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100日後に散る百合 - 4日目
お寿司は好きだ。
特にサーモンが好き。
私の親は、サーモンは生臭いと言うが、
私はむしろそれが好きだ。
まあ別に親の好みはどうでもいいんだ。
あとは、イクラ。
あとは、ホタテ。
あとは、白身魚全般。
お寿司を食べると幸せになる。
生の魚とご飯を一緒に食べているだけで、幸せだなんて、
私は日本人で良かったと思う。
どうして寿司の話になったかと言うと、
立川のカバンに、寿司がついていたからだ。
正確に言うと、寿司のストラップ。
すしのすとらっぷ。
すしらっぷ。
へい、よー、よー。
すしだよー。
……………………
…………特に上手いことが思いつかなかった。
ストラップのネタは、
エビと、イクラと、鉄火巻きだった。
全体的に赤いな。
立川は寿司が好きなんだろうか。
好きか。
嫌いだったらストラップ付けないか。
立川と図書委員になったはいいものの、
まだ委員会活動もないし、
話す機会が無い。
いや別に、私が話しに行けばいいのだけど、
話しに行く理由もないし、
別に私は、立川とお話がしたいわけじゃない。
今のところは、
とりあえず彼女を遠くから眺めているだけで十分。
過剰な欲求は、得てしてプラスにならない、
ということは経験から分かっている。
そして、
立川をずっと眺めていて、
分かったことがある。
立川は誰とも話していない。
いやお前もだろ。
と思った諸君、
うるさい。
金子萌花には友達がいないからいいのだ。
いや、正確にはちょっといる。
0人ではない。
立川が誰とも話していないのは、
いくつかの理由が考えられる。
1.本当は話しているが私がその瞬間を見ていない
2.立川に話しかける人がいない
3.立川には友達がいない
4.本当は話しているが私にはその相手が見えない
5.立川のことが皆には見えていない
6.私が見ているのは立川ではない
7.私は何も見ていない
1は、違う。
なぜなら私は、立川のことをずっと見ているから。
…………あとは否定できない。
まあ、6は、私が見ているのが立川ではないにしても、
立川だと思っているものが、誰とも話してないのだから、
実質的な問題は変わらないだろう。
2と3は、否定できないが考えにくい。
あの美少女、立川咲季に
友達とか話し相手がいないとは考えにくい。
逆に、そういうのが多そうな人種だと思う。
1年の時の同級生も、このクラスにいるだろう。
と、なると、
残る可能性は…………
まあ、いいや。
立川が誰とも話していないなら、
それはそんなに問題じゃない。
私にとっては、
「立川が誰かと話している」、
そのことの方が問題だと思う。
誰とも話さない立川が何をしているかとうと、
ずっと何かを書いている。
書類かなにかだと思うけど、
黙々と書いている。
立川は字を書くとき、
机と顔の距離が近い。
机になりたい。
ちなみに私の席は、
立川よりも前の方にある。
休み時間を除いて、
私がどうやって立川を見ているかというと、
窓だ。
窓の反射だ。
立川は美少女だから、
窓に映っていてもよく見える。
美少女すごい。
その日も、特に何があるわけでもなく、
学校が終わった。
立川は早々に帰った。
週末を挟んだら、
もう授業が始まってしまう。
面倒くさいなあ。
授業が始まったら、
窓の反射を利用して立川を眺めるのも少し危険だ。
立川。
立川ぁー。
あー、机になりたい。
ふと気がつくと、
私は立川の机の前にいた。
もし、リコーダーが入っていたら、
舐めてしまうかも知れない。
リコーダーが入ってなくても、
机を舐めてしまうかも知れない。
べろべろ、と。
あれ?
机の脚に、黒い物体があるのを見つける。
忌々しき甲虫かと、
一瞬、叫びそうになったが、
よくよく見ると、
軍艦だ。
いや、船じゃなくて。
イクラだ。
立川のストラップだ。
これは、拾って渡してあげるべきなのか?
いやでも、立川の机のすぐそばにあるし、
立川も後日気付くだろう。
机の上にでも置いておこう。
置いた。
少し、指で机を撫でた。