鎮丸~天狗舞ふ~ ⑪
鎮丸は話を聞きながら考えていた。
(別人になる?憑依か?依り坐しか?)
しかし、それが天狗だとしたら、ただの憑き物ではない。事は厄介だ。なにしろ瘴気を感じる天狗なのだ。
鎮丸は高尾山で邂逅した、駒と僧正を心に浮かべた。
翔子は身も心も支配されてしまうだろう。
鎮丸は思案した。
何が憑いているのか確かめないと手の打ちようがない。しかし…翔子の身を危険に晒す訳にもいかない。
しばらく逡巡した後、霊査を試みた。解決方法はこれしかない。少々危険だが…。
その時、ガレージに車が入ってくる音がした。
父親が帰って来た。四角い黒縁眼鏡をかけた実直そうなサラリーマンだ。
「おや?お客さんかい?」
「お邪魔しております。」3人が頭を下げる。
鎮丸が立ち上がって、「よろしくお願いします」と名刺を渡した。
その脇で、舞子が「翔子がおかしくなった時にお世話になった方々よ。新宿の…。」と説明する。
「あぁ!その節はお世話になりました。ようこそ!今日は…」と言いかけ「翔子、また具合悪くなったのか?」と舞子に質問した。
「いえ、御主人、単なるアフターサービスです。ちょっと気になることがありましてね。」と鎮丸が口を挟む。
「気になること?一体どんなことですか?」父親は興味深そうに聞いた。
どうやら翔子の神事好きは父親ゆずりらしい。母親は分かっていながら、神事から目を逸らしている。対照的に父親は無邪気な好奇心を向けるタイプのようだ。
葉猫が「娘さんのご不調は、血筋に関わるもののようなんです。奥様から家系に関することをお伺いしたばかりです。」と説明した。
父親は「うーん…代々山伏だったことと何か関係があるんですかね?」と質問した。
鎮丸が「お嬢さんが体調を崩したのは、ご家族で高尾山に行った翌日でしたよね。我々はそのことと何か関係があるのではないかと思うのです。」と言った。
父親は「山伏の家系、高尾山。確かに符合していますね。」と答える。
続けて「何の気なしにハイキングや薬王院参拝に行っていたが、危険なことだったのかな?」と独りごちた。
鎮丸は「そこですよ!娘さんがこれ以上苦しまないようにするためには、そこをはっきりさせないといけないんです。」と主張した。
「どうでしょう、御主人、まだそんなに夜も更けていない。これから高尾山に皆で行って、我々がこちらの家系と高尾山の繋がりを解き明かすというのは。」と鎮丸が提案する。
「そんなことができるんですか?」父親はしばらく思案した後、何事かを言い掛けたが、
「さんせーい!」部屋から出て来た翔子の声に遮られた。
「お父さん!車出してよ。なんだかワクワク
して来た!」とはしゃいでいる。
「なんだ、お前まだ着替えてもいないじゃないか。」父親が目を丸くする。
「夜の高尾山なんて初めて!」翔子が目を輝かせる。
晴屋がこれから起こるであろうことを予感したのか、一層真剣な表情になっている。
「あなた、私は留守番しています。」と舞子が夫に言った。
「では、私も失礼でなければ、奥様とお話して、ここで待っています。」と葉猫が続けた。
(to be continued)