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【艦娘母艦合同プレビュー版寄稿記事】ろっこう型情報収集艦

**本記事の内容は艦隊これくしょん様の二次創作になります。**
本記事は、2024年6月2日発行の第一海洋特機様(TwitterID:kaiyoh_tokki)の「雷撃ネイビーマガジン6月号(艦娘母艦合同 企画広報プレ版)」に寄稿させていただいたものになります。なお、イラストについては、八鳥様(TwitterID:f2173)に描いていただいたものです。
記事最後には、最終原稿版のPDFを付けております。
コミックマーケット105で頒布予定の「艦娘母艦合同」(プレ版同様、第一海洋特機様より。頒布スペース「日曜す03b」)では、本記事形態を踏襲した形で、第2回深対協「新多機能艦娘母艦検討会」(https://note.com/chinottomateba/n/nacf12a7367b2?sub_rt=share_sb)で取り上げた「やしま」型が後継艦となる「ゆみがはま」型輸送艦と「えりも」型護衛艦をテーマにしています。

是非ともよろしくお願いいたします。


対深海棲艦・海洋テロ作戦と艦艇 第4回 
ろっこう型情報収集艦

現在も実施されている対深海棲艦・海洋テロ作戦 (AAFMTO)において、様々な艦艇が任務に就いて いる。護衛艦のような深海棲艦との直接戦闘を行うものや艦娘部隊の洋上拠点・支援母艦として運用 されている揚陸艦・艦娘母艦などはその代表と言え る。 一方で、それら以外の艦艇もAAFMTOに携わって おり、その中には深海棲艦が発する電波や音など の情報を集め、分析することを任務とする艦艇も含 まれる。だが、そのような艦は表舞台に立つことが 少なく情報は限られ、その実態がなかなか分からないのが実情だ。 今回取り上げる「ろっこう」型情報収集艦は、そんな対深海棲艦情報集任務を担う艦であり、AAFMTO の舞台裏を垣間見させてくれる存在だ。

南桜諸島沖を航行する「ろっこう」。本型の特徴であ る艦上に3基設けられた大型レドームをはじめとした SIGINT 能力で深海棲艦の発する電磁波情報を収 集し、分析する。護衛艦や艦娘母艦のような目立っ た活躍こそないが、AAFMTO実施の上で欠かせな い対深海棲艦戦の縁の下の力持ちだ。

深海棲艦に対する情報収集活動

 対深海棲艦・海洋テロ作戦(AAFMTO)に基づき、国防海軍は、わが国そして国際社会の脅威となっている深海棲艦への対処にあたっている。
 深海棲艦は、その活動思考や総体としての方向性、戦闘能力から神出鬼没ともいえる出現傾向等、あらゆる部分で未知の存在である。この深海棲艦の未知部分とそれによる優位性をいかに奪うかが、対深海棲艦戦の要訣と言える。また、そのために深海棲艦に関する情報を集めて分析し、深海棲艦の特性をいかに巧みに利用するか、というインテリジェンス活動が肝要となる。
 深海棲艦がいくら未知な部分が多いといっても、この世界に存在する以上、戦術や行動の志向性・パターンだけでなく、様々な種類の情報を我々は得ることができる。それは、音や電波、熱といった物理的なものから、化学的ないしは生物的なものまで様々だ。中でも電磁波領域は、レーダーや無線通信の電波だけでなく、防壁と浮揚・推進力場の形成時に発生するケイヴァー波と様々な波長帯の電磁波を深海棲艦(もちろん艦娘もだが。)が放出していることから、深海棲艦対策を検討・実施するうえで重要な情報となっている。
 一般に電磁波情報を傍受して行うインテリジェンス活動をSIGINT(シギント:signals intelligenceの略。)と呼ぶが、深海棲艦に対する積極的なSIGINTは必然的に広大な海域で行うこととなり、電子偵察能力を有する航空機や艦娘のほかに高性能レーダーや強力な通信機器を備えた艦艇である情報収集艦がその役割を担っている。
 情報収集艦による対深海棲艦SIGINTは各国でも積極的に行われており、米海軍のモリソン級深海棲艦追跡艦や豪海軍のダーウィン級は対深海棲艦 SIGINT用に特化して設計された新造艦である。
 そして、わが国でそのような対深海棲艦SIGINTに従事しているのが、前述の 2 艦級と同様に新造された「ろっこう」(AGI-5301)と「あおみ」(AGI-5302)、本稿執筆時(20XX年XX月XX日)に進水した「ひびや」(AGI-5303)の「ろっこう」型情報収集艦の3隻である。

