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5歳息子の保育参観で、母としての自信が湧いた。

「ママ、ほんとに、ほいくさんかんくるの?」

ヨウは半年くらい前からずっと、私が保育参観へ来る日を楽しみにしてくれていた。

保育参観は、1年の中でたった1度きり、保育園での息子の姿を見られる特別な機会だ。私はあえて、次男ヨウの5歳の誕生日の前日に、参観日を予約してあった。

もちろん私も楽しみだったけど、前後の仕事を調整し、当日はほぼ丸一日仕事を休まなければいけない。やるべきアレコレに追われる毎日の中で参加するのは、ちょっぴり大変なことでもあった。

それでも私は保育参観に行くと、「ああ行って良かったなぁ」としみじみ思うことが多い。昨日はスゴイ体操の先生の話を書いたけれど、今回は同じ参観の中で、次男のヨウとの関係に少し自信が湧いた話を書いてみたい。


「はーい、おれのママですよー」

教室に入るなり、ヨウはとっても嬉しそうにニコニコしながら、私の手を引いて友達みんなに紹介してくれた。

ちょうど、朝のご挨拶がはじまるタイミングだった。私は22人の園児たちに混じって、前のほうの、小さな椅子に案内されて座った。私は大人の中では小柄なほうだけど、4歳や5歳の中に入ればそりゃ大きい。背後からみんなの視線をビシバシ感じる。

「ママ。このあと、ママがごあいさつするからね」

ヨウは私の耳に顔を近づけて、内緒話をするように自分の口元を手で隠しながら、こしょこしょ声で教えてくれた。家では、いちばん年下のヨウ。いつもは私や夫や兄に「教えられる」側だけど、この日はヨウが私を誘導してくれているのを頼もしく感じた。
ふだんは怪獣のように大きな声を出して注意されてばかりのヨウが、いちいち小さな声で話しかけてくるのも可笑しく、可愛らしかった。

「きょうは、先生のほかに、おとながひとりいますね。だれですかー?」

先生の声がけで、みんなが口々にいう。

「ヨウちゃんのおかあさん!」

「そうです、ヨウちゃんのお母さんが来てくれました。さあ、ヨウちゃんのお母さん、前に出てきてください」

ひいっ、ついにきた。

私はちょっとドキドキしながら、教室の前に行った。子どもたちの好奇心いっぱいのキラキラした44個の目ん玉が、いっせいにこちらに向けられる。3人の担任の先生の、やさしく見守る視線もあった。

教室の前で、みんなに向かって喋るというのが、久しぶりで懐かしい。先生はさっきまでふつうに喋っていたけれど、こんな光景の中で緊張もせずにスラスラ話せるなんてすごいなあ。私は両手をキュッと、前でそろえて立った。

「お母さん、まずは名前を教えてもらえますか?」

わっ、名前まで聞かれるんだ。

「みなさん、おはようございます。
私の名前は、こ も り や ゆ みです」

はじめて手話で人に何かを伝えるときのように。日本語を習いたての外国人に話しかけるように。私は自分の名前をできるだけゆっくり、はっきり発音した。みんなの顔を見渡しながら。

ただ自分の名前を言うだけなのに、なんて緊張するんだろう!

大人の前での面接や自己紹介よりも、なんだか自分の名前を言うのが恥ずかしくてこそばゆい。このとき気がついたけれど、息子の前で自己紹介するのは初めてだった。

この自分の緊張モードを少し打ち破りたくて、私はすぐに続ける。

「みんな私のことを『コモちゃん』って呼んでくれます。みなさんもぜひ、呼んでくださーい」

頭の中で「おかあさんといっしょ」のお姉さんの元気で明るい声色を思い浮かべながら、なんとか笑顔で言ってみた。もしかしたら緊張で、すこし顔が引きつっているかもしれない。でも子どもたちも先生も、「あはは」と笑ってくれた。ほっ、なんとか私の緊張も少し和らいだ。

7歳長男の仲の良い友達は、私のことを「コモちゃん」と呼んでくれる。「ヨウちゃんのママ」じゃなくて「コモちゃん」の方が呼びやすいし、子供たちとの距離がすこし近くなることを知っていた。

