気持ちが伝わる「謝りメール」の書きかた。
夫がある晩、がっかりしたような顔で聞いてきました。
「『誠に遺憾です』とメールに書きたいんだけど・・もっといい言い回しないかな?」
どうやら夫が制作した広告からの売り上げが、あまり良くなかったそう。その謝罪の気持ちを、クライアントに伝えたいということなのです。
私たち広告制作者にとって、それはもっとも悔やまれる状況です。広告に期待をしてお金を出し意思決定をするクライアントは、さらに残念だったことでしょう。
私は「誠に遺憾です」の代案として、「誠に申し訳ない」「弁解の余地がない」など、いくつか頭の中で思い巡らせてみます。
しかし、うーーん、どうもしっくり来ません。
たしかにビジネスマンっぽく大人っぽい言葉なのですが、政治家が悪いことをした時に、取り繕ったように使う定型文のよう。夫の心からの残念な気持ちが伝わらないように思いました。
さらにそう謝るだけでは、なんだかもうこれ以上取るべき方法がないような、お手上げ状態である感じがします。聞けば夫はまだまだそのクライアントに対し、提案したかったことがあった様子です。
そこで私は、こんなふうに書いてみたらどう?と言ってみました。
「期待したような結果にならず、とても悔しいです。
次回チャンスがいただけるとしたら、●●の目的を実現するために、〇〇という施策を実践したいと思います」
「誠に遺憾です」を「とても悔しいです」にしました。定型文は自分の言葉に近づけたほうが心からの思いが伝わるように思いました。
そして謝罪の言葉以上に、今回の経験を生かした、成功へのアイデアを盛りこんでもらいました。
私がクライアントだったら、「失敗して誠に遺憾です」とただ定型文に当てはめて謝罪されるより、次の戦略を聞いたほうが得るものがありそうです。謝罪文が”前向きな提案”に変わると思いました。
数時間後、そのメールへのクライアントからの返信は、とても温かいものだったそうです。ぜひ次の広告の戦略も一緒に練ってほしい、そのような内容が書かれていたそう。
この返信に夫は心底ホッとしたような様子でした。
なぜ俳優の不倫謝罪でイラっとするのか?
よく俳優が不倫した時に、
「全ては私の不徳の致すところでございます」
と言いますよね。これも定型文のひとつだと思います。私はあれを聞くと、不倫をしたこと以上に、その答え方にちょっとイラっとしてしまいます(笑)それはなぜだろうと考えると、2つの理由があると思いました。
ひとつは、逃げている気がするから。
記者からの全ての質問に対し、自分の言葉で伝えることを避け、その言葉を言って逃れようとしている気がしてしまいます。「とりあえずこの言葉で返しておけばいい」という気持ちが透けて見え、卑怯な感じがするからです。もちろん記者の質問がしつこく、本当に逃げたい気持ちがするのだと思いますが。
ふたつめは、反省の気持ちが伝わらないから。
「不徳の致すところで〜」と言うのは、少なからず、自分に否があることを認めているセリフです。しかしこの言葉からは、悪いことをして反省する気持ちがなんだか伝わりません。
謝罪には「おまけ」をつける
不倫会見としては、三遊亭円楽さんの会見が「対応が上手かった」と言われています。円楽さんはその時の気持ちを聞かれ、こう答えました。
「今回の騒動とかけまして、東京湾を出ていった船と解きます。
(その心は)“コウカイ”の真っ最中です」
「反省しています」としんみり語っても、事実を否定しても、嘘くさい。
そこで正々堂々と事実を認め、自分の頭をひねり、自分の言葉を使って返す。その姿勢に人は納得したのではないかなと思います。
しかも「笑い」というおまけ付き。
私たちは、笑わせてくれる人が大好きです。この「笑い」は先ほどの「次回のアイデア提案」と同じで、マイナスから0への謝罪に、プラスの価値を生み出す効果があります。
自分の言葉は「オーダーメイドの服」
とはいえ、私も仕事上のメールでは、
「お世話になっております」
「ご確認いただけますと幸いです」
など定型文をよく使います。これらはスピーディに、円滑に事務連絡を進めたい時にはとても便利です。
しかし自分の気持ち伝達が主目的のメール、エッセイでは、定型文はなるべく使わないほうが相手に伝わりやすくなります。
定型文が既製の服だとしたら、自分の言葉で書いた文章はオーダーメイドの服。
自分の気持ちにぴったりの表現をつねに考えるくせをつけると、エッセイでも気持ちを言葉にしやすくなると思います。
そんなふうに考えると、日頃の謝りかたひとつでも、文章を書く練習ができるかもしれません。よかったら実践してみてくださいね。
小森谷 友美
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