鎮丸~妖狐乱舞~ ⑦
緑川蓉子は時間通り、サロンに来た。葉猫が応対する。
「初めまして。葉猫と申します。どうされましたか?」
「うん、この頃、疲れて疲れて…あたし学生だし、バイトもそこそこにしかやってないのよ。だけどバイト中になんだか自分が自分じゃないような気分になるの。」
葉猫は霊査した。確かに生き霊の主はこの子で間違いない。生き霊を飛ばすのは無意識だ。本人が気付いているはずはない。
「最近、彼氏と別れたと言っていたわね?」葉猫が続ける。
蓉子は少し暗い表情になり、
「そうなのよ。こんなに好きなのに彼ったらちっとも構ってくれなくて…。こっちから振ってやったわ!いいザマよ。彼には私の魅力なんて分かんないのよ!」
葉猫には蓉子の左目が少し赤くなったように視えた。
葉猫が確認するように聞く。
「でも、まだ好きなんでしょう?」
蓉子はやや躊躇して
「そうなの……」と呟いた。
「彼氏のお名前聞いてもいい?」
「えっ?相性占ってくれるの?」
「まぁ、そうね…。」葉猫は相槌を打ちながら、霊査した。
蓉子の生き霊はそんなに強くない。しかし背後に何かドス黒い気配を感じた。
霊査の最中に蓉子が答える。
「彼ね、神永龍之介。かっこいい名前でしょ?」
神永龍之介は確かに先日来た若い男性だ。何もかも辻褄が合う。
しかし葉猫はこのドス黒い気配がなんだか分からなかった。鎮丸の夢を信じるならば、妖狐であろうが…。
続けて質問する。
「二人ともご出身は?」
蓉子が答える。
「私が岡山で、えーっと彼は東京。ねぇ、先生、相性占いに出身地って関係あるの?」
「えぇ、あるのよ。」
葉猫はふと考えた。
(岡山出身…なめら筋の影響も受けているかもしれない…。)
「お母さんかお婆さん、拝み屋じゃなかった?」
「すごーい!どうして分かっちゃうの?お婆ちゃんが、拝み屋だったって!」
「お婆さんはご健在?」葉猫が聞く。
「2年前に死んじゃった。」
葉猫は合点がいった。強い術者が死んで、使い魔が暴走したのだ。けれどこの使い魔達は人間に憑依してしまっている。
また、この子自身が使い魔となんらかの関わりがあるようだ。
葉猫は、「最近、何か変わったことはなかった?」と質問した。
「そうね…そう言えばこの間、歌舞伎町のライブハウスで気持ち悪い男にナンパされて…。」
「付いていったの?」
「まさか!相手にもしなかったわ!でもそいつ変なクスリを私のお酒に入れたの…」
「変なクスリ?」葉猫の眉間が険しくなる。
「まさか、そのまま…」
「やだなー先生!そんなこと有る訳ないじゃん。考えすぎよ。」
「その後のこと、覚えてるの?」
「いや、全然。大丈夫よ、だって気付いたら、まだライブハウスにいたもの。」
あっけらかんとしたものだ。聞いている方がハラハラしてくる。
葉猫はこの男について霊査した。真っ暗で何も見えない。一つだけ分かったことがある。
それを蓉子にストレートに告げた。
「あなた、この男と初対面じゃないわよ。前に一度会ってる。あなたは覚えてないかも知れないけどね。前々から狙われてたみた
い。」
「えーっ!そんなはずないよ!」蓉子は目を丸くした。しかし、はっとして続ける。
「……だけど言われてみれば確かに。初めて会った感じはしなかった。なんか、懐かしいような…。ストーカーかな?先生、どうしよう?…でも…」
そこへ鎮丸がドアを開けて入って来た。
(to be continued)