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鎮丸~妖狐乱舞~ ②
歌舞伎町のライブハウス。
一番奥のテーブルで若い男がバーボンをあおっている。
飲み干した後、煙草に火をつける。ライターの炎に青白い顔が写し出される。痩せて頬は落ち込んでいる。ライターの炎を写す目だけが爛々と妖しい光を放っている。
「けっ!クズどもが。皆、死にやがれ!
へっ!俺が地獄に落としてやる…」
独りごちた後、今つけたばかりの煙草を灰皿にねじ込むようにして消した。
男は20歳前後。違法な薬物の売人を生業としている。獲物を漁るかのような目であたりを見回している。
一つ離れたテーブルには男と同い年位の女がひとり、カクテルを手にブツブツと独り言を言っている。かなり酔っているようだ。
「何よ…あんたなんか。きっと後悔させてやる…。」
男に振られでもしたのだろうか。したたか酔って、目が座っている。
若い男が視線を女に移した。好色そうな口元が微かに上がる。舌舐めずりを始めるかのように。美味そうな獲物を見つけたと言わんばかりだ。
男はすかさず女のテーブルへ歩み寄る。
「やぁ、君かわいいね。一人なの?」
「うるさいわね!ほっといてよ!」
「まぁ、そう言わず一杯奢らせてよ。」
女が酔っているのをいいことに勝手にレッドアイを頼んだ。女が今、飲んでいるのと同じものだ。
「なんか悩んでるでしょ?俺には分かるんだ。」
「だから、ほっといて!肩に触らないでよ!」
女は自分の肩から男の手を振りほどく。
「ねぇ、悩みを忘れて騒ごうよ。俺、いいもの知ってるんだ。」
「うるさいわね。いつまでも!あっちに行きなよ!」
ライブの幕間、ほんの束の間の出来事である。周りは誰一人気にしていない。
「まぁ、そんなに冷たくすんなよ。仲良くしようぜ。」
「あんた一体なんなのよ。ナンパ?ダサいわね!」
と言うと、気分が悪くなったのか女は走って行ってしまった。
「へっ!」男は口を歪ませて笑い、ポケットから出した錠剤を一つ、カクテルグラスに入れた。
女がトイレから戻って来る。
「あんた、まだいたの?馬鹿じゃないの?まったく男なんてどいつもこいつも…」
テーブルのカクテルをあおるように飲む。
飲み干した後、ややあって
「なんかちょっと味が変ね?あんた、まさか…?」
女はアルコールが抜けていなかったのだろう。そのままテーブルに倒れ込んだ。
「へっ!お前なんぞに大事なクスリをやるかよ!ただの眠剤だぜ。」男は小声でそう言うと、
「おっと!ちょっと飲み過ぎじゃないか?」
今度は白々しく大きな声で言い、女を肩に担いだ。
「いやちょっと飲み過ぎたようでね。さぁ、夜風に当たろう。」言い訳がましく入り口で言うと、そのまま二人、夜の静寂に消えて行った。
(to be continued)
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