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政策決定過程論#1 住むなら、至れり尽くせりの国がいい?困ったときだけ助けてくれる自由な国がいい?

自分が住みたい国ってどんなのだろうか。

いろんな場合を想定して手厚くサポートしてくれる体制がある国がいいか、最低限の困ったことだけ助けてくれてあとは自由で、義務も少ない国がいいか。あまりイメージつかないなら、恋人に当てはめてみてほしい。ずっと一緒に暮らしていく相手が、あれこれ面倒を見てくれる人がいいか、お互いに好きなことをするあっさりした人がいいか。
国は様々な仕組みや制度をもった複雑なものだけど、性格のようなものだと感じる。「人生、夢を求めて自由に生きたいよね」というアメリカ、「いろんなリスクを考えて備えておくと安心で幸せだよね」というスウェーデン。

では、そんな性格の違い(制度や仕組みの違い)はどうして生まれるんだろうか。そんなことを学んでいく、政策決定過程論の授業の時間です。
第1回はガイダンス。講義の概要をまとめていきます。

政府の役割を小さくする?国のあり方を変える3つの要因

たくさんあるんだけど、初回は3つの要因を紹介してくれた。
(1)グローバル化と収斂論
(2)ポスト工業化
(3)移民の増加
一つずつ見ていこう。

(1)グローバル化と収斂論

まず、なぜ経済がグローバル化したんだろうか。
・ブレトンウッズ体制の崩壊。お金を国を超えて自由に動かせる
・海外へ直接投資が増えた。海外に工場などをつくる
・生産の国際的な分業。生産ネットワークが世界に広がる
ざっくりいうとこんな理由がある。

一般的に経済のグローバル化が進むと、国家の役割は小さくなると言われている。
国家は財源を維持するためにも、企業を自分の国に留めたい、世界から集めたいという思いがある。そのために財政措置や優遇政策をとったり、民営化、自由市場、規制緩和なども進めたりする。すると政府は、経済(や企業)を軸とした政策をとりやすくなるし、企業からの圧力にさらされるようになる。「もっと規制緩和を!」という声にならって経済の競争を第一目標においた国家へと近づいてゆき、国家の役割が小さくなっていく。
その結果、労働環境や社会福祉などが最低水準へ向かっていくことを「底辺への競争」というそうで、自由貿易やグローバリゼーションの問題として指摘されている。

(2)ポスト工業化

ポスト工業化とは、サービス業が中心の産業構造のことだ。工業化の時代だと技術革新で生産性が上がるが、ポスト工業化はそうではない。「どんな素材や構造にしたら学校校舎を建てるコストを下げられるか」だと割とわかりやすいが、「どうやったら子供たちが楽しく生産的に学べる授業をつくれるか」ってとても難しい。

単純に見るとサービス業が中心になって経済成長が鈍る→財政厳しくなる→公共サービス減るという影響が起こる。人口の高齢化も構造変容に影響を与える。
まあ、自分の活動分野であるまちづくりやファシリテーションもサービス業に当てはまるのだけど、「どうして生産性を上げたいんだっけ?」と問いなおすことから始めるしそれが醍醐味だとは思っている。

(3)移民の増加

移民と福祉国家はどんな関係があるんだろうか?
移民をたくさん受け入れて多様性が高まると国の福祉レベルが下がるという論がある。
移民が増えると、言語や文化などいろんな面で社会の多様性が高まる。福祉国家とはとはそもそも、同質の、似た者同士の国民がお互いの生活を支える仕組みなのだが、多様性が高まると国民の同質性が下がり、お互いを信頼しづらくなる。その結果福祉国家は支持されなくなり、福祉サービスは小さくなっていく。このように、寛大な移民制度と寛大な福祉国家は対立することを「進歩主義のジレンマ」という。

政府の関わりを長い目で見てみると

では、政府の関わりがどんな風に変化していったのか、時間軸でみていく。本当に政府の役割は小さくなっているんだろうか?

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意外なことに、GDPに占める一般政府支出の割合を見てみると、ほぼ横ばいになっている。(1990-2015)
さらに今のコロナ禍は、各国はものすごい額の財政支出を行っている。国はどんどんお金を出している状態なのだ。GDPのうち、社会支出に充てる割合も実は増えている。

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あれ?グローバル化もポスト工業化も、国家の役割を小さくするんじゃなかったっけ?
どんな影響を与えるのかもうちょっと詳しく見ていこう

縮小しない国家

実はグローバル化もポスト工業化も、国家の役割を小さくも大きくもする圧力としても働くのだ。

小さく:「税金下げよう」「規制を緩くしよう」「財政がやばい、経済伸びない」
大きく:「格差を小さくしないと!再分配しよう」「インフラ整えよう」「雇用が不安定な人が増えたからなんとかしないと」

いくら労働コストが安くてもインフラが整ってなかったり、治安が悪かったり、格差を小さくする仕組みがなかったり、人への投資(教育や職業訓練)が弱かったりすると、企業は海外進出を踏みとどまる。インフラ整備や教育は(もともと住む人々の快適さのためだけでなく)海外企業を誘致するためにもなるので、整備しようという政策に結びつく。
また、「高齢、疾病、失業」という社会にとっての三大リスクに加えて新たなリスクも生まれつつある。福祉国家は、家庭内で女性がケアをすることを前提としていたのだが、働いていても貧困で共働き世帯が増えたり(不安定雇用)、独居老人が増えるなど家族形態が変わったりすると、家庭でケアをする人がいなくなる。これまでの福祉サービスを維持できず、別の方法で国家はなんとかしないといけなくなる。

国家の役割は政治過程で決まる

では、国家が小さくなるか大きくなるか、何で決まるかというと、国内の政治過程で決まる。
だから、国内の政治過程を授業でこれから学んでいくわけだ。「各国の政策を決定づけるのは、資本主義というより民主主義だ」という。(わくわくさせるガイダンス。先生うまい)

国家の役割の、拡大と縮小の運命を分けるもの。この日は3つ紹介してくれた。

政治のプレーヤーは誰か:党派性
力や資源を持つ人が味方につくか敵になるか
 権力資源(特に労働組合や使用者団体の影響力)
どんな思想や仕組みに慣れ親しんでいたか:経路依存


(補足)経路依存について

政策は、すでにある様々な制度を前提として、その枠内で変えたりつくったりする。既存の制度の影響力が大きいということだ。
個人で考えてみても、例えば自分がバスケのサークルに入りたくて、せっかくだから友達も誘って一緒に入りたいとき。運動経験も興味もあんまりない人を誘っても、「走るのしんどいじゃん。それよりも、本を読んでいたい」となるし、「大学生のうちは、授業以外の時間はバイトに費やして旅行に行きまくりたいんだよね」という考え方の人もいる。何か決断するのに、これまでの経験やそれによってつくられた考え方のくせが影響するということだ。

一旦制度をつくると、それによって恩恵を受けていた人は反対するし、制度をつくるための合意形成は大変なもの。作ったら作ったで、それに慣れたり学んだりするのも大変だ。だからすでにどんな制度があるのかは、政策決定に大きく影響するということだ。

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と、ここまでが第1回の内容。ガイダンスだったので、福祉国家に影響を与える要因も各要因の説明もごく一部だ。気になるトピックがたくさん見つかったので、これからが楽しみ。
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