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「答え合わせ」の旅⑪
チンパンジーのように
美術館の裏へ行き、トラム停留所のmuseumpleinへ。
この国では車の行き来の他に暴走する自転車たちにも気を付けて道路を渡らなければならない。自転車専用道路で突っ立てたり、自転車に気付かず横切って轢かれても歩行者が悪いってルール。
小学校1年生で教わった時くらい右見て左見てもう1回右見て道路を渡る。
あぁ最寄りが大きな停留所で良かった。
予習済みのトラムの券売機があるなんてテストで山が当たったようなもん。
まずは言語をEnglishに切替。そしてGVB 1hourを選択。クレジットカードを挿したら買える。
よしよし。シミュレーションは完璧。
小雨が降っているため券売機の画面が濡れており、画面は真っ暗だった。画面にタッチして起こしてあげよう。
…何回押したことだろう。券売機は目を覚まさない。
私って指に水分ないのかタッチパネル反応しないときがたまにある。
指の骨折れてもいいぐらい強く押す。反応なし。
この券売機は死んでいると悟った。
神よまだ試練を与えるのか。
サイトでは乗車券はトラム内でも買えると書いてあった。信じるしかない。
おでこにAmsterdam Centraal Stationと書かれたトラムが走ってきた。
乗るのはこれで合っている。
運転手さんに聞こう。臆病だから最後に乗り込む。
こんな2,3両もある大きなトラムを帽子からパーマが
あふれんばかりのおばあちゃんが運転していた。
聞いてみた。
「○×△☆♯♭●□▲★※!!!!!」すごい剣幕だ。
終わった。怒鳴られた、とそう感じた。
おばあちゃん運転手は少し後ろを向いていた。
目線の先は券売機だ。
あー。券売機で買えって?
買えなかったんだって。そりゃ私も買いたかったさ。
でも買えないんだ。だから聞いたんだよ。しょぼん。
でもいい。言い訳できる語学力もない。
わかった。歩けば30分でしょ。大丈夫大丈夫。
歩きます。体力はあるので。空港ですっかり諦め癖が身に付いていた。
OKと言い残し、トラムを片足降りかけた。
「No!No!○×△☆♯♭●□▲★※!!!!!」
む、No?と聞こえたぞ?振り返る。
「Walk through!!」と叫ばれ、私の目を見ず車内の後ろを親指でクイッと指す。
ウォークスルー…あ!!車両の後ろってことか!
Oh,Thank you.
意味のわかった私を乗せると、ドアが閉まる。
ぐねぐね揺れるトラムの進行方向に逆らい歩いた先にカウンターがあった。
あ、買えると確信した。
カウンターにはおじいちゃんがいる。
「Hello」と言い、人差し指を立て「one」とへらへら言う。
「for one?」と聞き返される。
へぇ。こういう時ってforつけるのか。学び。
おじいちゃんは「Which?1day?」と壁に貼ったメニューを指す。あ、そうか。えっとね1時間。
よりによってhourなんて発音難しそうな単語。通じるか?
聞き取ってくれた。クレジットカードをかざしたら、おじいちゃんはone hourの1時間券を渡してくれた。
そこのカードリーダーにかざしてね、と指差して教えてくれた。
バスの時のようにポーと言う。☑マークだ!
Thank you!と伝えると、OKとおじいちゃんは孫を見るように微笑ましく笑ってくれた。
嬉しい。凍っていた心の霜が溶けていく。
待ってろAmsterdam Centraal Station。
トラムは曲線を描くことも多くなかなか揺れる。
しっかり掴まってるけどぐらぐらする。
近くに座っていたおばあちゃんがなにやらけたたましく声かけてきた。
言葉はオランダ語か英語かすら聞きとれなかったが、自分の隣の席をポンポン叩いてる。あ、え、座っていいの?
