100日後に散る百合 - 6日目
休日は暇だ。
私は部活動にも入っていないから、
基本的に休日は暇である。
友達もいないし。
いや、いるにはいる。
暇な日は、凝った料理をすることが多い。
あと、お菓子も作ったりする。
料理は好きだ。
あまり深いことを考えなくていい。
お菓子はちょっと、面倒だけど、
大抵の料理は、多少大雑把でもなんとかなる。
包丁で切る、
フライパンをあおる、
あくを取る、
料理中の作業は、
私にとっては、ストレス発散になっている気がする。
今日は、豚ロースのワイン煮込み。
もうだいぶ暖かくなってきたから、
そろそろ煮込み料理も納めなければならない。
まずは、お肉。
今日は豚だけど、勿論、牛でもなんでもいい。
ブロック肉を用意。
フォークを握りましたら、
ブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブスブス。
刺す。
今日のお肉が、「今がお買い得!!」と掲げた上で、いつも通りのグラム138円で売っていたことを思い出しながら。
コンビニの傘立てから私の傘がパクられたことを思い出しながら。
自販機でショーケースの中は普通の綾鷹だったのに、買ったら「にごりほのか」が出てきて萎えたことを思い出しながら。
2年の担任が、私の気に入ってた先生じゃなかったことを思い出しながら。
この前、ギャル子が私の机の脚に勝手に躓いたくせに、ちょっと私を睨んできたことを思い出しながら。
立川咲季の顔を思い出しながら。
それで悶えた私を思い出しながら。
刺す。
ブスブス。
刺したら、
一口大より一回り大きめに切る。
つまりは、1.5口大の大きさに切る。
バットに切ったお肉を入れて、
塩と胡椒を多めにかける。
そしたら、スパイスとハーズをぶっかける。
なんでもいいけど、
ナツメグとタイムは欲しい。
私は、あとオールスパイスとローズマリーも添える。
お酒を少しまとわせて、
オイルを回しかける。
ちょっとぺたぺたしてあげて、
肉に水分を含ませる。
ラップをして寝かせる。
他の料理の下ごしらえが終わったら、
さっきの肉を深手のパンで焼く。
火入れはしっかりする必要はないけれど、
焼き目はこんがりとつける。
焼けたら救出。
スパイスとハーブの少し焦げた香ばしい匂い。
この時点で食べてもきっと美味しい。
同じパンで、微塵切りしたセロリと玉ねぎを炒める。
飴色になったら、肉を戻す。
それとニンニクを入れる。
あとは、にんじんとじゃがいも。
にんじんは一口大でいいけど、
じゃがいもは煮崩れるから、結構大きめにした。
ここで赤ワインを投入。
今日はお父さんが貰ったワインを使う。
仕事の取引先の付き合いで貰ったらしいけど、
お父さん含め、うちの家族は酒が弱いので、
だいたい料理に使ってしまう。
ワインがないときは、
100%ぶどうジュースとファンタグレープと料理酒を合わせて入れる。
ぶどうジュースがあれば、ファンタグレープは要らないのでは?
いや、要るには要る。
炭酸を煮込み料理に使うと、美味しくなる的なやつだ、
理由はよく知らないけど。
ビールとか、コーラを入れたりするレシピも最近は多い。
あとは、ファンタグレープはもとから甘いから、
砂糖を別に入れる必要がなくなる。
ただ、ぶどう感が足りないので、
果汁100%のジュースを結局使う。
でも、今日はワインがあるのでワイン。
炭酸は、冷蔵庫にあったジンジャーエールでも入れてみよう。
意外といける気がする。
ぶどう感。…………武道館。
ひと煮立ちしたら、
野菜ジュースを入れる。
これは砂糖とか入ってないやつ。
そして、大事なオイスターソース。
で、隠し味のチョコ。
蓋をして、弱火で1時間煮込む。
ぐつぐつ。
楽しみだな。
SNSを適当に徘徊するのも飽きてしまって、
テレビをつけた。
バラエティ番組にマジシャンが出ていた。
おお、財布が燃えてる。
あ、大丈夫だったらしい。
マジシャンの手って綺麗だなー。
女の人より綺麗なんじゃなかろうか。
というか、そもそも私の手はどうなんだ。
次は、なんかメンタリズム的なことをやっている。
何本かペットボトル飲料を並べて、
タレントが選ぶものを当てるそうだ。
ジンジャーエールと水とコーラとファンタと綾鷹がある。
なんだか、今日の私を見透かされた気分だ。
もう、メンタリズムが始まっているのか???
タレントは、最初にファンタを取ったが、
綾鷹に変えた。
マジシャンは後ろを向いたまま答える。
「選ばれたのは、綾鷹でした」
とか言ったら面白いな。
『選ばれたのは、綾鷹でした』
…………つまんな。
次はトランプらしい。
ん、これは見たことがある。
サインしたカードを、トランプの中に入れても、
一番上に来るマジックだ。
うわー、すげー。
本当に、魔法みたい。
このタレントがサクラで、
サインしたカードが何枚もあるんじゃないのかな。
いやでも、なー、あってもなあ。
と、思ったら、カードが消えてしまった。
マジシャンは袋からペットボトルを取り出す。
さっきの綾鷹だ。
え、嘘だろ。
ラベルを剥がすマジシャン。
そしたら、中に、
サインカード入っとるやんけ!!
すご!!!
いや、もうこれサクラだろ。
綾鷹選ぶところからもう始まってんだろこれ。
私には、そんな浅はかな知恵しか浮かんでこない。
そろそろ夕飯の時間だ。
煮込みもいい具合になってきた。
あとは、櫛切りにした玉ねぎと、
ブロッコリー、マッシュルームを入れる。
この子たちに火を通す間に、
他の料理の盛り付けとかをしていく。
「ご飯できるよー」
少し大きな声で、家族に呼びかける。
返事がまばらに返ってくる。
「ん、いい匂いしてる」
お父さんが最初に来た。
「この前のワインで煮込んだよ」
「あー、そうか。萌花は煮込みが好きだな」
「ああ、うん。楽だし」
煮込みは楽だ。
材料を切って入れて待ってればいいのだから。
「お父さん、何飲む? あ、待って、当てるから」
「当てる?」
「えーとね、綾鷹」
「なんで?」
「なんとなく」
「綾鷹、あるのか?」
「いやないけど」
「ないのか」
「で、何飲む?」
「水」
「戦後か」
心を読むのは難しい。
人の心が読めたら、
立川の心が読めたら。