対深海棲艦SIGNT艦の導入まで

 深海棲艦の電磁波領域情報を収集し、分析する SIGNT 艦の導入については、深海棲艦が出現した当初 から議論がされていた。官民学軍の深海棲艦対策に 関わる組織・有識者で構成された「深海棲艦対策官民 連絡協議会」(以下、「深対協」と言う。)が国家安全 保障室に提出した「対深海棲艦・海洋テロ作戦能力の 基盤強化に関する提言書(20XX年版)」(以下、「基盤 強化提言書」と言う。)において、深海棲艦や赤色海 域に関する情報収集能力の一つとして、艦娘や海洋 機動兵器、無人機と有機的に連携することができる 情報収集艦や海洋調査艦を「早急な導入を目指すべ き装備」として挙げていた。
 20XX 年に国防省が策定した「第X次海防能力整備 計画」は、この深対協の提言書を踏襲したものとなっ ており、深海棲艦関連の調査研究・情報収集の強化に 向けての整備目標が設定され、航空機及び艦船、艦娘 等による海上でのSIGINT能力の整備と拡充が明記さ れている。
 加えて、同時期の20XX年X月に日米豪の間で対深 海棲艦情報収集活動協定(AAFIAA)が締結され、3か 国による対深海棲艦SIGINTの協力体制が構築された ことも、情報収集艦導入を後押しする大きな要因と なった。
 事実として、同協定に基づき、日本とオーストラリ アがそれぞれ建造する情報収集艦(日本の「ろっこう」 型、オーストラリアのダーウィン級)へのSIGINTシ ステムの搭載に米 NSA が技術支援を行ったことが、 Leakpedia に流出した豪海軍戦略情報部の資料やそ れに起因する米上院軍事委員会公聴会での DARPA の 証言から確認することができる。支援が行われた技 術は、日豪に先行して運用されている米海軍モリソ ン級深海棲艦追跡艦に装備しているものに由来する ものであることが判明している。

「ろっこう」型の誕生

 20XX 年XX 月、鶴岡内閣(第1次)は■■XX年度中期国防能力整備計画を閣議決定、同計画に基づき、■ ■XX 年度計画予算でネームシップ、翌年度計画予算 で2隻目の対深海棲艦SIGNT艦の建造が認可された。 (3隻目は3年置いての■■XX年度計画予算で認可。)
 国防装備庁と海洋防護総局は、深対協の基盤強化 提言書と20XX年に協議会内の技術分科会が両庁に提 出した「深海棲艦調査艦の建造に関する提言」、前述 のNSAからの技術支援を踏まえ、「うらが」型掃海母 艦をベースにした設計案を採用、建造事業が進めら れた。
 そして、20XX 年XX月に「ろっこう」、翌年X月に 「あおみ」がそれぞれ就役し、3番艦になる「ひびや」 が先般進水した。
 なお、基盤強化提言書の記載時から目的・任務を擬 装するために「環境調査艦」と呼称されており、1番 艦建造事業時まで続いていたが、2番艦の建造着工時 より「情報収集艦」に呼称が変更され、艦種記号も正 式にAGIが付与された経緯がある。

艦艇としての「ろっこう」型

 「ろっこう」型は、「うらが」型を設計母体としている。「うらが」型が選ばれた理由としては、掃海母 艦・機雷戦母艦として設計された同型の構造が、情報 収集艦への転用に向いていたとともに、格納庫とウ ェルデッキを含む艦後部の設計が艦娘や海洋機動兵 器、無人機を運用するうえで適していたことが理由 とされている。艦首から艦橋部やマストにかけて共 通点を見出せるが、全体を通してみると船体構造は 「うらが」型と大きく異なっている。
 最大の特徴は、艦構造物上部に 3 基設置されてい る大型レドームで、円柱状の1基が艦橋上部、球状の 2 基が艦中央部に配置されている。球状レドーム2基 の位置関係から、「うらが」型では艦中央部にあった 煙突がレドームの後方に移っている。
 また、艦後部には「うらが」型を踏襲するようにウ ェルデッキを備えているが、艦娘や各種海洋装備の 整備格納庫と発着艦機材のため、全高が大幅に高く なっており、空間を確保している。上部にはヘリコプ ター甲板が設けられており、ヘリコプターの発着艦 と給油を可能にしている。


「ろっこう」型の船体設計の参考になった「うらが」型掃海母艦。 艦首から艦橋部にかけてその面影が見られる。艦尾ウェルデッキや 格納庫の設計は「うらが」型を拡張発展させたものになっている。

「ろっこう」型のSIGNT能力

 「ろっこう」型は深海棲艦の発する様々な電磁波情 報を収集するため、多種のレーダー、観測機器、通信 機材を備えている。「ろっこう」型のSIGINT能力に関 する情報は機密に該当するものが多く、何重ものベ ールに包まれているが、公開情報や複数の関係者の 証言から、AAFIAA に基づく日米豪の3か国対深海棲 艦SIGINT 協力体制に関連して、米モリソン級や豪ダ ーウィン級と同種・同レベルの能力を有することは 確実とされる。
 大型レドームのうち、艦橋上の円柱状レドーム内 には回転式フェイズドアレイレーダー、球状レドー ムの 1 基には高精度パッシブレーダー信号検出アン テナが搭載されているとされる。
 レドームだけでなく、艦橋後方の塔状マストや煙 突周辺にも、各波長帯での無線通信検出アンテナ、電 波受信アンテナ等の各種特殊アンテナや探知アレイ が取り付けられており、様々な電磁波情報を収集で きるようになっている。
 「ろっこう」型を含む対深海棲艦SIGINT艦が従来の 情報収集艦と大きく異なる特徴は、ケイヴァー波を 検出する能力に秀でているところにある。ケイヴァ ー波は、深海棲艦(そして、艦娘も)が防壁や浮揚・推進力場を形成する際に必ず発生する特異的な電磁 波であり、深海棲艦を探知するためのファクターで あるとともに、音紋や熱紋と同様にそれぞれで異な るパターンを形成することから、個体・種類の同定に おいて重要な情報となる。
 そのため、ケイヴァー波を含む多様な電磁波情報 の収集・分析に秀でている「ろっこう」型の能力は、 国防海軍艦艇の中で唯一無二のアセットと言える。

