真夏の夜の夢
夢に元カノが出てきた。
曰く「どこでもいいから遠くへ逃してほしい」という。
ワケありの環境で生きてきたワシには、やはりワケありの古い知人が多く、
地元を追われ新たな生活を始めた人に出くわすことや、そういう話を聞く機会は多かった。
危険なことや辛いことから逃げること、そこから人生をやり直すことは生きるためには必要なことだと多くの知人から学んだ。
彼女は多くを語らなかったが、おおよそのことを察したワシは、彼女の願いを叶えることにした。
「わかった、ワシに任せとけ。面倒は全部見てやる!」
ワシには2人だけ過去に結婚を考えた女がいた。
そのうちの1人が彼女だ。
付き合っている頃は、毎日遊んでいるのが本当に楽しかった。
ただ、ワシがアラサー、彼女は現役女子大生で、年齢的なギャップを感じていたことも事実で、
若い彼女の貴重な時間をワシのようなオッサンが奪っていいのだろうか、という葛藤もあった。
ヘタレだったワシには、彼女を幸せにする自信がなかったんだ。
だが、今のワシに失うものは何もない。
もしかしたら、ワシはこの時のために独りを貫いていたのかも知れない。
iPadを片手に、足りない頭をフル回転させ、どうすれば彼女を安全に逃すことができるか考えた。
大事な仕事にも穴を空けるが、こいつを守るためならワシも心機一転やり直すつもりだ。
ワシは助手席に彼女を乗せ、夜の街を走り出した。
全てを捨ててひたすら走る。不安よりも清々しさでいっぱいだ。
助手席で寝ている彼女の顔も、心なしか安らいで見える。
「安心しろ。これからはワシがそばにいる。」
小さくつぶやいた。
夜が明けると、ワシらは山間の小さな村にいた。
都会と違い、時折吹く風が涼しさを運んでくれる。
新しく借りた部屋にて、着の身着の儘で座り込む。
何もかもを捨てて、これから2人で新たな人生を歩もう。
彼女の笑った顔は、あの頃のままだ。
その笑顔を見て安心したワシは
あー!腹へった!
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