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岩波少年文庫を全部読む。(91)これってもしかして、俺たち・私たち、同じ顔!? E・ディクソン編『アラビアン・ナイト』下巻

ガラン版『千夜一夜物語』からE・ディクソンなる人物が選んだ2巻本選集からの、さらなるセレクトによる日本語版の下巻です。

取ってつけたようなハッピーエンド

「ヘビの妖精と二ひきの黒犬」は、ディクソン版正篇所収。この物語は一人称で語られます。これは、シャハラザードが語る枠内物語の登場人物によって語られる、「話のなかの話のなかの話」なのです。

〈私〉は出戻りのふたりの姉たちと船旅に出て、住民がほぼ全員石になっている町にやってきます。宮殿で生き残りの青年と出会い、結婚を約束してバグダッドに戻ろうとしますが、姉たちが嫉妬のあまりふたりを海に投げ、青年は溺死、〈私〉はある島に打ち上げられます。
蛇がべつの大蛇に呑まれそうになっているところを、石を投げて救うと、救われた蛇は女妖精で、〈私〉をバグダッドにつれていき、姉たちを犬に変え、毎日この2匹を鞭で1000回ずつ打てと行って去ります。

バートン版もマルドリュス版もここで終わっていますが、ディクソン版では最後に〈私〉が姉たちを許し、姉たちは人間の姿に戻ってそれぞれ王子と結婚する、という取ってつけたような大団円がありました。

「ヘビの妖精と二ひきの黒犬」は
・ガラン版では「王子である三人の遊行僧とバグダードの五人の娘の話」所収第63-66夜「ゾベイダの話」(『ガラン版千一夜物語』第1分冊、西尾哲夫訳、岩波書店)

・マクナーテン版では「荷担ぎやと三人の娘の物語」所収「一番年長の娘の話」(第17-18夜、『アラビアン・ナイト』第1分冊、前嶋信次訳、平凡社《東洋文庫》)
・バートン版では「バグダッドの軽子と三人の女(第9夜‐第19夜)」所収「姉娘の話」(第17-18夜、『バートン版千夜一夜物語』第1分冊、大場正史訳、ちくま文庫)

・マルドリュス版では「荷かつぎ人足と乙女たちとの物語」所収「第一の乙女ゾバイダの話」(第16-17夜、『千一夜物語』第1分冊、佐藤正彰訳)。

これってもしかして、俺たち・私たち、同じ顔!?

「シナの王女」もディクソン版正篇所収で、
・ガラン版では「ハーリダーンの子どもたちの島の王子カマルッザマーンと中国の王女ブドゥールの愛の話」の前半(第211-221夜、『ガラン版千一夜物語』第3分冊、西尾訳、岩波書店)

・マクナーテン版では「カマル・ウッ・ザマーンの物語」の前半(第170-205夜、『アラビアン・ナイト』第6、7分冊、前嶋訳、平凡社《東洋文庫》)

・バートン版では「カマル・アル・ザマンの物語(第170夜‐第249夜)」の前半(第170-205夜)まで(『バートン版千夜一夜物語』第4分冊、大場訳、ちくま文庫)

・マルドリュス版では「カマラルザマーンとあらゆる月のうち最もうるわしい月ブドゥール姫との物語」の前半(第170-204夜『千一夜物語』第4分冊、佐藤訳)

です。ディクソン版では物語後半を「護符の紛失」という題で収録していますが、この中野訳では割愛されています。

〈カルダンの子ら〉という群島のスルタンの息子カマラルザーマン王子は15歳。結婚を拒否して父王を怒らせ、古い塔に幽閉されます。塔の井戸に住む女妖精マイムーネは王子の寝顔の美に感嘆しました。カマラルザマーンが眠った後、彼を見て美しさに感動した。そこに魔神ダナッシが現れ、遠いシナのバドゥーラ姫の方が美しいと言って争いとなり、姫をここに連れてきて比較することになります。

ダナッシが睡眠中の姫を連れて来て王子の隣に寝かせると、そのふたりは同じ顔をしていて、美の点で甲乙つけがたいのでした。そこで魔神カッシカッシの判定を仰ぐと、片ほうずつ目を覚まさせ、相手により強く惚れたほうが負けとすることになります。
「これってもしかして、俺たち・私たち、同じ顔!?」
さて勝負の行方は……。

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