![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/106597510/rectangle_large_type_2_b0e3144e71c7ba28813b02832b2ad886.png?width=1200)
鎮丸~天狗舞ふ~ ②
翔子は気絶したまま、うわごとを言っている。「駄目だ!そこに入るな!そこは我らが神聖なる場所!」男性の声色である。
母親の舞子は少しぎょっとした表情になり、娘を見つめる。葉猫はそれを見逃さなかった。
鎮丸は背中の肩甲骨の下がムズムズした。久しぶりの感覚だ。まれにこの感覚がある。一度師匠に相談したことがあるが、原因は教えてはもらえなかった。
鎮丸は翔子の頭の上をそっと二本指で押さえ、気を注入した。
巫病は禅病と同じく、頭に気が上がったまま戻らない状態になるものだ。頭に上がってしまった気を臍下丹田に戻してやらなければならない。
しばらくそうしていると翔子は気が付いた。
「うーん…あれ?お母さん?ここどこ?」
舞子は「もう大丈夫よ。安心して。」と優しく言った。
すると翔子は「お母さん、あのね。私なんだか背中がムズムズする…」と言う。
鎮丸は目を見張った。
(先程感じた瘴気、それに自分と翔子の背中の違和感のシンクロ、これは厄介なことになりそうだ。)
原因を霊査するが答えは出ない。
また結界を張られているのだろうか。
葉猫は翔子に「こういったものはね。ある程度自分でコントロール出来なきゃだめなのよ。」と言い、息吹長世のやり方を教えた。
翔子は真似をしながら、「ふーん。なんだかアニメの『全集中の呼吸』みたいね!」と言った。
翔子は冗談のつもりだったが、サロンの人間は誰も笑わない。息吹長世を練習中の晴屋だけが、「ふーん…」と感心したように言う。
舞子が、「さ、もう帰りましょう。皆さんありがとうございました。お支払いを。」とそそくさと促す。
鎮丸は舞子の様子を見ていた。
(母親は何か隠している。)直感的に思った。
葉猫が「お大事に。いつでも具合が悪くなったら来て下さい。翔子さん、息吹長世、ちゃんとやってね。」と言う。
鎮丸は背中を擦りながら、
「あー、お母様もまた来て下さい。」
と言った。
舞子は俯き加減に「ありがとうございます。」と言いながら、娘の背中を押すようにして出て行った。
二人の後ろ姿に晴屋が、
「ありがとうございましたー。」と深々と頭を下げる。
鎮丸が、葉猫に「あのお袋さん、以前一度『外した』よな?」と聞く。
「そうね。カルテが残っていたわ。」と葉猫が鎮丸にカルテを手渡す。
鎮丸はそれを見ながら、「当時、わしらに隠していたことが何かあったようだな。」と言った。
鎮丸は晴屋に向き直り、「晴屋君、明日は二人で出張だ!」と告げた。
「え?明日?どこか遠くですか?」と晴屋は聞く。
鎮丸は答えた。
「なぁに、ちょっとしたハイキングさ。」
(to be continued)