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*旅行に行ったことがなくても。

「家族で旅行したことないです。」

そう言った私に、上司はとても驚いていた。妻と娘曰く車の後部座席を倒したらフラットにできて案外気持ちよく寝れるらしいだの、運転の練習のために娘に運転させたりするだのと、さっきまで家族旅行の話をしていた上司の反応としては当然だろう。

「小学生のときとかは羨ましかったです。家族で旅行に行ったっていう話を友達から聞いたりするといいなぁ〜と思ってました。」

「そうだよね〜」と軽く相槌を打つ上司に補足した。

「日帰りでどこかへ行くことはありましたよ。なんで、旅行というよりお出かけですね。」

***

家族で旅行って、あたりまえにするものなんだろうか。両親の職業に左右されそうな感じはするけれど、我が家は両親ともに土日休みだった気がする。お父さんがどうだったかは正直覚えていないけど。というのも、お父さんはコロコロと職を変えていたから、何をしているか知らなかった。おそらく、興味もなかった。

でも、お父さんと出かけた思い出はたくさんある。近所の公園やレジャースポットに連れてってくれるのはいつもお父さんだった。

お父さんはかなりのインドアだ。暇があれば部屋に引きこもってラジオを聴いたり、パソコンを触ったり、楽器を弾いたりしているような人だ。

そんなお父さんでも、娘2人を遊びに連れて行ってくれていた。頻度としてはたぶん少なかった方だと思うけど。旅行に行かなくても、充実した休日を過ごしていた。十分、楽しかった。

家族の在り方なんていろいろあって当然だけど、こういう思い出があるってだけで幸せだし、すごく有難いなと、自分が大人になって思う。

***

「旅行行きたいとか言わないの?」

そう聞かれた上司に私は答えた。

「言ってましたよ。でも言ったら、『ウチは旅行には行かないけど、その分美味しいものを食べてるんだ』って返されてました。」


ボーナスが出たら「焼肉行くぞー!」と言うお父さん。

還暦のお祝いも、家族みんなで焼肉を食べた。「みんなで食べると美味しいなぁ」とこぼしていたお父さん。

旅行に行かなくても、一緒にご飯を食べるだけで幸せを感じられるのは、そんなお父さんに育ててもらったからでしょうか。


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ちんたらとろこ
最後まで読んでいただきありがとうございます。少しでも「スキ」と思っていただければ嬉しい限りです。