地域を見る目を豊かにしてくれる一棟貸しの京町家。小さな京都をたくさん見つけられる宿「KYOMACHIYA-SUITE RIKYU」編
なかなか旅行に出かけにくいご時世だからこそ、自分が旅に求めるものは何か、本当に生きたいところはどんなところか、見つめ直す機会になったように思います。では、観光地に住む人や、観光に携わる人にとっての、観光/宿泊施設とはどんな意味を持つのでしょうか。
そこで、京町家のお宿オーナーにインタビューをし、考察を加えてまとめることにしました。京町家は、建てられて何百年もたつ歴史が、オーナーによって編集され、地域や建物の価値が高まるように「リノベーション」という過程を経てお宿として演出されています。まるで「縮小版の京都」ともいえる存在。
この記事では、泊まりたくなる&学べる観光メディアを目指して、京町家一棟貸しのお宿と地域のことを紹介していきます。
今回のお宿は、「KYOMACHIYA-SUITE RIKYU」
清水寺と八坂神社の間にある、立地も中身もプレミアムなお宿です。
http://kyomachiya-suite-rikyu.com/about_rikyu/
「京都が好きすぎて、京都癖なんです。」
様々な形で観光に携わって来られたオーナーの西澤さんが、宿と観光に込める京都愛とは。
Storyー開業の経緯と、お宿のこと
「泊まる」という特別感
西澤さんが宿への憧れの気持ちを抱いたていたのは学生時代から。過去楽しかった思い出といえば旅行が真っ先に思い浮かび、旅行の中でも宿泊が特別なわくわくする体験だったそうです。
そこで、いろんな宿泊施設と、観光という業界について知りたいと思い、旅行会社に就職されました。旅行者とたくさんコミュニケーションを取れるゲストハウスを運営したいと思うようになり、退職されてから物件を探し始めます。
ゲストハウスにぴったりな物件がなかったことと、西澤さんの祖母が亡くなって数年間、そのお家が空き家になっていたことが重なり、そこを一棟貸しの宿にしようと決心されます。一棟貸しでもコミュニケーションのとれる宿にしようと考えを変えて、2016年に「KYOMACHIYA-SUITE RIKYU」が誕生しました。
「一棟貸しというと、会わずに鍵を渡すイメージだったんですが、しっかりとチェックインのときにお会いして、お客様とコミュニケーションを取って、お客様におもてなしをすることでコミュニケーションを取ったらいい。そういう宿をつくろうと思いました」
開業の時点で、町家や一棟貸しに対してあった固定観念を次々と覆しているのが分かります。コミュニケーションが豊かなこと、おしゃれで明るいデザインであることなど。
歩く人にとっても京都らしさや京町家の良さを感じてもらいたくて、外観は出格子を使った現代風のデザインになっています。
中に入るとダイニングになっていて、ソファに座ってゆっくりチェックインできます。ソファからは奥に広がる和室と坪庭が眺められ、天井は吹き抜けでとても解放感があります。
Made in Kyoto, 100%
さて、すごいのはここから。アメニティ、作品、寝具、すべてに至るまで京都の良質なブランドのものでそろえられています。「これはどこのかな?」と注意してみれば見るほど、京都の素晴らしい品物たちに出会えます。
例えばベッドは高級老舗寝具店のイワタさん。パジャマは大東寝具さんにロゴ入りで制作してもらったもの。アメニティはよーじやさん。
京都のもので占められている良さは、使ってよかったものを滞在中に買いに行けることです。滞在中の行先のヒントを散りばめたようなお宿だなとお話を聞きながら感じました。京都のものばかりだからこそ、京都に住んでいる方が泊まりに来ても新鮮味があるのです。こんないいものが京都にあったなんて!と目を開かせてくれるはず。
生まれたときから京都を愛してやまない西澤さんの京都愛を一層大きくした経験が、社会人になって姫路で暮らしたことだったそうです。
「京都の外に出ると、京都はすごくよかったなと思うことが多かったんです。姫路で宿をやってもメイドイン姫路で宿を埋め尽くすことはできないと思うんですが、京都はできちゃうんです。それが京都力だなと思いました」
光と影を知っているからこその京都愛
西澤さんの京都と観光への思いの強さは、「ただ好きだから」に留まりません。悩んだ期間と大学院での学びを経たからこそ、揺れない信念になっています。