空けてくれた窓際の席に腰掛ける。
Thank You.あ、言い直して「Dank je wel(ダンクウェル)」と伝える。これがこちらでのありがとうだ。
日本にいたらThank Youよりアリガト~と言われた方が嬉しい。この国を知りたいとしてるのがわかるから。
お礼を伝えたが特に笑顔にもならず、その後はただ前をじっと見るおばあちゃん。こういうもんかぁ。ほう。
これがこちらでは「当たり前」なのかもしれない。なにが優しいとか親切なんてものは文化が違えばまた変わってくるのかも。これもまた異文化だ。
せっかく窓際の席だ。動画を撮ろう。
窓の向こうにレンズを向け、赤丸を押して撮影開始。
私は動く街並みを見つめた。
思ったより速く走り抜ける風景。終点まで乗ってればいい今回は、腕だけ固定し、スマホに集中することなく私にこの街をゆっくり見つめさせてくれた。
空港からのバスでは堪能できなかった景色。BGMでしかないオランダ語のアナウンス。居心地よくなかったものが、このトラムでようやく受け入れられている。
何年も冷凍庫に入れられた保冷剤のようにカチカチでひしゃげた形をしていた心が、温かいものに触れてゆっくりと解凍されていくのを感じていた。
トラムは次の停留所をAmsterdam Centraal Stationと告げる。
乗客たちがわらわらとドア方面へ集まりだす。
プシューッ。ドアが開いた。
ポー。ポー。ポー。
皆次々カードをかざして電子音が鳴り続ける。私も無事にポー。という音に見送ってもらい、トラムを降りた。
赤レンガのつくりが見える。
Amsterdam Centraal Stationだ。
東京駅と似たその建築はどちらかが影響を受けてるだとか受けてないだとか。真偽不明だが、似ているということでいまは姉妹駅みたいな関係であるという。
![](https://assets.st-note.com/img/1691739307981-S9bBnLO3J5.jpg?width=1200)
首都の中心地を行き交う人々は多種多様で気づけば日本人は人っ子一人もいない。それどころか目を凝らさなければアジア人もめったにいない。それでも誰も私を異物扱いして見てこない。
駅をバックに写真を撮った。自然と笑みがこぼれていた。空港にいた頃より笑顔に真実味が増している。
写真もそこそこに私は因縁との決着をつけねば。
Iamsterdamカードの画像をスマホで開き、とりあえずチケットカウンターみたいなところへ。立っていた工事現場みたいな服を着たおじさまに「Where can I get this?」と聞く。「another side」とちがう方向を指された。
逆、北口ってことかな。ダンクウェル。
そうだ。中央通路みたいなのがあって通り抜けられると見た気がする。
お、通路あり。スリにも気を付けて歩くが、誰も私を気に留めない。半地下のような通路を抜け、また地上へ階段を上がる。
ショップが並んでいる。あ、これかな。日本だとみどりの窓口のような交通チケットが売っていそうなショップがあった。
店に入り、informationのおじいちゃんに画像を見せる。
やはり全部は聞き取れない。そんな様子を察したかnext to nextと腕を右へ右へと大きくジェスチャーしてくる。隣の隣のお店ってことかな?OK,I try it.ダンクウェル。
チケットは近い。店を出て右隣の右隣。
Iamsterdamとかかれた店名があらわる。絶対ここだ。
チケットの看板もある。レジへ行くと画像と一致するチケットのメニューがあった。
メニューを指さし、for oneと言う。
あれ、え。まさか。これは。
①だけかと思いきやなんと空港で買いたかった①②どちらもここで売ってるではないか。
ちょっと混乱。欲しかったやつこれだよね?②を指して「Zaanse Schans?」と聞く。YESと恰幅いいポロシャツの黒人のお姉さんが頷く。
因縁のチケットたちが同時に目の前に現れた。
クレジットカードはほんと有能だ。かざすだけでこのチケットを渡してくれる。路線図や入れる施設名など書かれたパンフレットも渡される。
やっとわくわくしてきた。これが高揚感か。
お姉さんのカード説明始まる。さぁいつものリスニング問題スタート。
Listen。「○×△☆♯♭●□▲★,bus,tram,metro,※○×△☆♯♭●□▲★※○×△☆♯♭●□▲★,book※○×△☆♯♭●□▲★※○×△☆♯♭●□▲★※○×△☆♯♭●□▲★※○×△☆♯♭●□▲★※○×△☆♯♭●□▲★※」
