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ヤクルトファンのおかんのこと。
僕が小学生の時、家にはヤクルト専用の冷蔵庫があった。
といっても別にヤクルトを買いだめしていたわけではなく、おかんがヤクルトレディだったので”商品のストック”を保冷するためのものである。
(僕が幼少期を過ごした岡山の家の近くに営業所が無く、1週間分の商品をトラックが我が家に運んで来ていた。)
だからなのかわからないが、僕が「小学校の入学祝いに何が欲しいか?」と聞かれ「グローブとバット」と答えると、数日後に渡されたプレゼントには、おまけで「YS」マーク付きの青い野球帽がついてきた。
(正確に言うと、なぜかさらにキャッチャーミットもついてきた。)
つまり僕をヤクルトファンの世界に引きづり込んだのは、おかんなのである。
昨日、そのおかんを連れて病院に行った。数年前から膝の調子が悪く、人工関節を入れる手術をするので、家族として説明を聞きに行ったのだ。
大きな大学病院の殺風景な診察室で、手術や術後のリハビリについてあれこれと先生から話を聞く。
「金属を体に入れて、余計に痛くなるとか、そういうことはないのでしょうか?」
おかんも70代。立派な後期高齢者である。大きな手術や辛いリハビリのことが息子としては心配なのであるが、先生が答える前に、おかんが食い気味にこう言った。
「大丈夫よ、ボルト入れたことがあるもの。」
いやいや、骨を切って入れる人工関節と、折れた骨を繋ぎ合わせるだけのボルトと一緒にすんなよ…と思うのだが、本人はケロリとしている。
そういえば、おかんが骨折したのは、雨の日に子供だった僕を自転車の後部座席に乗せたままスッ転んだ時だった。
岡山に住んでいたころの街の記憶は、多くがおかんの自転車の後部座席から見た光景だ。
岡山城を横目に急な坂道を下り、路面電車の線路を越えていく。
嫌だったピアノ教室も、大好きだったテレビ番組"西部警察"の地方ロケのイベントも、みんなおかんの自転車に乗せられて行った。
あの頃、免許を持たないおかんは、重いヤクルトを配達するのも、僕をどこかに連れていくのも全て自転車だった。
あれから幾星霜。必死に頑張ってきた膝がいよいよ寿命を迎えたのだ。
だから、今では僕が自分の車におかんを乗せて出かけている。
「ボルト」の一言で昔のことを色々思い出してセンチメンタルに浸る僕の気持ちなど知る由もないおかんを乗せて、病院を出た車は外堀通りを神宮外苑に向かう。
病院帰りにおかんを神宮球場に連れて行ったのだ。
疲れているかと思ったが「行くか?」と聞いたら、「もちろん」と来たもんだ。
膝が悪いとはいえ、ボケることも大病を患うこともなく元気でいてくれるのは、「スワローズ」という親子の共通項があるからかもしれないな…と本気で考えている。
(毎晩のようにナイター中継を観て選手の名前や試合展開を追いかけるのは、けっこう脳に刺激になるんじゃないだろうか。)
人並み以上におかんに迷惑や心配をかけてきた僕のせめてもの親孝行が、年に数回の野球観戦なのだ。
なので、もしあなたが神宮球場で坂口か原樹理のユニフォームを着たおばちゃん(おばあちゃんと言うと本人が怒るので…)が外野席の階段を手すりにつかまってゆっくり歩いていたら、ヤクルトファンの大先輩ですので、どうか温かい目で見守ってあげてほしいな…と思うのです。
あと、東京ヤクルトスワローズの選手の皆様におかれましては、たまにはおかんに勝ち試合を見せてあげてほしい…と、これまた厚かましいのは承知していますが、そこは何卒、どうかひとつ…と親孝行の材料を他人に押し付けて球場を後にしたのでした。
(おかん観戦試合はすこぶる勝率が悪いのです…)
5/24 神宮球場 対中日戦[負]6-1
■一言戦評■
エラーをカバーできないチーム全体の状態の悪さ。