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酒と父。
父が酒をやめた。
今日は実家で餃子パーティー(母の餃子は絶品)。とにかく父が孫(息子)にデレデレで、毎週末のように遊びに連れて行っている。
父はとにかく根気強く、息子のどんな要求にもほとんどこたえている。抱っこ、水遊び、絵本、ボール、買い物…!しかしそんな父も、昨年まではここまで根気強くなかった。ものすごく大切にしてくれていたし、かなり面倒も見てくれたけど、途中でよく消えていた。
原因は酒だ。
父=酒。
そんな図式が出来上がるほど、父は長年酒を飲みまくった。
わたしの幼いころの記憶は、毎朝二日酔いで「からゲロ」をしている父の姿。その「おえええええ」とえずく声が嫌でたまらず、布団を頭までかぶって聞かないようにしていた。
毎晩毎晩飲んだくれて帰ってくる。飲んだくれてジャンプしていい年なのに足を骨折したりもしていた。
そしてとにかく、酒癖が悪かった。
父はもともと繊細で、神経質で、気の大きい方ではない。たぶん本人はそう思っていないだろうけど、そんな弱い部分を酒の力でねじ伏せていた。だから深酒をすると、どんどんこじれた人間になった。
変な絡み方をする。しつこい。それを咎めると逆ギレする。
理不尽な内容で怒鳴られる。
おおごとではないが、暴力もふるう。
飲んでいないときも気性が荒かったけれど、飲んだ時のそれはしらふの比じゃなかった。本当にいやだった。父が飲んで帰ってくるのも、晩酌をしはじめるのも、本当にいやだった。
思春期のころからわかりやすく父が嫌いになったわたしだが、それは「酒を飲んで前後不覚になったあの野郎」の部分が嫌いなのだった。今思えば。
そんな父が、酒をやめた。
昨年患った、食道がんがきっかけだ。
食道がんの原因のひとつは飲酒と喫煙。父は若いころ煙草もバカスカ吸っていたし、がん宣告は青天のへきれきだったけど、どこかで「ああ…」と納得した部分もあったのだ。
酒=父。
そんな人間から酒を取ったらどうなったか。
めっちゃ穏やかになった。
息子にも気長に接してくれるし、感情のアップダウンが無くなっていつでも話がわかる状態になった。
いつの間にか父と喋るのが昔のように平気になっていた。いつもしらふで、意味不明な言動が無くなったからだ。
母の前では以前のような理不尽な姿も出ているようだけど、それも格段に減った。かれこれ30年は耐えてきたあの酒癖の悪さが消えた。
これが本当にストレスフリーで、こんなにこの人は付き合いやすかったっけ?と娘ながらに思う。
どれだけ酒に魂を売っていたんや…。
食道がんの5年生存率は低い。いつどうなるか、わからない。
でも最後に、こうして「長生きしてほしい、もっと父と過ごしたい」そんな風に思えたのは、確実に食道がんになって酒をやめたから。
皮肉な話かもしれないが、「がん」がその時間をくれたのだ。
しらふの父と過ごす時間。
酔った父におびえなくていい時間。
最期のときに「ありがとう」と言えるための、時間。
わたしはそう思えてならない。
来年もこうして家族でわいわいと、母の餃子を囲みたい。どれかひとつ、と言われたら、それを望むだろう。
そんなわたしは、母に似て酒は全然飲めない。
それでよかったと思っている。
今日見出しの画像に使わせていただいたイラストは、とても父に似ている。まさにこんな風貌の、わたしの父。
それでは、おやすみなさい。
いい夢を☆彡
2018/08/18夜のコラム
イトウカヌレ
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