第11回:『ジェイソン流お金の増やし方』から学ぶ資産運用術【後編】
前回は、厚切りジェイソン氏が「保守的で堅実な投資」すなわち「パッシブ運用」で資産形成を成功させてFIRE(Financial Independence, Retire Early)を達成したこと、そしてその成功のカギを握る3つの手順について確認しました。その手順は至ってシンプルで、
①支出を見直して無駄を減らし、
②生活費3ヶ月分だけを残してインデックスファンドにドルコスト平均法でコツコツと投資を行い、
③買ったら待つ
前回の内容はコチラ↓↓↓↓↓
①米国株への投資を勧める理由
では、ジェイソン氏はどのような商品に投資してきたのでしょうか?
結論から言うと、米国株です。
自分の身の回りを眺めてみれば分かりますが、マイクロソフト製のパソコンやアップルのiPhoneを使って、Googleで情報を検索し、アマゾンで商品を購入し、Facebookが買収したInstagramで近況を投稿する。私たちの日常生活は、アメリカ企業の提供するサービスが取り巻いています。アメリカ経済は常に成長を続け、しかも主要先進国でほとんど唯一の人口増加国です。
さらに、アメリカのトップ企業の経営者たちは自社の株価を上げることをとても重要視しています。これはアメリカのCEO(最高経営責任者)の報酬は株価と連動していることが多いからです。アップルのCEOであるティム・クックは2020年の報酬が約290億、テスラのCEOイーロン・マスクに至っては約7226億です。このような高額な報酬がもらえるのは、アメリカでは株価が上がったらそれに準じてCEOの報酬も上がっていくからです。だからこそアメリカ企業の株価はずっと右肩上がりで成長し続けているのです。
ちなみに、日本では世界に誇る日本のトヨタでさえ、社長の報酬は約4億です。日本では「高額報酬=強欲」と受け止められ、社会から叩かれる風潮があります。日産の旧社長のゴーン氏も一連の事件の中で「高額報酬」を批判する声が巻き起こりました。
しかし、投資する側の視点からすると、経営者たちの欲望と企業の株価が直結しているというのは、むしろ安心材料です。自社の株価を上げるということを明確な目的にしてくれているからです。資本主義は欲望によって成長してきましたし、当然これからもそうです。その意味で、ある意味で「欲望の塊」であるといえるアメリカは、今後も成長していくことが期待されます。
さらに、アメリカの大企業は世界を舞台にビジネス展開をしているグローバル企業です。アメリカ市場だけでビジネスをしているわけではありません。その意味で、米国株ではあるけれど、「全世界で成功をしている会社に投資をしていると考えてもあながち間違いではない」といえます。アメリカ株に投資をするというのは、全世界に分散投資をするのと同じ意味を持っているとさえいえるのです。
このように、アメリカの市場への投資を推奨することができる要因はいくつもあるわけです。
②ETFとは?
ただし、米国株に投資するといっても、個別株に投資するのではありません。パッシブ運用ですから投資信託です。
投資信託にはインデックスファンド、アクティブファンドという2種類がありますが、もう一つ、「ETF」と呼ばれるものがあります。ジェイソン氏が投資をしているのは、この「ETF」です。
「ETF」とは、Exchange Traded Fund の略で、日本語では「上場投資信託」といいます。これは、通常の投資信託とは異なり株式市場に上場しているため、投資信託を株式のように自由に売買することを可能にした金融商品です。いわば投資信託をアップデートさせたものだと思ってください。
ただし「ETF」にもVT・VTI・VOO・VYM・SPYD・HDV・SOXLなど、たくさんの種類があります。
これらのアルファベットはティッカー・シンボル(ティッカー・コード)といって、日本株の銘柄コードのように、株式市場に上場する個々の銘柄を識別するためにつけられた記号です。日本では4桁の数字で表しますが、欧米ではアルファベットで表します。
③VTIとは?
