鎮丸~怪蛇とをらふ~ ⑥
鎮丸は蛇の行方を霊査した。分からない。全く視えないのだ。
一つだけ分かったのは、「新宿中央公園」。
このキーワードだった。
鎮丸は中央公園を調べることにした。
「社長、ちょっと出かけて来る。後、頼むよ。」幸い午前中に予約は入っていない。
中央公園は以前はホームレスがたくさんいたが、今は影も形も見えない。
鎮丸は、ホームレス達がちゃんと福祉の恩恵にあずかれたか、生活保護を受けられたか心配した。
特に猫を沢山飼っていた男性。鎮丸は一度だけ話をしたことがあるが、猫達はどうしたろう?
そんなことを考えながら、公園に着いた。
平日。人通りはそれなりにある。
見回すが特に怪しい人物もいない。
鎮丸は自分が警官か探偵にでもなったような気がした。
「また、こんな事やってんのか。癒さなきゃいけない人が沢山いるというのに…。」
軽く溜息をつく。
鎮丸は舗道から公園内を見ている。平和な風景がそこにはあった。
その時、向こうから黒ずくめの男性が自転車をこいで来るのが見えた。
(あぁ、虹子さん自転車によく乗ると言っていたな。)
鎮丸が考えている間、男はスピードを落とすことなくこちらに向かって来る。
いや、むしろスピードは上がっている。
「危ない!」柵から公園側へ転がり落ちた。鎮丸はもう若くはない。
「痛てて!…危ないだろう!」鎮丸が大声を出すと、男はドリフトをして自転車を止めた。
ヘルメットの下のスポーツサングラスが光る。黒いTシャツから褐色の引き締まった腕が見えている。太股が丸太のように太く、足首に向かって獣の脚のように締まっている。
男はサングラス越しに鎮丸をじっと見つめた後、口を開いた。
「ホームレスがどうしたって?甘ぇんだよ!おめえはよ!」
「なに?」心を読まれている。
「おまえ…誰だ?」鎮丸が尋ねる。
「ふん、そんなことも分からねぇのか?『蛇』だよ!俺が取り憑いてるこいつは、戸黒という名らしいがな!」
やはりそうか。待っていた甲斐があった。
「待っていた、だぁ?ここで偶然会ったとでも思ってんのか?俺はお前の動きを霊査していたんだよ!」
「霊査…なるほど、わしの動きは筒抜けだったという訳だ。ところで、お前を倒す前に聞いておきたいことがある。」鎮丸は蛇を見据えて続ける。
「俺を倒すだぁ?」戸黒は激昂した。
「おまえは蓉子とともに元いた所に帰り、なめら筋から力を得た。だがなぜ蓉子の中でまた眠った?」
「くくっ!満更馬鹿ではないらしいな。冥土の土産だ。教えてやろう。蓉子はな、よりによって龍神に嫁いだ。俺達『蛇』は、龍神には逆らえない。しかも神前で祝言を挙げやがった!」戸黒は言った。
「それで蓉子から逃げ出したのか?」
「逃げた?笑わせるな!次の依り代を探すことにしただけだ。」戸黒が不敵に笑う。
「次の依り代?虹子か!」
鎮丸の背に迦楼羅炎が立ち上る。
「ふっ、そうだ。この体を使ってな!」戸黒がサングラスを指で鼻の上に持ち上げる。
「हांカーン!」鎮丸は言うと右手の労宮から気を発した。
戸黒は事もなげに避けた。
気はサングラスを弾き飛ばした。
そこには爛爛と光る、縦に筋の入った二つの黄色い瞳があった。
(to be continued)