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夏雲を見ると思い出すのは、大切な家族と過ごした時間。
今年の1月からずっと長期入院していた父に毎日会えるようになったのは、8月に入って数日が経った頃。入院生活のほとんどを大部屋で過ごしていた父でしたが、8月のある日、突然、個室に移れることになりました。
普通だったら少し喜ばしいことなのですが、実は「いつどうなってもおかしくない状態にある」という主治医の見解から、個室で家族との時間を過ごしてもらえたら、という病院側の心遣いだったのです。
「残された時間はきっと長くはないだろう」ということは、日々の父の様子から察することはできましたが、とにかく少しでも多くの時間を過ごしたいと思い、毎日のように病室の父に会いに行っていました。
大人の私たちは、荷物の受け渡しのために「1日15分、一人で入室」という決まりの中で、病室に行くことが許されていました。特に、弟や母は毎日病院に行っていたので、どちらかが病棟に入って父に会っていたのです。夏休みの間、毎日のように病院には行っていた小学6年生の甥は、すぐそこまでいるのに、病棟に上がれず、ずっと1階の待合でマンガを読んでいました。
「じいじに会いに行けていいな。僕なんて会いに行きたくても行けないのに。」「どうして小学生は会いに行ったらいけないの?」と甥は言っていました。甥は父に会いたがっていましたし、父も孫に会いたいと願っていました。甥は父が体調をくずして入院した1月から、もう8ヶ月も会っていなかったのです。オンライン面会では、顔を見て話すことはありましたが、長い間ずっとリアルで会えなかったので、とても会いたいと願っていたようです。
本来ならば、小学生は、感染症対策のために病棟に入れないという決まりがあるのですが、8月の上旬、父にたいする余命宣告のようなことを主治医から告知されていたという事情もあり、「短時間の面会なら」個室への入室を許可していただけました。お陰で、父と甥の対面が叶いました。
8月の夏空は、それはそれはとても賑やかでした
父の病室に入れるのは一度に2人まで。二人ずつ順番に病室に入り、父との時間を過ごしていました。病室で過ごす以外の時間のほとんどは、「デイルーム」という、開放的な待合スペースで待機していました。私は、ここで過ごす時間が何気に好きでした。
待機中はデイルームの椅子に座って、窓から見える空を眺めていました。大きな窓から見える、遠くに連なる入道雲がとっても印象的で、小6の甥とアラフィフの私、二人とも想像力を膨らませて、「あの雲、○○に見えるね~」とお互いの感想をシェアしました。今思うと、この温かい時間に癒されていたんだな、私は。
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父がいなくなったことは本当につらく、悲しい。だけど、空を見上げて、少しだけ遠くの空に目を向けると、夏の大きな入道雲が、長い長い残暑のお陰で、今年はまだそこにあります。すると、甥と見たたくさんの雲たちのことを思い出すのです。雲を見て想像力をぶつけあったり、笑い合ったりしたことを。私は、今でもひとり想像力を膨らませてはニヤニヤしています。
雲ひとつで鮮明に思い出す、今年の夏の出来事であり、ひとつの習慣。それまではすれ違ってばかりで、なかなか会うことができなかった甥とたくさん話したり笑ったりして、それはそれで楽しかったです。
そして、そういう時間を過ごしているうちに、近くに住んでいるという安心感からか、疎遠になりがちな実家の家族たちと過ごす時間が、とても貴重なものだということに気づいたのです。父がいなくなってしまったのは本当に寂しいことだけれど、家族同士の絆を繋いでくれた父。今年の夏は、かけがえのない、大切な宝物のような季節でした。つらく悲しいこともあったけれど、大切なものに気づくことができたので、父に感謝。
このnoteは何度も推敲をして整えて、やっと世に出す事ができました。
奇しくも、今日は父のはじめての月命日。今日はこの後実家に行って、お線香でもあげてこようかと思っています。おはぎを買ってね。
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