数ある「ETF」の中で、ジェイソン氏が勧めるのが「VTI」です。
「VTI」とは、「Vanguard Total Stock Market ETF(バンガード・トータル・ストック・マーケットETF)」の略で、米国のバンガード社が提供している「ETF」のことです。
あれ、略したら「VTS」じゃないの?と思った人のために細かいことを言うと、Stock Marketというのは「株式相場」、つまりIndex(インデックス)のことなので、Stock Marketを「I」と略しているのだと思われます。
なお、米国株式市場の動向を表す代表的な指標(インデックス)には、S&P500とNASDAQ100、CRSP US Total Market Indexの3つがありますが、「VTI」はCRSP(クリスプ)に連動するETFです。
CRSPは、Center for Research in Security Prices(シカゴ大学証券価格調査センター)の略で、全米株式市場の大型株から小型株まで約4000銘柄を時価総額で加重平均(規模が大きい会社ほど比重を高くする)した指数です。
「VTI」はアップル・マイクロソフト・アルファベット社・アマゾンドットコム・フェイスブック・テスラ・バークシャーハサウェイなどの米国経済をリードするような大企業をはじめ、これから成長が期待される中小型株まで含めると3,800以上の銘柄がバランスよく組み込まれているのが特徴です。アメリカの市場に上場している株式の99%以上をカバーしているので、「VTI」に投資をするということは、アメリカの市場にまるごと分散投資をしているようなものです。アメリカの市場全体をカバーする投資法なら、リスクを減らしながら利益を得ることができます。
しかも、「S&P500」と同じように、これら3,800社は業績によって入れ替わります。つまり、常に成績のいい企業しか構成銘柄に残ることができないのです。そして、退場させられた企業に代わって、成長著しい会社が入ってきます。このように、米国株の代表的指標をベースにしたインデックスファンドに投資をしておけば、今、一番脂ののっている企業に投資ができるということになります。
なお、ジェイソン氏は、もともとは「S&P500」に投資をしていたそうです。「S&P500」は米国を代表する企業上位500社に分散投資をするので、たしかに安定はしています。
しかし、すでに述べたように、「VTI」はそれ以外にも、今後の成長が見込まれる中小企業の株も組み込まれています。もしかすると、将来「GAFA」のように世界的に認知されるような大企業が含まれているかもしれません。そう考えると、成長したときにより大きなリターンがもたらされる可能性があります。
そこで、ジェイソン氏は色々と考えた末に、「VTI」に切り替えたわけです。
以下のグラフは、「VTI」の設定時(2001年5月)から2022年1月現在までのチャートになります。
大きく下落している年は、ITバブルの崩壊やリーマンショック・コロナショック等の金融危機の影響を受けた年です。しかし、長期的にはそれらを乗り越え右肩上がりに成長しています。
上級者は「ETF」を組み合わせてより盤石にすることもできますが、「ETF」初心者の方は「VTI」一本で十分でしょう。3,800社だから1個でも分散は利いています。
④買う場所と買い方について
どこで買うかは非常に重要です。結論から言うと、ネット証券一択です。店舗の窓口で購入するのは避けるべきです。店舗は、お年寄りなどの自分で情報収集ができない情報リテラシーの低い人がターゲットです。なぜなら、向こうが売りたい商品を言うなりに買ってくれる人が来てくれるからです。だから、手数料の高い、売り手側が得をする金融商品を勧められます。
買い方については前編でも触れましたが、投資の世界の正攻法である「毎月一定額を購入」する「ドルコスト平均法」がお勧めです。定額で買うとリスクが軽減され、また、買うタイミングについてはほとんど考えなくていいからです。
一気に大量に買い付けて、もしも金融恐慌が起こって資産価値が一気に下がったら精神的ダメージが大きすぎます。そして、たいていの初心者はこれに耐えられません。もちろん超長期的に見たら、結局は回復していくので結果は変わらないかもしれませんが、精神衛生上良くありません。
以上の理由から、ジェイソン氏は「VTI」を毎月定額で買うという方法を勧めているのです。
⑤手を出してはいけないもの(1)―暗号資産
最後に投資の落とし穴として、手を出してはいけないものについてです。
それは次の4つです。
①暗号資産
②コモディティ
③中国株
④不動産
これらに手を出してはいけない理由は、投資家として中級者以上の方向けの商品であり、初心者向けではないからです。
まず「暗号資産」ですが、具体的には、国家に管理されない通貨である「仮想通貨」(ビットコインなど)や「スマートコントラクト」「NFT」などです。それぞれの詳細については割愛しますが、ジェイソン氏はこういった類いのものには懐疑的です。
というのも、これらは実際の価値以上に期待値が過熱化している雰囲気があるからです。特に、最近ブームとなっている「NFT」などは危険性が高いので安易に飛びつくことは避けるべきでしょう。
実際に本当に価値のあるものもあるのでしょうが、「NFT」市場全体に対しての期待値が高まっているために、有象無象の商品まで実際の価値以上に価格が跳ね上がっているというタイミングだからです。
世界初のバブル経済事件と知られる「チューリップ・バブル」という事件があります。約400年前くらいのオランダで起きた事件です。当時、オスマン帝国から輸入されたばかりであったチューリップの球根が人気を集め、価格が異常に高騰したのです。そうした中で人々がチューリップ投資(投機)に熱狂するようになります。しかし、常識的には考えられないほどに高騰したチューリップの球根に、次第に「買い手がいなくなるのでは?」という不安が市場に広がり始めました。そしてあるとき、突然に、球根の価格がピーク時の100分の1以下にまで暴落し、オランダの経済が大混乱に陥ったのです。