西澤さんはお宿をオープンして2年ほどたったとき、宿のことを考え直すようになりました。ちょうどそのころ、京都で宿泊施設が増えすぎて、地元の方から観光への風当たりが強くなっているころでした。西澤さんは今後新たな宿に着手するか構想していたものの、そもそも宿の運営自体が、地域の方に迷惑をかけているのかもしれないと思うようになったそうです。
「空き家問題解消、町家の保存のために宿を始めたのに、社会課題を生むようなことをしてはいけないと思いました。1軒なら大丈夫でも、何軒も増やすと、もしかしたら抜け目が出るかもしれない。じゃあそれは自分のすべきことなのか、と悩んでいたんです」
そして京都大学観光MBAが新設されることを知り、突破口を捜しに、2019年に入学。さらに2020年にコロナによって旅行がストップしたことも重なり、新たな視点と時間を得た中で、より立ち止ってじっくり考える機会になったそうです。
「コロナ前後で観光客の数や状況は真逆になりましたが、問題の本質は変わっていないと思います」と西澤さん。地域に住む人たちと観光客とがいかに調和していくかが根本だということです。
2021年に大学院を卒業し、今度は学んだことを実行するフェーズへ。最後に今後の展望を聞いてみました。
「地元の人が気軽に入れる空間をつくりたいです。地元の人と旅行者が交流する形が一番いい形だと思っているので、カフェやコワーキングスペースがついた、観光案内所を作りたいと思っています」
旅行会社、一棟貸し、大学院。様々な切り口から観光に携わって来られた西澤さんにしか作れない注目スポットになること間違いなしです!
Impactー地域への影響
RIKYUさんは宿の中を京都のアイテムでそろえることで、京都の中で経済の循環が起きるようにしています。泊まったお客さんが「京都のものをもっと知りたい」「ほしい」と思うように、「良いものをつくっている人に会いに行く」という観光をRIKYUさんは促してらっしゃいます。まさに観光の本質である、地域の資源に光を当てる役割を果たしてらっしゃいますね。
Insightー学びたい点
地域貢献のお宿として学べる点を3つにまとめてみました。
①お客さんごとに作るガイドブックと行程表
②五感で受け取る情報を発信
③観光の本質を捉える眼
①お客さんごとに作るガイドブックと行程表
西澤さんは、お店や、お寺のライトアップ・期間限定拝観などの観光情報を、お客さんに合わせてまとめてガイドブックと行程表にし、チェックインの時間に観光案内をしてらっしゃいます。旅行会社での経験を存分に生かして、お客さんのためにお宿の中でも外でも最高の時間をプレゼントしてくださるのです。一棟貸しは時間を気にせずお話しできるため、丁寧でゆったりとしたおもてなしを受けてお客さんがリピーターになってゆき、西澤さんが観光案内として提案する精度も上がるというよい循環が起きています。
②五感で受け取る情報を発信
RIKYUさんはチェックインでの言葉や写真での情報だけでなく、宿のすべてを使って京都の魅力を発信しています。「体験」という宿泊施設の一番の強みです。見るもの、使うもの、触れるもの、すべてがMade in Kyoto。だからこそ「ほしい」と思わせるほど魅力をお客さんの心に掻き立てます。京都愛って伝染するんだなと私は西澤さんに会って学びました。
③観光の本質を捉える眼
豊かで持続可能な観光にとって欠かせないのが、地域との調和だとオーバーツーリズムのときから考えてらした西澤さん。地元の人と観光客との対立は、対話がなかったからだと本質を突いて語ってくださいました。地域と調和した観光が求められるのはコロナ前後で変わらないので、地に足つけて今できることを着々と進めてらっしゃいます。
お宿データ
スタイル:一棟貸し
開業:2016
アクセス:京阪祇園四条駅から徒歩10分
定員:4名
価格帯:1.5~6万円/1泊1人あたり
公式HP:https://kyomachiya-suite-rikyu.com/
https://kyomachiya-suite-rikyu.com/
参考情報
西澤さんへのインタビュー動画はこちら!
地域と調和した、京都の宿泊施設の魅力を発信していくオンライン配信番組「泊っていいとも!#9」です。