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紙の本でしか成り立たない「世界でいちばん透き通った物語」

語りたくてしょうがない本に出会ったのでnoteを書くことにしました。既にベストセラーなのでもう知ってる人も多いかもしれません。ネタバレ不可の作品のため、感想以外の文章が多くなりますがご了承ください。  

「世界でいちばん透き通った物語」、とんでもない作品でした。
本に関わるすべての人に読んでほしい一冊です。

この小説の何が凄いかというと、紙の本でしか成り立たない小説なのです。電子化、映像化は完全に不可能でしょう。例えできたとしても、紙の本で読んだときの衝撃は越えられないのは間違いありません。
それがあまりにも感動的で、そして嬉しかったのです。

私は本のデザインを職業としていますが、忙しくなればなるほどひとつの不安がつきまといます。
いつか紙の本が無くなったらどうしよう。
実際に紙の本の出版点数は年々減少しています。
電子書籍が増えているからいいじゃないかと思うかもしれませんが、本のデザイナーとしては紙の本がないと成り立たないのです。
出版点数が極端に減るようでしたら別の何かをデザインするか、違う職業を選ばなくてはいけません。生き残れるデザイナーはごく一部の有名で実力のある人だけでしょう。立場としては、紙の本を売る個人経営の本屋さんに似ているかもしれません。

そんな紙の本を切望している中で、紙だけにしかできないことをやってのけたことに、作品以上の感動や頼もしさがありました。

内容は、ミステリ作家の父親が亡くなり、遺作となる「世界でいちばん透き通った物語」というタイトルの原稿を探すところから始まります。出版界の人や父親の愛人など、生前関わっていた人たちに作品のことを聞いてまわるうちに、「世界でいちばん透き通った物語」の真相にたどり着いていきます。
大体3時間くらいあれば読めますし、驚くほど読みやすいので、映画を一本見る感覚で見てもいいかと思います。文庫本は1,000円もしないのでコスパやタイパを気にする人も満足できそうです。

ネタバレ不可なので詳しくは言えませんが、本に関わる人には是非とも読んでほしいです。本屋、編集者、作家、デザイナーなど。そして、一度でも小説を書いたことある人や、普段から小説を読む人、最近読まなくなってきた人……つまり、多くの人に読んでほしい一冊です。

と、さんざん紙の本に対しての感動を書きましたが、現在の出版界に電子版が必要不可欠なのもまた事実です。
たとえば芥川賞を受賞した「ハンチバック」には紙の本に対しての憎しみが書かれています。

「ハンチバック」の主人公は難病を抱えていて、紙の本を読むときにページをめくることや読書姿勢が保つことに相当な負担があります。
そして「本好き」が当然のように本が読めることを、無知で傲慢で呑気で健常者優位主義と書いています。これも一石を投じる表現であり、決して無視はできません。
また、紙の本で読むと作者の主張に同意できなくなってしまう気がしたので、電子版で読んでよかったと思う一冊でした。

今後、出版界がどうなるかはわかりませんが、電子も紙も、両方あり続けることが大事なのでしょう。自分も、両方いいバランスでデザインしていければと思います。

最後に、内容とは関係ありませんが「世界でいちばん透き通った物語」のカバーデザインは川谷デザインさんです。
いつも衝撃があって、それなのに一切の無駄がなくレイアウトが完璧なのです。
川谷さんのデザインでなければ買わなかったので、デザインの力で背中を押してもらい、素晴らしい出会いを与えてもらえました。
そして、このような本を出してくれた作家さんや出版社にも感謝です。
もっと本の世界にいたいと思わせてくれました。


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