れることなら絶対に行きたい場所。

ミッフィーに全集中しようと気を取り直したとこで、Nijntje Museumのサイトへアクセス。良かった、やっぱり空いてる。
オランダ語のサイトはGoogleが勝手に日本語訳に変換してくれた。なんて便利な時代。難なく決済画面にたどり着く。クレジット番号を入れた。
二段階認証。
あ、やはり来たか。最近の二段階認証はSMSで認証番号を教えてくる。
いまクレジットカードに結び付いてる私のスマホはWi-Fiのみ開通してて、機内モードにしてる。ゆえに電話番号はこの国では死んでるも同然。絶対届くわけない。

お得意の検索能力を生かして、パパパと調べる。海外でも機内モード外してローミングoffにすればSMS届きます!みたいな文章みっけ。
一応やるがうんともすんともメッセージなど来ない。
こりゃまずいな。

なーんて。
焦ったふりしたけど、私を誰だと思ってます?
もう一個の予備のクレジットカードをこの国で生きてるahamoの携帯番号に紐付けていたのだ。
これで決済すれば二段階認証行けるっしょ。

天才っ!天才っ!天才っ!天才っ!
オーディエンス(全部自分)からのコールが鳴り止まない。まぁまぁみんな落ち着いて。
みんなが騒ぐのも無理ない。この危機管理能力の高さと、状況判断力、対応力には感服しちゃうよね。

オーディエンスを静めると、今度は予備のカード番号を入れ、認証番号が送信されました、と通知が来た。
ふぉっふぉっふぉ。計算通り。

数秒経った。あれ。数十秒経った。あれ。
どうした?来ないじゃん。
この令和に平成時代の名残で電波拾うためにスマホ高く掲げて振ってしまった。

いやいやなんだよもう。オーディエンスからも深いため息が聞こえる。
完璧な作戦が功を奏さなかった。さてどうすっか。

待てよ、時刻は0時。ということは?
日の出ずる国、日本。時差は+8時間。LINEで母に電話をかけてみよう。

珍しくつながる。
クレジットカードがネット決済で機能しない旨を説明をし、指令を。
「てなわけで母のカードでミッフィーミュージアムのチケットを立替えて取ってくれ。ちなみにサイトはオランダ語。取れたらチケットデータ転送してくれ」と。
齢60を過ぎ、老眼も甚だしくスマホ操作に不安が残る母になんと無理難題を。思いやりの欠片もない娘よ。

母は一応状況をすぐに理解してくれ、さほど抵抗感もなく仕方ないなぁって感じで受け入れてくれた。
じゃあ私風呂入んなきゃだから、よろしく!
と言って電話を切った。ぶっ飛び野郎だ。

風呂からでるとなにも報告がない。
おやおや困りましたね。私これから寝なきゃいけないのに。これだから日出ずる国日本は。そちらは朝かもしれないけどこっちは夜なのよ。なんと自分勝手だ。

どうなったかLINEしたが返答がない。
これ以上時間かかるようならあれか。私が自分で購入画面に進んで母のカード情報だけ聞いて、そして向こうに届く認証番号も教えてもらい、決済すればいいか。
追加指示を出そう。
また電話をかけてみると、途中まではGoogle翻訳先生が勝手に言語変換してくれてスラスラ進めたようだったが、違うとこで引っ掛かったようだ。
そこは私も引っ掛かった。やるじゃん母さん。

でも私も寝なきゃだから作戦Bでいきましょう、と。
決済画面まで進んだらまた電話をする、と言った。

こういうときスマホ2台で楽だ。
通話しながらもう一つのスマホでクレジット番号と認証番号を聞き出す。
親のカードを悪用する悪い考えが起きないように、一応メッセージ上ではカード番号を聞くことを控えた。

Nijntje Museumのチケット

よし、取れた!!ナイス連携プレー。
ありがとう、じゃ寝るから。とメッセージを送ると、
「それはプレゼントです。楽しんできてね」と。
この娘を扱うにはこれぐらいの懐の深さが必要。
ダンクウェル、マム。

こんなに朝から晩までぐるぐる目一杯動き回ったのに、朝早くになぜか目覚める。
4時間くらいしか寝れなかった。
スマホをみるといまさら認証番号が数件届いていた。
届くんかい。

4日目、土曜日ユトレヒト。
とても居心地よく肌馴染みのいい街が私を待ってくれていた。