「ろっこう」型と艦娘

 設計母体となった「うらが」型から機材格納空間や ウェルデッキ機構を発展拡充させた設計であること から、「ろっこう」型は艦娘運用能力を有している。
 しかし、「やしま」型や「ゆみがはま」型といった 本格的な艦娘母艦としてではなく、FFMをはじめとし た艦娘運用可能護衛艦のような、あくまでも主では なく従たる機能・能力となっており、搭載可能艤装数 は6機にも満たない模様だ。
 「ろっこう」型に乗艦している艦娘部隊は、「ろっ こう」型と同様かそれ以上に情報が無いのが実情で、 不明な点が多い。だが、関係者情報やOB・OGの証言 から、特殊海洋作戦集団隷下の艦娘特殊部隊が 2 艦 にそれぞれ分遣隊として乗艦していると見られる。 そして、これは筆者の推察となるが、「ろっこう」型 の任務の性質等から、当該部隊は特殊戦術偵察部隊 「第55任務部隊」ではないかと考えられる。同隊は 「特殊海洋観測隊」と「第1機動偵察戦隊」の2つの 偵察部隊を統合・再編成した部隊であり、特殊海洋作 戦集団の部隊でありながら、国防情報総局偵察局の 偵察部隊として運用されている部隊だ。艤装も因幡 海洋技研と梛良グループが共同開発した戦術偵察用 途の特殊艤装シリーズとされ、その能力からも「ろっ こう」型の情報収集活動を補完するユニットとして の役割を担っていると思われる。

「ろっこう」型の運用

 「ろっこう」型は、2隻ともが国防艦隊艦隊情報部 隷下の第1情報収集隊に属し、呉を母港にしている。
 SIGINT 活動は、国防情報総局電波局所属の技術者達が担っており、国防省・国防軍の対深海棲艦インテリジェンスの重要な一角として機能している。
 展開先も日本周辺だけでなく、オセアニア方面からインド洋まで延び、広範な海域に投入されている模様だ。
 深海棲艦脅威レベルが低いグリーンエリアからイエローエリアにかけては、単艦での活動も多く、この場合は強力な探知能力を活かした広域での哨戒・警戒任務に重きを置くようになっている。連合幕僚監 部や海防幕僚監部からの警戒監視に関するプレスリ リースでも、「ろっこう」や「あおみ」の名前が時折 確認できる。
 一方のオレンジエリアからレッドエリアとなる脅 威度が高い海域ではどのようか、となるとこれも関 係者の証言や他国の同種艦の情報に基づく推測が強 くなるが、護衛の艦艇や艦娘と組んでの深海棲艦の 電磁波情報の収集を行っているとみられる。
 中~高脅威度海域での「ろっこう」型の情報収集任 務では、対象海域に接近・侵入しての電磁波観測・収 集だけでなく、戦闘中の海域の後方に展開あるいは 戦闘中の部隊に同伴して、部隊の活動を含めた戦闘 状況をモニタリングするという手法もとっている模 様で、護衛を伴うものの自身は艦娘以外の固有の戦 闘能力(前述のとおり、この艦娘も純粋な戦闘・個艦 防御よりも、偵察任務に重きを置いている可能性が 高い。)を持たないにも関わらず、「ろっこう」型は様々な海域・作戦に赴き、積極的な対深海棲艦SIGINT にあたっているようだ。

「ろっこう」型の今後

 「ろっこう」型は現在、「ろっこう」と「あおみ」 が就役し、日本周辺だけでなく様々な海域で深海棲 艦の電磁波領域情報を収集・分析し、対深海棲艦・海 洋テロ作戦に基づく様々な任務を支えている。だが、 深海棲艦はその出現海域が非常に広範であり、未だ に人類が手を出せない支配海域もある。更に未発見・ 未確認の種類も相次いで見つかっており、深刻な未 知の脅威であることに変わりはない。加えて、多発す る海洋テロリズムも凶悪化と過激化の一途をたどっ ている。
 そのような中で、3番艦である「ひびや」が就役す ることで、国防海軍の対深海棲艦SIGINT艦は3隻と なり、より稼働率と活動能力の上限を上げて深海棲 艦の電磁波領域情報を収集できる体制を構築できる ようになる。
 現在も深海棲艦の脅威が続く中、様々な深海棲艦 の電磁波領域情報を収集・分析できる優れた情報能 力を持つ「ろっこう」型は、今後も対深海棲艦・海洋 テロ作戦において重要な役割を担っていくことは間 違いないだろう。



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