みんなそれぞれの座る場所から口々に、「コモちゃん?」「コモチャーン」と発音をためし、楽しんでくれた。

その流れで先生も「コモちゃんに質問がある人〜?」とみんなに聞く。ええっ、私に質問がある人なんているかなぁ。誰からも手が挙がらなかったらどうしよう。でもそんな心配は、一気に吹き飛ぶことになる。

「はーーーーーい!」
「はいはいはーーいっ!!」
「はいはいはいはいはいはい!!」

そこにいたほぼ全員の子たちが、いっせいに手を挙げてくれたのだ。こんな絵に描いたような積極的なクラスが、今の日本に存在するんだ!私の横に並んで立っていたヨウが、その中から3人のお友達を指さし、質問してもらった。

「好きなあそびは、なんですか?」
「ええっと・・遊び、遊びかぁ・・・・キャンプかなぁ」
思ったよりも真剣に考えて、答えようとする自分がちょっと可笑しい。

「好きな恐竜は、なんですか」
「うーん、背中にトゲトゲのある、あれ、、、ステゴサウルス!」

「好きなくるまは?」
「くるま・・くるま・・・・・空飛ぶ車!」

私が答えを言うたびに、ざわざわ、わーきゃーと、いちいち反応してくれた子どもたち。こんな誰の特にもならないだろう質問に答えて、喜んでもらえるとは!人気ユーチューバーの「100の質問」企画みたいだ。たった4歳や5歳の子どもでも、興味を持って質問してもらえるなんて、嬉しいなぁ。

「コモちゃん、見てみてー」
「コモちゃん、いっしょにあそぼう?」

そのあとヨウのクラスの子達は、新参者である私をすぐに仲間に入れ、たくさん話しかけにきてくれた。
ヨウも私が友達と遊ぶ様子を、ときに嬉しそうに眺めたり、安心しているような感じで横で見ながら遊んでいる。

いっしょに給食を食べ、帰る頃になるとヨウは、「おれのママとお話ししたいひとー?」と、みんなに私の手を引きながら聞き回ってくれた。たぶん、3問しか答えられなかった質問の続きをしたかったんだろう。

私はそんなヨウの様子を見て、少しだけホッとしたのだ。

というのも、ヨウはどちらかと言えばパパっ子で、長男のモリが私にべったりなぶん、ヨウは私のことは好きじゃないのかなぁと思うことがあった。過去いちばん悩んだ日のことは、noteにも書いたことがある。

あれから私はできる限り、ヨウと2人の時間をたくさん取ったり、ヨウの好きなところをたくさん伝えるようにした。

そして今日。私が参観に来ただけで、ヨウはこんなにも嬉しそうに、誇らしそうにしてくれるなんて!大好きな動物園に連れて行った時も、遊園地でも、こんなに満足げな顔を見たことがなかった。

私は忙しい仕事の合間をぬって、保育参観に「参加してあげている」つもりだった。でも私は今日来てみて、私の方が与えられることが多かったことに気づいたのだ。ヨウが私の存在にこんなにも喜んでくれたり、ヨウの友達も大歓迎してくれたり。この経験は今までどこか自信のなかった「母としての自分」に、少しだけ自信をくれた気がするのだ。

ひとりでてきぱき着替えをしたり、洋服を畳んだり、食べたものを片付けたりと、ヨウが家ではなかなか見られない成長の姿を見せてくれたのも嬉しかった。集団生活の中でしかみられない、息子の姿がある。やっぱり来てよかった。

「ママ、きょう、いっしょにあそんだね」
「ママ、なわとびのとき『やだー』って先生に言ったね」
晩ごはんのときも、ヨウは参観のことを思い出しながら、ケラケラと笑っていた。

あと数年後には、「ママと一緒に歩きたくない、友達に見られたくない」という時期がくるんだろう。

私は今だけのヨウとの時間を、今のうちにもっと過ごしたいと思った。保育園の参観も、残すところあと年長さんの1回のみ。来年はどんな姿を見せてくれるだろうか。

楽しみで、楽しみで、しかたない私なのだ。

誕生日は、リクエストされた蟹クリームコロッケを作った。
少食のヨウが、4個も食べてくれた!

小森谷 友美
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