泰山府君祭
泰山府君は中国の道教の神ですが、
東岳大帝と同一視されています。
東岳大帝は「玉皇上帝」の孫で、
人間の賞罰や寿命を司ります。
死んだ人間の魂魄は、
東岳大帝のもとへ帰ると
信じられています。
東岳大帝の名前の由来ですが、
五岳の一つである東岳泰山の神です。
五岳とは何かというと、
中国で神仙が住むとされ、
信仰の対象となっている、
五つの山のことです。
泰山(東岳)・衡山(南岳)・
華山(西岳)・恒山(北岳)・
嵩山(中岳)の五つです。
そのうち、泰山(東岳)に住むのが、
「東岳大帝」すなわち「泰山府君」です。
泰山府君には様々な呼び名があり、
東岳大帝の尊称として、
「東岳天斉仁聖大帝」
「東岳天斉大生仁聖帝」など
とも呼ばれています。
仏教における閻魔大王と習合して、
冥府の戸籍を管理すると信じられて
いました。
※閻魔大王を天部衆と捉えた場合、
その眷族であるとする説もあります。
しかし、普通に考えて、眷族(部下)
(書記)ということは無いでしょうね。
現世と来世を管理し、現世で犯した罪は
玉皇上帝に逐一報告すると人々から
恐れられていました。
なんだか三尸(さんし)の虫みたいで、
スケールが小さく感じてしまいますが、
それを覆す考え方もあります。
「泰山府君、太一神(北極星)説」
というのがそれです。
漢の武帝が泰山で封の祭りを行った時、
その礼式が太一神の祭祀と
同じであったため、泰山府君は
太一神とも同一視されたのです。
なるほど北極星または北斗七星
だったら、安倍晴明が拝むに
ふさわしい。
気になる作法ですが、詳細は
分かりません……。
なにしろ宮廷祭祀ですので。
しかし、唱える呪文なら分かります。
「泰山府君冥道諸神等に謹んで申さく。
伏して願ふに、かの玄鑑を垂れて、
この丹祈に答へよ。
死籍を北宮において削り、
生名を南簡において記せよ。
年を延べて算を増し、
長く生きて久しく見んと謹んで申す。」
※玄艦……物事を先まで見通す心。
一例です。呪文(祝詞)というものは、
定型文がありながら、様々な
バリエーションで神に語りかけるので、
色々なものがあるのです。
この場合は泰山府君という高位の
神に語りかけるので、丁寧な
「お願い口調」になっていますが、
普段は「急急如律令」をよく使います。
耳にしたことがあると思います。
呪符にも書いてあります。
意味は「この主旨を心得て、急々に、
律令のごとくに行なえ」 ということです。
元々は漢代の公文書の最後に書いて
あった言葉で、転じて、道家や陰陽師
のまじないの言葉となりました。
あくまで言葉の最後、文末に来る
フレーズなので、何を急急に行う
のか、前段で示されていなければ
なりません。
話がそれました。
泰山府君祭は、非常に験が強く、
三井寺の僧の命を安倍晴明が
救った逸話が有名ですが、
間違ってはならないのは、
瀕死の老僧と弟子の命を助けた、
のであって、死者を蘇生させた、
のではないことです。
このように晴明以降、土御門家の
いわばお家芸となっていたのが、
この「泰山府君祭」なのです。