お姉さんの説明は止まらない。今までで一番長い呪文だった。
お姉さん、ちゃんと息継ぎできてる?とその早口さを心配する。ピリオドの間すら聞き取れなく、相槌を打つ合いの手も合ってなさそうだが、オケ、アー、オケ、と言う。適当でごめん。
さて。説明が終わったようだ。
聞き取れたのはバス、トラム、メトロ、そしてブック。なるほどなるほど。これで文を組み立てよう。
「このカードは1日中使える。バス、トラム、メトロ、乗り放題よ。運河クルーズも1回はこれで無料で乗れる。施設もこのカードで無料か割引で入れるところあるし、まぁ細かい場所はそのパンフレット見て調べてね。でもね。運河クルーズは予約が必要。あと施設も予約が必要な場所あるの。これ提示しただけじゃ入れない場合あるから予約して行ってね」か。うん、だな。でしょ。
OK,Thank You、ダンクウェルと言ってルンルンで店を出る。
oranda.jpを見といて良かった。きっと私の情報収集力なら語学力を補える。(こともある)
嬉しさで高ぶる。チケットを抱き締めたいくらいだ。大切にしまい、やっと因縁の戦いに終止符が打たれた。
![](https://assets.st-note.com/img/1691741548609-kt2aoftbrk.jpg?width=1200)
中央駅の北口は運河と言うより海が見えて市街側と全く違う顔色を見せた。また明日もザーンセスカンスに行くときに来るからその時寄ろう。のんびりしてるとトラムの1時間券が切れてしまう。ホテルに戻ろう。
南口に戻ろうとするところで電話ボックスのように唐突に立ってる券売機に気づく。あ、使ってる人いる。
あれ、これトラムのチケット買えるのでは?とトライ。今度はタッチパネルがしっかり反応してくれた。シミュレーション通りに。あ、行ける!クレジットカードもタッチして。わぁGET!
これは土曜にユトレヒト行くときのホテル→アムステルダム中央駅のトラム用。先に持ってればポーっだけで済むもんね。
9292によると、museumpleinに戻るには2番か12番のトラムに乗ればいいらしい。南口に戻り、そのどちらかのトラムに乗る。もう乗り方を知ってる。タッチ&ポーだ。
まさに順調。歯車がようやく噛み合って、ギギギと動き出す気配がする。
嫌いになりかけていた大好きな国。
受け入れられていないと感じた居心地の悪さ。
この国は誰も拒んでなどいない。
勝手に苦手になったのは自分自身。
私はゆっくりと着実に。この国への愛情を取り戻していく。
帰りのトラム。もうすぐ着きそうってところで水色の看板、Albert Heijn(アルバートハイン)を通過。あ、アルバートハイン!
降りよう。museumpleinの一個手前で降りることにした。
Albert Heijn(アルバートハイン)はこちらでの有名スーパー。スーパー=アルバートハインと同義くらい他のスーパーを見かけない。
水水水。私調べだと軟水はSpaってベルギー産のがいいみたいだけど。あった!
よし2本は買おう。日本語ぶつぶつつぶやきながら店内を回る。
野菜不足になるからサラダを買おう。全部大きい。こんなに要らない。いや、半分食べて冷蔵庫に入れて明日に持ち越してしまおう。節約&ダイエット。
カットフルーツと本場でHeinekenのビールも買うか。
セルフレジ。ピッピッしてエコバッグに突っ込む。カードで精算。うむなんとかうまくいった。
レシートを受け取り、さぁ帰ろう。
出口は、っと…。
なんかゲートある。ほへ。出れない。おわた。
なんかセンサーてか読み取る機械ある。
……あ、え、そゆこと?
エコバッグに突っ込んだグシャグシャのレシートを慌てて探す。
これ関係ある?とレシート記載のバーコードをかざす。
ビンゴ。ピーっといってゲートが開いた。
まるでチンパンジーの知能テストだ。
誰かにモニタリングされているのでは、と思ってしまう。こゆとこも異文化。私はチンパンジーとなり、この国を試行錯誤で学んでいこう。
地図を見ながらホテルへ戻る。
達成感でいっぱいだ。諦めてこの部屋で籠城しなくて良かった。
お疲れと乾杯。日本から持ってきた非常食とともに。
シャワーを浴びるが、日本の浴槽がもう初日から恋しい。
その日は20時台には寝た。
次の日からようやく本格的な旅の始まりだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1691737541990-sye0FOJpN6.jpg?width=1200)