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全身麻酔の仄かな白み

全身麻酔の仄かな白み
私の夜は気が触れたままでまだ目覚めてはいない
開いた唇からの生気が地上に降りない鳥たちに
届く頃には切開された私の胸は
正常の重みで押し潰された後だ
未知に潜む傷口を見つけたと思っていたあの頃
痛々しさに歓喜の涙を零し
降りしきる雨を物ともせず走り抜けた
あなたの待っている森のかたちをした砦へと
私は茫然自失の態で辿り着く
傘も差さずに扉のない入り口を身体で塞いで立ち
暗闇に縁取られたあなたは薬草の眼差しを
灰色の大気と泥まみれの木の幹に献上している
あなたの背後で微かに途切れ途切れの寝息が
森のざわめきに紛れて聞こえてくる
手術台に横たわって眠っているもう一人の私
そっと近づいていく私の夢のしなやかな脚は
あなたの愛を躱しながら紫色の失墜を受け入れていく
砦の奥での私の目覚めは壁と柱と回廊を築く
戦争は森を焼いた
亡霊の君がどうしても必要なんだとあなたは言う
戦争を終わらせるための秘策を思いついたと
眠りに対して燃え残った樹木の涙を差し出し
目覚めに対して舞い散る灰を集めて褥とする
私は戦地の森で淫らな裸を敵に晒して
術後の傷口の縫合を解くように懇願する
永遠の愛を誓った報いを今こそ受けるべきだと

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