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鎮丸~怪蛇とをらふ~ ⑦

鎮丸は攻撃の手を緩めなかった。
「हांカーン!不動金縛り!」音叉を鳴らして戸黒に向ける。

戸黒は術に掛かったが、たじろぎもしない。
「ほう!それでどうするつもりだ?」
余裕の笑みを見せる。

「こうしてくれる!」鎮丸が言い、手印を組もうとした瞬間、戸黒が言った。

「子供が見てるぜ!?」

(は…?しまった!)
鎮丸は頭に血が上り、状況を見失っていた。白昼堂々、人が見ている前でこれ以上はまずい。

子供を危険に晒す訳にもいかない。

戸黒は鎮丸の念が弱ったのを見ると、自力で金縛りを解き、落ちたサングラスを拾った。

「くくく…お前、本当に馬鹿なオヤジだな!怒りで我を忘れるとは。実力を試しに来た意味もない!いいか、逢魔が時は、一人で出歩くなよ!次は死ぬと思え!」
戸黒は吐き捨てるように言うと悠然と自転車をこいで去った。

「侮れぬ奴!」鎮丸の息はもう上がっている。これ以上、続けても負けていたかもしれない。

昼前にようやく鎮丸は事務所に戻った。

「あら。埃だらけね。どうしたの?」葉猫が出迎える。

「ああ…」鎮丸は入り口の扉に身を持たせて言う。
「蛇を見つけたよ…。」

「蓉子さんに憑いていた蛇?どこにいたの?!」葉猫は脱がせた上着の埃を払いながら、驚いて聞いた。

「中央公園だよ。」椅子に腰掛けながら、鎮丸はやっとのことで言った。

「そんな近くに?どうして?!」葉猫は更に驚いた。

一息ついて鎮丸は「あっちから挨拶に来たのさ。」とだけ言った。

葉猫はコーヒーを差し出しながら、「その様子じゃ午後の施術は無理ね。ここで休んでていいわよ。」と言った。

「……そういう訳にはいかんよ。なんのこれしき。」
鎮丸が音叉で自分の体に憑いた瘴気を祓いながら答える。続いて「とほかみえみため」と唱え、「息吹長世」をした。特殊な呼吸法である。

「その様子だと太刀打ちできなかったのね?お願いだからここに居てちょうだい。」
そう言うと葉猫は一人でサロンへ行ってしまった。

鎮丸はそのまま机でまどろんだ。

暫くすると事務所のドアが勝手に開いた。しかし、誰も入って来ない。声が聞こえて来る。男の声だ。
(旦那、しっかりして下さいよ!)

もう一つの声も聞こえる。
(だらしないなぁ!これが我らが主かよ!)

(俺らを使えばちょちょいのちょいなのにな!あんな奴!)

(この旦那はまだ完全に目覚めてねぇのさ!)

(あーあ、そんなんじゃ駄目だ。俺らで取って喰っちまおうぜ!)

物騒なことを言っている。

「式よ。妖狐退治の手助け大義であった。」
鎮丸が寝ながら静かに言う。

(げっ!起きてやがる!誰だ、『目覚めてない』なんて言ったのは!)

(うわっ!ほんとだ。やっぱりこの旦那、只者じゃねぇや!黙って従っとこう!!)

それきり声は聞こえなくなった。

(to be continued)

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