これと同じように、ジェイソン氏は「仮想通貨」にも必ず大暴落のタイミングが来ると予想します。というのも、国家の統制を外れ、国家の規制が届かない通貨が流通することは、国家権力にとって不都合だからです。
現代の経済において、通貨発行権はとても重要です。簡単に言うと、国は通貨の発行量(供給量)をコントロールすることで景気や物価をコントロールしています。しかし、仮想通貨は各国が通貨発行権によってコントロールできないお金です。ということは、ビットコインでの取引が拡大すれば、国が景気をコントロールすることができなくなるのです。これは国家権力にとって看過しがたい問題です。
実際、2021年9月に中国政府は、仮想通貨(暗号資産)の関連事業を全面禁止すると発表しました。これを受けて、代表的な仮想通貨ビットコインの価格は急落したことは記憶に新しいところです。中国だけでなく、今後も国家権力による規制が相次ぐと思われます。そして、いずれは国が発行するデジタル通貨が主流になると予想します。
ジェイソン氏が基準にしている考え方は「100年後に価値があるか」です。その意味でいうと、「100年後にビットコインがあると思えない」というわけです。不確定要素の多いものには投資をしない。それが保守的で堅実な投資です。
⑥手を出してはいけないもの(2)―コモディティ
2つ目は「コモディティ」(commodity)です。これは元々は「日用品」や「必需品」という意味の言葉です。つまり「生活に密着した商品」のことで、ビジネス的には「一般化したことで差別化が困難になった製品やサービス」を指す言葉として使われます。
ちなみに、市場に流通している商品がメーカー全体の個性を失い、消費者にとってはどこのメーカーの品を購入しても大差のない状態になることを「コモディティ化」といいます。
具体的には金やプラチナといった貴金属、トウモロコシや大豆などの農産物や天然ゴム、原油や電力などの実物資産のことを「コモディティ」といいます。
こういった安定的、普遍的な価値のある実物資産にはインフレ時におけるリスクヘッジ(インフレヘッジ)としての価値があります。というのも、インフレでは現金の価値は下落し、相対的にモノの価値が上昇するからです。
しかし、これらは実物資産であるため、売買差益による利益(キャピタルゲイン)のみが期待でき、配当金のようなインカムゲインは発生しません。
投資家として中級者以上になった場合にインフレヘッジを目的として保有するなら意味がありますが、資産形成という観点からすると、初心者が手を付けるものではないというわけです。それよりも優先すべきは、米国ETFをネット証券で買うことです。
⑦手を出してはいけないもの(3)―中国株
3つ目は「中国株」です。中国は、1978年から改革開放に着手した鄧小平が唱えた「先富論」(先に豊かになれる者から豊かになり、あとで他の人々を助けて、徐々に共同富裕に到達する)以降、社会主義国家でありながら市場メカニズムを取り入れました。その結果、高度成長を続け、世界第2位の経済大国にまで上り詰めたのが現在です。しかし、リーマン危機以降は格差が拡大するなどの問題が生じています。
2020年時点の調査では、中国富裕層の上位1%がおよそ3割の富を占有している状態です。
こうした中で、習近平政権は次なる課題として「共同富裕論」(国民皆が共に豊かになる)を掲げ、格差是正を目的とした政策を推進する方向に舵を切りました。
改革開放後の中国では、極めて自由度の高い経済活動を許容してきましたが、共同富裕を実現するためには、統制を強化して自由だった経済活動に制限を加えることが必要となります。そして、実際に習近平政権は、IT産業、不動産業などに対する規制を強化してきました。
こうした動きに対して、政府批判を展開したのが中国EC最大手「阿里巴巴(アリババ)」の創設者である馬雲(ジャック・マー)氏です。馬雲氏は、2020年10月に上海で講演し、「技術革新の足を引っ張っている」と中国政府の規制の多さを手厳しく批判しました。すると、11月、アリババグループ傘下のアントグループの新規株式公開(IPO)が突然中止され、馬雲氏が一時消息不明となり、世界に大きな衝撃を与えました。
このように、中国はあくまで共産党独裁国家であり、アメリカのような自由な経済活動が許される民主主義国家ではありません。つまり、どれほど大企業のトップといえど、政府との力関係はアメリカと同じではないのです。
要するに、中国政府の介入が経済全体に影響を及ぼすレベルが日本やアメリカとは全く異なるのです。こうした社会体制である以上、どれほどの大企業であっても一気に株価が下がるというようなことが起こり得るわけです。いわば、今日までのルールが明日以降も適用されるとは限らず、急なルール変更が起きても不思議ではないということです。
そうした政治不安を抱えている中国株に手を出すのは避けた方がよいというのがジェイソン氏の考えです。
⑧手を出してはいけないもの(4)―不動産
最後は「不動産」です。
不動産投資は想像以上に手間のかかるものです。入居者の募集や設備が壊れた際の修繕対応、入退室の対応など、やるべきことは多岐に渡ります。投資初心者が本業の片手間にやれるようなものではありません。
また、不動産は「流動性が低い」ことも手を出してはいけない要因です。「流動性」のことを「換金性」ともいいますが、簡単に言えば、売買がしやすいかどうかです。流動性が「高い」というのは売買したいと思ったときにすぐにできることをいいます。逆に売りたいと思ってもすぐに買い手が見つからない、買いたいと思ってもすぐに買えないような場合、流動性が「低い」ということになります。
株などは取引市場があるため、利益が出るかどうかは別にして換金はしやすい、つまり流動性が「高い」資産ですが、不動産は相対取引と言って、間に入る取引市場がないため買い手と売り手が双方見つからないと成立しません。「流動性リスク」のある不動産には初心者が手を出すべきではないというのがジェイソン氏の考えです。
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