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鎮丸~天狗舞ふ~ ⑫
鎮丸、晴屋、翔子、翔子の父親の4人は夜の高尾山に来ていた。
夏の間、高尾山ではビヤガーデンが開かれる。人でごった返していた。
皆で一度、テーブルに座る。作戦会議だ。
鎮丸が「ここはこんなに人がいますが、薬王院は閉門しているでしょう。私と晴屋で忍び込みます。御主人と翔子さんはここで待っていて下さい。ビヤガーデンが閉まる前には戻ります。もし戻らない場合、我々のことは放ってお帰り下さい。」と言った。
すると翔子が「私も行く!」と言い出した。
父親が「やめなさい。若い女の子が。お二人のご迷惑になるだけだよ。」と諭す。
すると翔子は、「お父さん!これは私の問題なのよ!サロンの方々が骨を折って下さるのに…!」と言い募った。
「ね?!」と笑いながらこっそり二人にウインクする。
父親は黙っていたが、不承不承ながら「くれぐれもご迷惑にならないようにな。」と言った。
「やったー!」翔子は無邪気に喜んだ。
鎮丸は猿田彦神社の破魔矢を晴屋に渡し、「晴屋君、もしもの時は頼んだぞ。」と小声で言った。
四半刻後、3人は薬王院山門前にいた。
案の定、山門は閉まり、閂が掛かっている。かなり大きな閂だ。3人がかりでも動きそうにない。
鎮丸は一瞬、翔子の顔を見て、躊躇の色を見せたが、意を決して「二人とも後ろに下がって。」と言った。
「拾っ!」気合いを込めると閂が重い音を立てて静かに動いた。
「え!なにこれ?どうやったんですか!?」
翔子はキラキラとした瞳で質問した。
鎮丸は「ちょっとした手品みたいなもんです。タネも仕掛けもないですけどね。」とおどけて言った。
鎮丸、晴屋、翔子の順で境内に入って行く。
天狗の石像の前を通りかかったその時、石像の目が鈍く紫色に光った。
「けぇぇーい!」鋭い叫び声と共に鎮丸の背後をなにかが襲う。
鎮丸は咄嗟に前転し、躱した。
顔を上げた鎮丸と横に一緒に飛び退いた晴屋は、信じられないものを見た。
そこにあったのは、月明かりに照らし出された翔子の姿だった。
しかし先ほどとは明らかに様子が違う。目は紫色に爛爛と光り、右手からあろうことか気を発している。気は、手から刃のように迸っている。
「翔子さん?気を確かに!」鎮丸が呼びかけるが、翔子本人に意識は既にない。
男の声色で「ふっ…よくぞ躱した。そうでなくてはな。」と言った。
鎮丸はこの声に聞き覚えがあった。
「駒かっ!?」
翔子は何も答えずに中段から水平に薙いだ。
鎮丸は躱しながら「晴屋君!二手に分かれるぞ!君は本殿だ!」と言った。
(to be continued)